109 お呼びだし
カルタ視点
パーティーに行ったものの、襲撃を受けた。
手引きした者は不明で、僕たちはローシュテールが犯人なのではないかと勘ぐっている。
飛んできた鎖鎌のせいで腹部に怪我をして、自分自身の体質、治癒魔法が聞きづらい体質のせいでアスクスやフィーリーに強めに魔法をかけられ気持ち悪くなるなんてことがあったが、今は完治している。
あれは強めの魔法を使ったときの副作用らしい。腹部の怪我は、どう転ぶかわからないので使ったそうだ。
戌井に心配されたりしたが、僕よりもよく怪我している人に言われても説得力もなにもない。
あぁ、その話はどうでもいいんだ。
ついさっき、レイス母がいなくなったと知らせを送ってくれた老人から二人が住んでいた町にレイス姿を表したと手紙をくれた。
ただ、荒れた様子の家を見て、すぐにどこかに飛び出していったらしく、それからの行方はわからない。
それが二週間前の出来事だ。
一先ず、無事であると言う知らせに戌井たちは安堵していた。
僕も、ホット息を吐いた。
だが、また行方をくらませてしまったのは事実だ。
多分、いなくなった母親を探しているんだろう。
そして、もう一つ、起きたことがある。
今度はロンテ・ブレイブがいなくなったのだ。
正確にはパーティーがあった夜から学校に帰ってきておらず、ブレイブ家に連絡をいれて確認したがパーティーの後に安全を考えて学校に向かったとのことだ。
それで、魔導警察に連絡をいれて捜索することになったのだが、パーティー会場から学校までの道のりの途中、大破した馬車が見つかっていた。
ロンテ・ブレイブはいなかったものの、昏倒していた御者が近くに転がっていたらしい。
起きた御者によれば、記憶は曖昧なものの何者かに襲われたと言う呆然とした記憶はあるとのことだ。
ロンテ・ブレイブは行方も、生死も不明となった。
それを聞かされたのが、パーティーから二日後の夕方だった。
「ロンテ・ブレイブまでいなくなっちまったのかよ……」
「アーネチカさんも行方不明になってるんですわよね?」
「こんな立て続けに人がいなくなるなんて、同一犯がやってるんでしょうかあ?」
「どうだか、ロンテ先輩の件に関しては身の代金目当ての野党かもしれないわよ?私、そう言うのよくあるって父さんから聞いたことあるもの」
「それもそれで否定できないのよね。でも、いなくなってから三日目、なにもそう言う話は聞いてないわよ?」
「単純に表に出てないだけか、醜聞恐れてってところか、見捨てるつもりなのか……」
戌井の呟いた言葉に皆が黙る。
あり得なくはない話だと思う。
さらっとロンテ・ブレイブは死んだって言われても驚かない気がする。
「やめましょ。単純に表に出てないだけよ」
「そうだな。あんまり暗い話しても、気分が沈むだけだしよ」
そうは言いつつも、最悪を想像してしまうのは人の性だろうか。
それとも、直接喋ってはいないものの、対面したときに感じた怪しさが原因なんだろうか。
そして、パーティーから六日たった日の放課後。図書館にきていた僕は元の世界に帰る手がかりがないかと新聞のスクラップを見ていると、あるものを見つけた。
ブレイブ家の使用人が行方知れずになったと言う記事だ。
新聞の片隅に小さく書かれている記事で、他の新聞には似たようなことは書かれていない。
そもそも、この記事を書いている記者は、この記事よりもあとの記事には名前が乗っていないから戌井達は見逃してしまったのだろうな。
時期は……今から十四年前か。
僕や戌井が生まれて少したった頃の話だな。
使用人の行方は……さすがに乗ってないか。
そもそも記事を書いた記者の名前は見ないし、この記事を書いた後辞めたのかもしれない。
その記者がいなくなったことで、行方知れずになった使用人の行方を思うものはいなくなったと……。
まあ、大方そんなところだろうな。出てこなくなったタイミングがきな臭いが……。
「ん?最初の告発が使用人がいなくなる二年前?」
フィーリーが生まれる前よりも噂や告発はあったと聞くが、なるほど。この時期からか。
もしや、行方不明になった使用人はなにか見ては行けないものを見て消されたか、逃げたんだろうか。
「無くはないが、もうすでに死んでそうだな」
手に持っていたスクラップを戻して、ここ一年のものを本棚から取り出す。
ペラペラと捲っていくと異世界からきた三人組のことが乗っている記事を見つけた。
勇者候補らしい三人組は一年ほど、この世界の常識を学んで今年から軍学校に通っているらしい。
メルリス魔法学校に通っているのなら、早期に接触できて帰るためのヒントを見つけられたかもしれないのに……。
他の学校なら手紙でも書けたが、アスロンテ軍学校なのが行けない。教師も生徒も仲が悪い両校、僕が手紙を送ったとバレたら三人組に迷惑がかかるし、めんどくさいことになるに違いない。
にしても勇者候補として国に召喚されるなんて、いったい何が目的なんだろうか?
