108 パーティーの後

キャシー視点


薄暗く、シーシャの煙が漂う。あちこちには光り物の装飾品がおかれているが、管理はできていないだろうというのが見てとれる。


「偏執狂は欲しがってたもの見つけたのに、誰かに横取りされて怒ってる〜?そんなのどうでもいいじゃん〜」


 いつものようにソファに寝転がり、部下達の報告を聞いていたキャシーは偏執狂の名が出たとたん顔をしかめた。


「キャシー様、どうにも偏執狂の欲しがっているものはどうやら“あのお方”が欲しているものと友好関係をもっているようでして……」


「ふ〜ん?なるほど、続けて〜?」


「はい」


 さっきまでの嫌そうな表情からころっと変わって嬉しそうなものになった。


「偏執狂が求めているものの付属品が目的の者と友好関係を持っており、利用すればメルリス魔法学校から引きずり出せるかと思われます」


「なるほどねえ?」


 キャシーは考える。


 あの襲撃からメルリス魔法学校に籠りっきりで、警戒しているのか、いっこうに外に出ようとはしない、あの“必要なもの”は学校内の駒を使っても引っ張り出せない現状。


 偏執狂をうまく利用して引っ張り出してしまえば、駒を使って目当てのものを手に入れられる。


 元から自分が一番、任務達成に近い立場にいたが偏執狂を利用すれば更に任務達成に近づくだろう。


 任務達成したあかつきには願いを一つ叶えてくれると言う話だし、これは乗る他無いだろう。


 あの偏執狂は気持ち悪いし、綺麗じゃないから嫌いだが、利用しない手はない。ありがたく踏み台になってもらおうではないか。


「偏執狂の手伝いするかわりに、立場利用させてもらおうか〜」


 キャシーはニンマリとチェシャ猫のように笑う。


「無理矢理にでも引っ張り出しちゃえば、あとは数で押しきってしまえば良いでしょ〜?アイツら、そこまで強いわけでもないんだしさ〜」


 教師を除けば、近くにいる魔導師どもは、その年からすれば強い方ではあるし学内にいる駒からの情報だと伸び代もあるんだろう。


 だが、今は弱い。


 強くなる前に仕掛けて回収してしまえば簡単に目的もが達成できる。


 キャシーはそう判断した。


 油断と満身はあったが、それは妥当な判断だった。


「では、手を貸すと言うことで手紙を送っておきます」


「うん、お願い〜」


 キャシーは部下を見送り、シーシャを吸う。


 見きりをつけられそうだった偏執狂と呼ばれる人物と、予定を変更して偏執狂を使い潰そうとするキャシー。


 この出来事はパーティーが始まる十九日前のこと、つまりアーネチカが行方不明と学校に知らせが届いた 翌日の話である。




 そして、現在はパーティーの翌日。


 シーシャを吸うキャシーは部下に声をかける。


「で、数押しはどうだった〜?上手くいった?」


「えぇ、順調に進みました。何名かは捕らえられてしまいましたが、支障にならない程度ですので気にすることではないでしょう」


 捕まったのは、重要でもなんでもない下っ端のものだ。あんなのならいくらでも集められるだろう、そう判断しての言葉だ。


 キャシーも部下も、なにも気にしていない。仲間意識など、微塵もなく駒としか思っていないのだ。


「そう〜。いるもの取れたんならなんでもいいや。もう、渡してる?」


「えぇ、すぐに。キャシー様が考えた、“類感呪術”を使った魔獣人の捕獲。順調に進みそうです。本部から寄越された嫉妬の幹部候補の術者も有能ですから」


「あのおじさんか。ネチネチうるさいけど、腕は良いよね〜。あと一緒にいるやつも有能だよね〜。自分の名前知らないとか変なこといってるけど」


「大方素性を隠したがっているんでしょう。もしかしたら名前を使った呪術を警戒しての発言かもしれません」


 呪術や魔法の知識の無い異世界人らしい発想だ。


 前に呼んだ異世界人も小賢しいことに同じことをしていたと報告を聞いたとがある。


 結局、実験の結果壊れてしまったんだったっけ?


