第一章
第7話 食事風景
アインが暮らしている拠点は、シュタール王国の王都郊外にある、大邸宅だ。最初は、ただのオンボロ小屋だったのが、実績全達成のために改築していったら、最終的に今の大邸宅になったのだ。拠点の中は、三つのエリアに分かれている。居住エリア、トレーニングエリア、工房エリア。
俺が目覚めた部屋は、トレーニングエリアにある、基本トレーニングルーム。寝室ではなく、トレーニングルームで寝るのには理由がある。俺は、相棒幻獣のステータスをカンストさせるため、トレーニングルームにこもってることが多かった。しかし、あのゲームはメニュー画面を開いてる時以外は、基本的にゲーム内時間が進む仕様だった。トレーニングルームから寝室への移動で生じるタイムロスが面倒だった俺は、自然とトレーニングルームで寝るようになった。つまり、惰性だ。
朝食を作るために、トレーニングルームから居住エリアにある厨房へ移動する。厨房の冷蔵庫の中を確認すれば、食材が豊富に揃っていた。
「さて何を作るか」
ゲームでは、ボタン操作一つで、一瞬で料理が完成した。だが、俺がアイン自身となって実際に作る必要がある今は、ゲームのようにはいかない。が、俺は二十年前のガキではない。大人になって、長いこと一人暮らしをしていて、それなりに家事は得意な方だ。
「腕の見せどころだな」
数十分後。
「ん、こんなもんでいいだろ」
相棒幻獣たちと俺の朝食が完成した。
山盛りの幻獣フーズと、たっぷりの新鮮な水。分厚いハムステーキ1切れに、いなり寿司2個。ボウル一杯のキャロットスープに、小皿に盛ったピーチメルバ。これら六品を、あいつ等の分、用意する。あいつ等はたくさん食べるので、これくらいの量と品数が丁度いい。
俺の朝食は、シンプルにトーストとコーヒー。人間の食事なんてこんなもんでいいだろ。
さて、準備は整った。無事にあいつ等に、今の俺がアインとして受け入れられますように。
「食事だぞ、でてこい」
覚悟を決めて異次元ボックスを開けば、
「ご飯だあ!」
真っ先に、闇竜のイチが飛び出してくる。
「おはよう、アイン殿。今朝もありがとう」
礼儀正しく挨拶するのは、黒麒麟のクロ。
「イチは朝から元気いっぱいよのう」
目を細めて優雅に笑うのは、暗影天狐のコン。
「ゴクゴク……プハッ」
早速、スープを飲み干してるのは、星詠兎のラビ。
四者四様だが、俺のことなんか気にせず、各々食べ始めたのを見て、拍子抜けする。
ちょっと身構え過ぎたか。肩から力を抜き、俺も食事を始める。
「アイン!」
「どうした、イチ」
やっぱり、俺がゲームのアインじゃないってバレた!?
「今朝のご飯、いつものより美味しい!」
豪快にハムステーキにかぶりついたイチが、キラキラした目で俺の方を見る。
「そうか?」
よかった、違った。
「そうじゃの。いつもより、丁寧に作られておるの」
コンは、ひょいっといなり寿司を一口で平らげるなり、満足そうに目を細めた。
「いつの間にか腕をあげれましたな、アイン殿」
クロも幸せそうにピーチメルバを咀嚼している。
まあ、中の俺が成長したからね。うん。
「ごちそーさま」
早くも間食したラビは、ポンポンと、小さな前足で、少しふっくらしたお腹をさすっている。
「ラビ、もうちょっとゆっくり食え。早食いは身体に悪いぞ」
「アインの料理が美味しすぎるのが悪い」
ぐ、そう言われるとうれしいな。って、ダメなものはダメだ。
「イチ、妾のハムステーキも食うか?」
「こら、コン! 好き嫌いせずに食べるんだ」
全く、目を離せたもんじゃない。……けど、まあ、こんなに賑やかな食事も悪くないな。
なんとか全員に食べさせ終わり、俺自身の食事も終える。片付けと身支度を終える頃には、仕事の時間になっていた。
あいつ等のように、街の人にも俺がアインだと受け入れられるといいんだけど。いや、考えてたって埒が明かないのは、わかりきったことじゃないか。
深呼吸して、玄関の扉を開く。扉の向こうには、真っ青に晴れ渡る空と赤いレンガ造りの家々が広がっていた。すっと街の空気を吸い込む。
うん、悪くない空気だ。
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