鴨島隼の奇妙な日常
明通 蛍雪
第1話:デリカシーのないイケメンと友達になりまして
俺が高校で出会う、奇妙な奴らとの奇妙な日常。こいつらのせいで、俺の人生は変わってしまった。
*
鴨島 隼(かもしま はやと)は足裏に当たる違和感に顔を顰めた。
晴れて高校進学を果たし意気揚々と登校してきたは良いものの、朝のHR中ずっと後ろの席に座るクラスメイトの足が当たっていた。
「あの!」
「ん?」
意を決して隼が振り返ると、椅子に浅く腰をかけ、背もたれたにベッタリと寄りかかった金髪のイケメンが不思議そうな顔で隼を見つめていた。
前髪を立ち上げ七三に分けられており、若かりしレオナルド・ディカプリオを彷彿とさせるイケメンだ。
「あ、足が……」
入学式の時からこのイケメンは注目を集めていたが、至近距離でまじまじと、それも面と向かって目を合わせたのは初めてで、隼は言いかけた言葉が出ず吃ってしまう。
「あ、あ、あの!」
「おう。聞こえてる」
「足が当たってるんですけろ!」
噛んだ。
「ああ、悪い。足が長くてな」
「なんで悪びれてないんだよ! どかせ!」
わずかに恥を晒した隼は吹っ切れたのか,イケメンに気圧されることなく言い返した。
「じゃあもうちょっと下がるよ」
「そうしてくれると助かる」
イケメンは言いながら机を後ろに下げた。隼はこれでよしと前を向き直すが、変わっているのは机の位置だけ。長い足は未だ隼の足下に届いている。
「まだ当たってるんだけど!」
「お前も前に足出せば良いんじゃん?」
「なるほど!」
「俺と違って足短そうだし」
「失礼な! 俺は足が短いんじゃなくて身長が小さいだけだ!」
「それボケ? ツッコミ待ち?」
「ボケてないわ!」
「はは、お前変な奴だな」
「お前にだけは言われたくないわ!」
イケメンにいじられる凡人という構図で騒々しい二人を、クラスメイトたちは遠巻きに眺めていた。そして、イケメンを見にきた他クラスの生徒(主に女子)も、教室の外から二人(主にイケメン)を眺めていた。
「俺、熊 凛太郎(くま りんたろう)。友達からは熊とか凛って呼ばれてる。お前は?」
「俺は鴨島 隼。中学の時は、カモって呼ばれてた」
「カモかぁ。食われる側だな!」
「そうだな」
もはやツッコむ気力もなくしたか、雑な返しで相槌を打つ。
「今度ネギ背負ってきてよ」
「早速弄ってきやがる! 人の名前で遊ぶな! デリカシーないぞ!」
「カモシー反応はやっ!」
「変なあだ名をつけるな! 鴨川シーワールドみたいになってるだろうが!」
「今日から俺たち友達な! カモシー!」
「お、おう……」
今まで呼ばれたことのないあだ名をつけられ、嬉しさと戸惑い半々の隼だったが、熊の見た目にそぐわない純粋さと陽気さに当てられ言葉に詰まってしまう。
「ところでカモシー。さっきから教室の外にいる人たちは何をしてると思う?」
「はぁ? 嫌味か? 自慢か? なんだやんのかこら」
「何怒ってんだよ」
唐突に何を言うかと思えば、熊は教室の外を指差し、引き戸の影や人の隙間から顔を覗かせたり、興味ないふりをしながらも通りかかりにチラ見をしたりと、明らかにその視線は熊を向いている。だが、
「俺が思うに、みんなカモシーを見に来てると思うんだ」
「んなわけないだろ!」
「だって歩く鴨川シーワールドだろ?」
「自分がつけたあだ名で人を弄るな」
「それにほら、カモシーって死んだ魚みたいな目してるし」
「貴様は水族館に死んだ魚を見に行くのか?」
「行かねぇ!」
「それに俺は死んだ魚の目はしてない! この曇りなき眼をちゃんと見ろ!」
「カモシー顔近ぇ!」
「全く、俺だってお前みたいな面のいい顔をマジマジと見れて幸せですよ!」
「ははは! カモシーってお世辞言えるんだ! 人付き合い苦手そうなのに!」
「こいつさっきからデリカシーねぇ! 人が気にしてることズバズバ言いやがって!」
初対面ながら隼をいじり倒して腹を抱えて笑っている熊は、それでも堪えられないのか隼の肩をバシバシと叩く。
「ああ、カモシー最高! これからよろしくな!」
「できれば静かにしててくれ」
朝から濁流にでも飲み込まれた気分の隼は、辟易とため息をついて前を向いた。なお、依然として熊の足は隼の下に収納されていた。
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