第3話 過去の断片ー出会いー
【幻獣を使役する者、幻獣使い。
彼らは皆、元は非力な人間である。
その人間がなぜ、強者の幻獣を使役することができるのか?
それはひとえに、大錬丹があるからだ。
これなしに、人間と幻獣の共存は不可能である。
著者 ウィリアム・エンデ
(幻獣今昔大大全より抜粋)】
※※※※※※
大陸では、もう何年も終わらない砂漠化が続いている。人々は、幻獣使いたちが採取してくる食材や資材で、その日その日の暮らしを送れていた。
大陸の大部分を統治する、シュタール王国。シュタール王国の第ニ王子である、ニコラウス。彼は、そのことを皮肉だと思っていた。
大錬丹。非力な人間が、強力な幻獣と使役関係を結ぶために、必ず必要となる媒介結晶。大錬丹なくして、幻獣使いになる道はない。そして、この幻獣が蔓延る大陸で、人間が生きるには、幻獣使いの力が必要不可欠だった。これは、大陸で生きる人なら誰でも知っている常識だ。
だが、世には知られず、シュタール王家だけが知る大錬丹の秘密がある。
砂漠化で苦しむ人々の生活を成り立たせる、幻獣使い。その幻獣使いに欠かせない、大錬丹。しかし、この大錬丹こそが大陸を蝕む、砂漠化の原因なのだ。大錬丹は生成する際、この世界から多くの生命力を奪う。生命力を奪われた大地や海は、やせ細り砂漠とかしてしまう。大錬丹が生成されるたびに、砂漠化も進行していく。しかし、大錬丹の秘密が世に知れ渡れば、世界は大混乱に陥る。そのため、秘密はシュタール王家によって代々秘匿とされていた。
シュタール王国第二王子、ニコラウス。産まれた時より、彼は、幻獣使いとなることが定められていた。その定めゆえに、王家の中でも数少ない、大錬丹の秘密を知ることが許された一人であった。ニコラウスは、彼の父である、王から幼少の頃より、王国がもてる最高の教育を施された。ニコラウスは、一から十を知る神童で、王の期待に応えて、次々と知識と力を身につけていった。
『ニコラウス。お前は、大陸一の幻獣使いになった。今こそ、お前の力を持ってして、砂漠化の進行をくい止めるのだ』
そう王命を、ニコラウスが王から拝命したのは、彼が15歳の時だ。
ニコラウスは、この王命を遂行するには、大錬丹により世界から失われる生命力をコントロールする必要があると考えた。そこで、彼は大陸の大錬丹と幻獣使いの数を常に一定に保ち、管理することにした。
実行に移った彼は、素早く行動した。
まず、大陸に散在してあった、幻獣使いたちの組合を一括りにまとめあげ、幻獣使いたちの総本山となる組織、ウィルヘルムを結成した。
次に、大陸全ての幻獣使いたちをウィルヘルムに加入させ、ウィルヘルムの管理下に置いた。
ウィルヘルムは、力のある幻獣使いには仕事を進んで与え、力のない幻獣使いからは大錬丹とその幻獣を剥奪した。その結果、ニコラウスは、大錬丹と幻獣使いの数を常に一定に保つことに成功した。
全ては順調に行っていた。ニコラウスが彼の存在を知るまでは。
※※※※※※
ある日、ニコラウスの執務室で。
ニコラウスは、近衛兵団の兵団長から報告を受けていた。
『ウィルヘルムの管理下にない、幻獣使いがいると言うのですね』
『はい。アインという名の少年です。歳は14。黒髪に紫の瞳をした、珍しい見かけの少年でして。大陸の外からやって来たものと思われます』
『大陸の外から来た少年なら、ウィルヘルムの管理下になくても、不思議ではないでしょう。しかし、大陸の幻獣使いは全てウィルヘルムの管理下になければなりません。彼に、加入するよう伝えましたか?』
『はい。そう思って、既に、部下に彼と話をしにいかせたのですが……。部下の報告によると、あの少年は、ウィルヘルムに加入する気は一切ないと、明言してはばからず。あまつさえ、ウィルヘルムは非人道的な組織だと言いふらす始末でして』
『……そうですか。それは見過ごせませんね』
『はい、たちが悪いのは、その少年に同調する輩が、少数ですがいることです。少年と彼らは、そこら辺の幻獣使いより腕が立ち、周囲にも影響を及ぼし始めています』
『なるほど。この件は、穏便にすませるわけにはいきませんね。私が直々に、その少年、アインを捕らえましょう』
『殿下が、現場に出向くほどのことではありません! 私共でーー』
『貴方がたには、他にもやってもらいたい仕事があります。それに、私が出向く方が、ウィルヘルムに刃向かうものがどうなるのか。良い見せしめになるでしょう』
慌てる兵団長をよそに、ニコラウスは執務室を後にした。
ーーアイン。全く厄介な種だ。
※※※※※
『君の負けだよ、アイン』
ニコラウスは、剣の切っ先をアインの喉元に突きつける。アインはニコラウスに踏み倒され、身体の自由が効かない様子だ。それでも、アインに降伏する気配はない。彼の幻獣は皆、ニコラウスの幻獣により拘束されていて、彼に勝ち目などない状況だと言うのに。
アインの菫色の瞳は絶望に染まらず、不屈の闘志に燃えている。
『大人しく降伏するなら良し。さもなくばー』
『お前が顔無しになるかだ!!!』
ニコラウスは反射的に、横に飛び退いた。
ガチン!!
鋭い牙と牙がぶつかる音が響く。見れば、ニコラウスがさっきまで立っていた背後に、禍々しい闇竜が戦闘態勢で立っている。
彼の幻獣は全て捕らえたと思っていたが、まだ残っていたとはーー
『グオォーーー!!!!』
闇竜が咆哮する。それが合図だった。アインの幻獣が一斉に、そのボロボロの身体のどこに残っているかわからない力で反撃し、ニコラウスの幻獣の拘束から逃れだす。
逃がすものか!!
ニコラウスは、彼の相棒幻獣の聖竜に目配せし、闇竜に向かっていく。が、ニコラウスが闇竜を捕らえるよりも早く、アインが闇竜に飛び乗り、空へと飛び立つ。その差はわずか一秒。
『皆、異次元ボックスの中に戻れ!』
アインは彼の幻獣たちを皆、一瞬で異次元ボックスに回収するなり、そのまま飛び去って行った。
『ニコラウス、追わなくていいのか?』
聖竜が飛び立つ準備はできてると、ニコラウスに告げる。
『いいんだ、シュテルン。彼らはあの怪我だ、そう遠くまで行けないよ。それに、あの怪我を治療するには、設備が整った医院へいかなくては行けない。それなら、追って余計な体力を使うよりも、待ち伏せした方が早い。君たちだって無傷ではないんだから』
ニコラウスはシュテルンの前脚を一撫ですると、踵を返して他の幻獣たちの元へ向かう。
『本当に厄介な種だな、彼は』
アインは何もかも、ニコラウスの予想を超えていた。ニコラウスと同じ位の力を有していることもそうだが。まさか、闇竜を使役していたとは思わなかった。
闇竜。砂漠化の原因と、世の中では忌み嫌われている、世界の生命力を奪う竜。
その嫌われようから、使役するものなど、これまで誰一人としていなかったのに。
そして、アインが使用した、異次元ボックス。あれ程の収納量がある、異次元ボックスの使用者は、恐らくアイン一人だけだ。固有能力といってもいい。
ーーアインは全く厄介な種だ。
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