 まあ、そんなことはどうでもいいや。


「ま、そこら辺どうでもいいや。何かあったら嫉妬の幹部候補が何とかするでしょ〜。次に動くのは……一通りことが終わって、油断してる頃かな〜」


「わかりました。それでは、このあたりで」


「ほ〜い」


 キャシーは部下を見送ると、机に置かれていた高級なコップに並々注がれた、値のはる酒をあおった。


 コレクターなら死にものぐるいで手に入れようとするような、酒好きであればゆっくりと味わって飲むような代物を味を感じる暇もないくらい、すぐに飲み込む。


「あーあ、勿体ない」


「あ?」


 キャシー以外いるはずの無い室内に、キャシーではない誰かの声が聞こえた。


 キャシーは慌てて起き上がり、声のした方向を向く。


 そこには、さっき部下との話題に上がっていた名前の無い異世界人がたっていた。


 入ってくる音も、気配も無かったはずなのに声が聞こえるまで気づかなかった。


「お、まえ、せめて入ってくるとき声かけろよ……」


「あぁ、すみません」


 キャシーは一瞬、殺意を抱くが、そうなるとニコニコとしている異世界人の思う壺なので上手出た殺意に見て見ぬふりをする。


「で、礼儀知らず君はなんのようでここにきたわけ〜?」


 嫌みたっぷりに入っても異世界の表情は変わらない。おちょくられてでもいるんだろうか。


「いや、これからどうするのかな〜って思って確認にきたんだ」


「しばらく待機、殺して欲しい有力者とかいないし〜。嫉妬の幹部候補の手伝いでもしとけば?あ、でも間違っても“あの方”の獲物には手を出すなよ〜」


「はいはい……」


 仕事がなくなってるのになんでそんなに嬉しそうなんだ。呼んだ瞬間、召喚者を何人か殺したシリアルキラーのくせに……。


「ていうか、ネチネチおじさんから離れてて良いの?」


「え?あぁ、別に。俺は呪いの手伝いなんてできないし、気が散るって追い出されてるし」


「だからって僕のアジト歩き回らないでくれる?」


 侵入者と間違えられて殺されても文句言えないだろ……。


 いや、その前に異世界人が攻撃したやつ殺しておしまいか。


「チッ、さっさっとお前に与えた部屋に戻っとけば〜?」


「……」


「なに〜?」


 返事も返さない、動こうともしない異世界人に警戒して手元にある鉾に手を伸ばす。


「いや、今探している人、見つかったらどうなる?」


「は?偏執狂に引き渡すに決まってるでしょ〜」


「……そうなったらあの人はどうなる?」


「さあ?狂喜の煮こごりみたいな本能向けられてぼろ雑巾になって死ぬんじゃない〜?あの偏執狂、子供ができても処分しちゃいそうだし〜」


 全く、気持ち悪いし美しくないやつだ。


 本当なら、あの美人を侍らせでもしたかったんだけど……。まあ、報酬あげないで変な暴走される方が迷惑だから犠牲になってもらおう。


「……何?不満しかない〜って顔してるけど、金のために人殺す暗殺者のくせに善人ぶってるわけ〜?キッショ」


「そういう訳じゃないが、なんとでもどうぞ。ただ、その手の話が不愉快なだけだ」


「あぁ、そう言う〜?自分から見えてる話吹っ掛けといて?まぁ、わかるけどね〜。でも裏にいるんだから珍しくもない話でしょ〜?」


それを考えると権力者相手に一回でも逃げて、十数年近く見つからなかった美人ってすごいな。


「……」


「浮気も不倫も重婚も、君のところならダメかもしれないけど、重婚はいくらかの国を除いて合法だし、他の浮気や不倫なんかはしてるやつはいるからね〜?するやつは権力者が多いから泣き寝入りなんて当たり前だし〜。使い捨てで、最終的に殺されるような娼婦もよくいるよ〜」


 キャシーの発言に異世界人は思いっきり顔をしかめる。


 そんな異世界人を気に止めることもなく、犬にするようにどこかに行くように手を振った。


「どっか行け~」


「……お望み通りに」


 異世界人は音もなく、静かに部屋を出ていった。


「……あいつ、もしかして偏執狂が狙ってる女に同情してんのかな~?」


 似たようなことがあったのか……。あ、もしかすると不義の子だったり?


「なぁんて、こっちじゃよくある話だけどね~」


 キャシーは手に持つ鉾を床に置き、また高い酒をあおる。


「一年いないに決着、つくかな?」


 キャシーは頭の中で計画が順調に進んでいく様を想像し、笑みをこぼす。


 次第に気分がよくなったのか、願いを叶えてもらった自分の姿を想像して高笑いをした。


 偏執狂の願いが叶うまで、あと__

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