【第三章:仲間(4)】
また何か問題があったのかなと思いながら、沢木キョウが自分の机の方に歩いていこうとしたとき、自分の机の上に自分の
「洋一君、おはよう。これ何?」と、田中洋一にあいさつをしながら、机の上にある椅子を
「わからない・・・。僕もいま
「みんなの机に椅子があったの?」
「
「四人だけ?羽加瀬君のは?」
「乗ってなかったみたい。」
「そっか。ま、とりあえず椅子を下ろそう。」
と、言って沢木キョウは自分の椅子を下ろした。それを見て田中洋一も椅子を下ろすと、「はい、これ使って」と言って沢木キョウはウェットティッシュを一枚出して田中洋一に渡してきた。
「椅子の足の
「あ、ありがと。いつもウェットティッシュを持ち歩いてるの?」
「うん。アメリカにいたときからだよ。向こうでは、こういう持ち運びしやすいタイプのウェットティッシュってあんまり売ってないから見つけるのに苦労してたんだけど、日本ではどこでも買えるから便利だね。」
「そ、そうなんだ。」
そんな会話をしながら、二人が自分の机をウェットティッシュで
「あんたたちがやったんでしょ。何でこんなことをするの?」
「知らねーよ。
「そうだよ。お前らのこと
ゲラゲラ笑いながら、一ノ瀬さとしと酒見正は、真中しずえに向かって言い返していた。
「よくもそんなことを言えるわね。あんたたちに決まってるでしょ。」
「何が、『決まってるでしょ』だよ。証拠はないんだろ。」
「証拠なんていらないわ。昨日のことが頭にきて、こんなことをしたんでしょ。机の上に椅子を乗せるなんて、あんたたち六年生にもなって子供みたい。」
「お前だって子供だろ。」
「あんたたちよりはずっと大人よ。」
そんな言い争いをしているときに、空木カンナが教室に入ってきた。
「あれ?私の椅子が机に
「カンナも何か言ってやって!」と、怒った表情のままの真中しずえにそう言われた空木カンナは、「え?」と返事をしてから、ちょっと考えて、「みんなの椅子が机の上にあがってたの?」と真中しずえに聞き返した。
「違うわよ。カンナと私、それに沢木君と洋一君の四人の椅子だけが机の上にあげられてたの。それも、掃除のときに椅子を机の上に上げる向きじゃなくて、こんな感じで適当な向きによ。こんなの誰かが
「俺もそう思うよ。お前ら
「あんたは
「科学探偵の話は今はしてないでしょ。私たちがやってること馬鹿にしないでよね。それに、何が犯人探しよ。あなたたちがやったに決まってるでしょ。」
「おいおい、勝手に犯人扱いすんなよ。証拠がないだろ。そんなんで探偵なんて名乗ってもいいのかよ。」
「うるさいわね。どうせ、あんたたちが昨日のことを根に持ってやったんでしょ。それが証拠よ。」
「おいおい、そんなの証拠にならないぞ。それに、昨日のことが原因だって言うんなら、羽加瀬がやったのかもしれないぞ。昼休みに俺たちと楽しく遊んでたのに、お前らに
「よくも、そんな
「ど、どうしよう・・・」と、自分の席のところに戻って座っていた沢木キョウに、田中洋一がオロオロしながら話しかける。
沢木キョウは
「まあ、もうちょっと様子を見てみようか。」
「えー、そんなんで大丈夫?」
「昨日みたいなことにはならないと思うよ。一ノ瀬君、今日は
「う、うん・・・たしかにそうだけど。でも、本当に信太君がやったりしたのかな。」
「ははは、そんなことはないだろうね。」
「じゃあ、やっぱり一ノ瀬君たちがやったの?」
「おそらくね。まあ、空木さんに言ったら証拠はないんでしょって言われちゃうけど。」
「何か楽しそうだね。」
「そう見える?」
「うん。キョウ君の椅子もいたずらされてたのに、どうして?」
「どうしてだろうね。空木さんが何か
「え、それって、どういう意味?」
「あ、空木さんが何かしようとしてるよ。」
「え?」
田中洋一が空木カンナの方を見ると、空木カンナが真中しずえに向かって話しかけようとしているところだった。
「しずえちゃん、ちょっといい?」
「カンナ、あなたはどう思うの?この二人だよね、やったの。」
「うーん、証拠がないんだよね。」
「こんなことするの、この二人しかいないじゃない!」
「おいおい、学級委員長さんよ、証拠もないのに犯人扱いか。科学探偵クラブの名前が泣いてるぞ。科学の力を使って犯人は探せないのかよ」と、今度は一ノ瀬さとしがニヤニヤしながら真中しずえをあおった。
「あなたたち、いい
「しずえちゃん、もしかしたら本当に羽加瀬君が犯人かもよ。」
「え、急になに言ってるの、カンナ。そんなわけないじゃない。」
「お、話がわかるじゃないか。お前もそう思うよな。羽加瀬が
しかし、空木カンナは、そんな酒見正には目もくれず、羽加瀬信太に向かって「羽加瀬君、ちょっと手を出して」と話しかけた。
「え?」と聞き返す羽加瀬信太に、「はやく両手を出して」と、
羽加瀬信太は言われるままに両手を出すと、空木カンナはポーチから何やら小さなプラスチック
羽加瀬信太が空木カンナの言う通りにすると、「うん、これで大丈夫。よかった。でも、まさか羽加瀬君がこんなことするなんて思わなかったな。ちょっと
真中しずえが何かを空木カンナに言おうとしたとき、「お、おい、今の何だよ」と、ちょっと焦った様子で、酒見正が聞いてきた。
「何でもないよ。」
「何でもないわけないだろ。羽加瀬に何したんだよ。」
「別に。ただの
「解毒?解毒って
「まあ、そんなところ。羽加瀬君が犯人だったんなら、私の椅子を
「お、おい、ど、ど、どういう意味だよ。」
「どういう意味って言われても、そのままの意味なんだけど。それに、あなたは犯人じゃないんでしょ。大丈夫よ。それとも、もしかしてあなたが犯人?」
「え、いや、えっと、俺は犯人じゃないぞ。だけど、ほら、解毒って言われたらちょっと気になるじゃん。」
「あ、池田先生が来た。」
「え?」
すると、「おーい、朝の会を始めるぞー」と今日も間の抜けた声で担任の池田勇太(いけだ・ゆうた)が教室内に入ってきた。そして、教室内の
「空木さんが
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