戌井曰く、TRPGやラノベだと魔王復活とかがお約束らしいが、そんな話は微塵も聞いたことがない。
魔王でなくても厄介後との解決のために呼ばれることもあるらしいが、僕の知る限り厄介後との話も聞かないのだが……。
もしかしたら民衆がパニックになりかねないから、内々に情報を押さえて解決に奔走しているのかもしれない。
そんな状態なら僕が知らないのも無理はない。
もしかしたら、レイスやアーネチカさん、ロンテ・ブレイブの三人がいなくなったのは勇者候補が呼ばれた件と関係しているんじゃないんだろうか。
「……いや、レイスに関しては自分の意思だし、違うか」
それからスクラップ記事を読み進めてみる。
小さな事件はちらほらと起こっているが、それらしい大事件は見られない。
もしかしたら小さい事件が繋がっているなんてこともあるかもしれないが、新聞のスクラップしか見ていない現状、それは判断できないだろう。
もしかしたら人身売買事件が、その片鱗だったのかもしれない。
いや、あれは人の悪意の結晶のような事件だから違う気もするが……。
まあ、情報がほとんど無いのに考えたところで正解はでないか。
さて、三人組のことは騎士に聞いてみればなにかわかるかもしれない。
詳しいことはを知っているかはわからないけど、手紙を送ってみるのも良いだろう。
あぁ、でもそれなると理由を話さなければ行けなくなるかもしれない。異世界人だと言うには不安要素があるし、理由をねつ造するのもバレたときに面倒だな。
まぁ、考えがまとまったら実行するか。
スクラップをしまって、図書館を後にする。
気晴らしに人があまり来ない学内を歩いていると、少し前を生徒の誰かがフラリと横切ったかと思えばヒラリと白い紙を落として、どこかに消えていった。
声をかけたが、もうすでにいなくなっていた。
「ん?……は?」
落としていった手紙を見てみると、いつもの七人の名前が宛来てとして書かれていた。
果たし状、ではないはずだ。
これは、いったい……。
パーティーの招待状の時のように、差出人の名前は書かれていなかった。
また、ローシュテール・ブレイブだろうか?
あの人は差出人の名前をちゃんと書くことを覚えるべきだ。
警戒しつつも手紙の封を切る。
「やっぱりブレイブ家の当主だな」
読んでいってみれば、その内容は強迫だった。
手紙を読んだ人物が指定の場所に来ること、他には言わないこと。
従わない場合、回りの人間やお世話になった人たちに何が起こっても可笑しくはない。
要約してみれば、こんな感じだ。
さっきの生徒は落としたわけではなく、僕がいるとわかって置いていったんだろう。
……僕が、この手紙を読んでいると言うのは、既に向こうに知られていると考えるべきか。
「レイスが望まない形になると言って余計な首を突っ込まないように歯止めをかけていたのに、向こうから巻き込みに来るとはな……」
一先ず、身支度だ。
没収されるかもしれないが、丸腰でなんて行けない。
あとは、細工もしていくか。
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