第9話 スカーレット様と仲良くなりました

「あなた様はもしかして、以前令嬢が話していた、王太子殿下の婚約者のスカーレット様ですか?という事は、あなた様はこの国の王太子殿下…」


「今頃気が付いたのかい?鈍い女だな…」


「イカロス様!なんて事をおっしゃるのですか!どうやら私たちは、あなた様の事を誤解していた様ですわ。今まで、酷い態度をとってごめんなさい。これからは、仲良くして頂けますか?」


そう言って、スカーレット様が頭を下げて来たのだ。


「スカーレット、この女に一度助けられただけで、信用するだなんて…僕はまだ、信用できない」


「イカロス様、言葉を慎んでください!以前の方は、1日目から横柄な態度をとっていらしたわ。でも、アンジュ様は、一度もそんな態度を見せておりません。それに、危険を顧みず、大きな鳥から私と雛を守り、雛を巣に帰してあげたのですよ。どうみても、いい人ですわ」


なぜか王太子殿下とスカーレット様が言い争いを始めたのだ。どうしましょう、私のせいで言い争いになってしまいました。


「アンジュ嬢、血がたられております。さあ、医務室に行きましょう」


近くにいたメガネの男性…ではなくて、ダルク様が冷静に呟いた。


「でも…私のせいで王太子殿下とスカーレット様が喧嘩をしておりますわ。2人を放っておく訳には…」


「大丈夫です。彼らはいつもあんな感じなので。それよりも思ったよりも怪我が酷いです」


そう言うと、ハンカチを取り出し、傷口に巻いてくれたのだ。


「申し訳ございません、ハンカチが血で汚れてしまいましたわ。1人で医務室に行きますので大丈夫です」


彼らに頭を下げて、急いでその場を去る。医務室って、どこにあるのかしら?そう思いながらも、これ以上この国の高貴な身分の方たちにご迷惑をお掛けする訳にはいかない。


そう思ったのだが…


「お待ちください、アンジュ様。医務室はそちらではありませんわ」


後ろから付いて来てくれたのは、スカーレット様だ。その後ろから不機嫌そうな王太子殿下と、真顔のダルク様も付いて来ている。


「アンジュ様は、留学してきたばかりでしたね。もしよろしければ、後で学院を案内させてください」


「ありがとうございます、でも、スカーレット様の手を煩わせるわけにはいきませんので」


「何をおっしゃっているのですか?私たちはもうお友達でしょう?それとも、今まで酷い仕打ちをした私とは友達になりたくないのですか?」


ウルウルした瞳で、必死に訴えてくる。


「そんな、とんでもありませんわ。私の様な人間とお友達になって下さり、ありがとうございます。とても嬉しいです」


ずっとお友達が欲しかったのだ。だからスカーレット様に今、お友達だと言ってくれた事、嬉しくてたまらないのだ。


「それは良かったですわ。とにかく医務室に急ぎましょう。手とはいえ、万が一傷でも残ったら大変です」


そう言って私の手を取ったスカーレット様。温かい手…


その瞬間、涙が溢れ出した。この1ヶ月間、ずっと孤独だった。学院では無視され続け、本当に辛かった。でも…やっとお友達が出来たのだ。それが嬉しくてたまらない。


「アンジュ様、傷が痛むのですか?ごめんなさい、気が付かなくて。すぐに医務室へ…」


「違うのです、スカーレット様。嬉しくて…私にはずっと好きだった幼馴染の令息がいたのです。でも彼は…別の令嬢の事が好きで…それが辛くて辛くて。彼を忘れるために、留学してきました。大切な家族や友人たちに見守られながら、この地に来たのです。だからこそ、私を送り出してくれた皆の為にも…帰る訳にもいかず…私…」


自分でも今友達になったばかりの人に、何を話しているのだろう。そう思うのだが、口が勝手に動くのだ。心に溜まっていた悲痛な思いを一気に吐き出す。


「お可哀そうに…その様な経緯でこの地に来たとは知らず…本当にごめんなさい。傷を癒しにいらしたのに、傷口に塩を塗る様なことをしてしまったのですね…どうか、ミラージュ王国を嫌いにならないで下さい。私はあなた様を歓迎いたします」


「ありがとうございます…スカーレット様…」


「とにかく医務室に向かいましょう」


少し涙が落ち着いたところで、スカーレット様と一緒に医務室に向かった。診察の結果、傷口は深いが大したことないとの事。ただ、大事を取って大きな病院を受診する事になった。


「スカーレット様、私のせいで本当に申し訳ございません。病院には、私が付き添いますわ」


申し訳なそうにスカーレット様がそう言って下さった。


「私は1人で大丈夫ですわ。ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした」


「でも…」


「スカーレット、彼女がいいと言っているのだから、いいだろう」


少し不機嫌そうな王太子殿下が、スカーレット様の肩を抱きながらこちらを睨んでいる。私、どうやら王太子殿下には嫌われている様だ。


「それでは私はこれで」


3人に頭を下げてその場を後にしようとした時だった。


「アンジュ嬢、お待ちください。私が付き添います」


そう言って私の傍にやって来たのは、ダルク様だ。


「私は大丈夫…」


「さあ、行きましょう」


表情一つ変えずにスタスタと歩き出すダルク様。なんだかこれ以上何か言える雰囲気ではないので、そのまま彼と一緒に病院に行く事になったのだった。

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