ベッドの上でゴロゴロとしながら本を読む。

 アンが持ってきてくれたのは、私が呼んだことのない隣国の歴史の本で実に興味が惹かれる内容の物。

 これ自体は良いのだけど。正直、隅々まで読み込みたいところだけど。私はお腹を押さえる。


 あの後結局、私は屋敷の人たちにあいさつ回りをする事となった。

 アルバード様よりも先に挨拶をするのは少々気が引けたが、其れよりも今日からお世話になる方々。

 やはり普通に考えて、挨拶しておくべきだと判断したからなのだが。其れよりも、うん。私はお腹を押さえる。


 本を閉じ、ベッドの側にある机の上に置く。

 身を起こして端に座って、窓の外は日の傾きからいって午後3時ぐらいだろうか。

 私はお腹を押さえる。


 さっきからなんでお腹を押さえてばかりなのか、お腹が空いているからじゃない。

 

「――お腹、痛い」


 さっきから月物のせいでお腹が痛くて堪らないのだ。

 それどころか、無性にイライラしてお腹は空いているのだろうが食事も要らないと言う完全なる不健康。

 お屋敷の方には食事を要らないと我儘を通してしまったし、スープでも良いからと気を使ってくれたシェフの方にも申し訳ない事をした。アンにも心配を掛けた所だ。

 でもどうしても食べられない。要らないと身体が拒絶するのだから、本当に月物――生理不順とは手ひどいものである。


 私はもう一度お腹に手を当てる。

 薬は先程貰ったし、しばらくすれば痛みは治まるだろうが、何も食べられないと言うのは流石に不味い。


 必死になって考える。

 何か、何か食べられる物は無いかと――。


「あ、一つだけ、あったか」


 考えて一つだけ、脳裏に浮かんだ食べ物があった。

 しかしだ。渋い顔を浮かべる。

 この一つとは中々に、中々なモノなのだ。

 実家にいるときは何とか手に入ったモノだが、今この家には絶対に無いものだ。


 いや、あるにはあるだろう。材料が、だが。

 頑張れば今からでも作り、明日の朝には食べられるだろう。


 でも、流石に――。

 流石に嫁に入って来て一日も経っていないどころか、入籍すらしていない女がアレを作るのは如何なのだろうか。

 そもそも家でも、使用人はアン以外渋い顔をして嫌っていた代物を。

 

 だったらこっそりアンに自宅に戻って貰い、取って来てもらうか。

 嫌、嫁入りした娘の事など実家は知らないふりをするだろう。

 それどころか、私の私物は、特にアレは絶対に捨てられているに違いない。

 

 考えても考えても「無理」と言う言葉が浮かぶのに、考え出したら食べたくなる人間の脳が恨めしい。

 いったい、どうするべきか――。

 

「――。仕方が無い!」


 私は意を決して立ち上がった。

 そして、アンを呼ぶ。


 つまりアレだ。

 食べたいのは仕方が無い。

 見つからなくては良いだけなのだ。

 見つからなくては。


 たった一日で造れるものだから。きっと大丈夫。



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