【第四章:ターゲット発見(4)】
次の週の月曜日の放課後、保健室には真中しずえと空木カンナの他に四人の生徒がいたため、保健室はいつもよりも少し
「えっと、何で僕はここに呼ばれてるんだろうか」と、田中洋一(たなか・よういち)が
「えー、さっき説明したのに理解できなかったの?血糖値を測定するんだよ。けっ・とう・ち。血の中の糖、シュガーのことね、がどれくらいか測るんだよ。」
「それは何回も聞いたからわかってるよ。僕が聞いてるのは、何で僕が呼ばれたのかってこと。」
「人数が多い方がサンプル
「それ、答えになってないと思うんだけど・・・」と、田中洋一が食い下がったが、
「まあ、楽しそうだから一緒に血糖値を測ってみようよ」と沢木キョウが言うと、「さすがキョウ君。話がわかるね」と、どこかで聞いたやり取りが、再び真中しずえと沢木キョウの間で行われた。
そんな会話をしていると、彼ら・彼女らの担任の先生であるである池田勇太が保健室に入ってきた。
「お、みんな
「私たちが来たときはいたんですけど、さっき『すぐに戻るね』と言って保健室を出て行きました。」
「トイレかな?」
「先生、そんなデリカシーのないこと言ってると
「え、そうなのか?今のは
「何を内緒にしたいんですか?」と言いながら、立花美香は笑顔で保健室に入ってきた。池田勇太は「いえいえ、何でもないですよ」と
「あちゃー、しっかり聞かれてる」と真中しずえが言うと、
「さて、
「今日は血糖値を測定したいんですよね。なんで血糖値を測定したいかは池田先生に聞きました。本当はね、保健室で私がみんなの血糖値をはかるのはルール上はちょっと
立花美香は、最後の方はいつもの穏やかで上品な笑顔に戻っていたので、少し
「何か質問はありますか?」と立花美香が聞くと、羽加瀬信太は「血糖値って血の中の糖を測るんですよね。それって
「注射とは違うわね。注射はお薬とかワクチンとかを体に入れるものだけど、血糖値の測定は、血をとってその血の中の糖の量を測定するの。」
「
「大丈夫よ。指の
「じゃあ、池田先生にトップバッターになってもらいましょうか。生徒たちに良い見本を見せてあげないといけないですからね、
固まっている池田勇太を
「あそこのテーブルに箱がありますよね。あの箱、とっても美味しそうなどら焼きが入ってるんです。池田先生が持ってきてくれたんです。ありがとうございます」と話した後、笑顔のまま池田勇太の方を向いた。
すると、固まっていた池田勇太は急に
真中しずえは「そういうときは手土産って言わないわよね。同じ学校の先生同士で学校の中で会うのに」とヒソヒソと空木カンナに話しかけていた。
真中しずえと空木カンナの会話に気づいていないかのように、立花美香は話を続ける。
「それでね、今日はみんなの血糖値を二回測ろうと思ってるの。いいかしら?」
「
そして、「一回目の測定のあとで、池田先生が持ってきてくれたどら焼きをみんなで食べましょう。それから一時間後に二回目の測定をしようと思ってるの」と続けた。
「なるほど、甘いものを食べたら血糖値が本当に上がるかどうかを調べるってことですね。いや、
そんな池田勇太の様子には気にも
「あら、七つしかないわ。どうしたのかしら。誰か食べちゃったの?」と生徒たちに聞く。みんなブルブルと首を横に振った。
「そうよね、みんな良い子だから勝手には食べないわよね。まあいいわ。今日は六人集まってくれたから、いずれにしてもどら焼きは足りるわね」と立花美香が言うと、「残り一つはぜひ美香先生がお食べになってください。ここのどら焼きとても美味しいんです」と池田勇太は力強く言った。
「ありがとうございます、池田先生。でもそうすると池田先生の分はなくなってしまいますけどいいんですか?池田先生、優しいんですね」と答えると、池田勇太は
「さて、じゃあ、誰から測定を始めようか?」と沢木キョウが言うと、真中しずえは「洋一君にしようよ。一番普通っぽい数字を出しそうだし」と言った。「それ、僕が最初に測定する理由になってないと思うんだけど」と田中洋一は言ったが、特に
「はい、じゃあちくっとしますよ」と、田中洋一の左手の
「いてっ」と田中洋一が小さく言うと、薬指の腹から血がぷくっと出てきた。
「おー、すごい百点だ。洋一君、テストでは一回も百点を取ったことないよね。これが初めての百点じゃない?おめでとう!」と真中しずえが、大げさにからかいながら言うと、「余計なお世話」と田中洋一はいつものお決まりのやり取りをした。そして、「立花先生、この『100』ってどういう意味なんですか?異常なしの百点ってことですか?」と、立花美香に聞いてみた。
「ふふっ、これは点数じゃないのよ。血糖値の値。単位はmg/dL(ミリグラム・パー・デシリットル)。田中君の場合、今は百ミリリットルの血液中に、
そして、そのあとは、どんどんと生徒たちが血糖値を測定していった。みんなの血糖値の数字は、『95』から『105』くらいのレンジに入っていた。
最後の空木カンナの測定が終わると、立花美香は「池田先生はどうしますか?
池田勇太は「もちろん測ってください。怖くなんか全然ありませんから!」と強がって答えたが、立花美香がペン形の器具を手にしたときから、指の方は全く見ずに固まっていた。
真中しずえは、またしても『やれやれ』という表情で空木カンナの方を見た。しかし、空木カンナは真中しずえの方には
真中しずえは不思議に思って「どうしたの、カンナ?」と声をかけようとしたが、そのとき『ピッ』と機械音がして『138』という数字がモニターに出てきた。
「あら、ちょっと数値が高いですわね。池田先生、もしかして糖尿病っぽかったりしますか?」
「いえ、そんなことはないと思いますけど・・・。」
「おかしいですね。まあ、またあとで測定しましょうか。じゃあ、みんなのお待ちかねのどら焼きタイムといきましょう。池田先生は私と半分こしますか?」
「え、いいんですか?」
「ええ、私、そんなに一度には多く食べられないので。あ、でも先生の血糖値はちょっと高めでしたから、
「はい。ぜひぜひ。」
池田勇太はひたすらデレデレしていた。
***
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます