104 招待状
ローレスがいなくなってから十日がたった、ある日。
「戌井」
「何?」
その日の放課後、カルタは片手に手紙をもって永華に声をかけた。
「僕と君宛に手紙が届いていた」
「私と篠野部に?」
見せられた手紙には確かに私たちの名前が書かれていたが、差出人の名前は書かれていない。
私たちに手紙を出す人物なんか知れている。バイスの町の人達か、それか騎士か同僚さん達だろう。
でも、誰にせよ差出人に名前を書かない理由がわからない。
「誰からだろ?」
「さあな」
二人揃って心当たりがない。
この不審な手紙、どうしたものか。先日の襲撃の件もあるし変な手紙だったらと思うと封を開けるのも憚られる。
手紙を開けるのを戸惑っていると篠野部に取り上げられてしまった。
「あ……」
「人のいるところ、行くぞ」
「うん」
場所は中庭、空いているベンチに座り、篠野部は手紙の封を開けた。
中から何かが飛び出てくるなんてことも、カッターの刃が見えているなんてこともなく、中には普通の便箋が入っていた。
手紙の内容だが、近々行われるらしい“パーティーに来ないか”と言う内容だった。手紙なのに来いという圧を感じる……。
便箋の方にはきちんと差出人の名前が書かれていた。
「……これ、どうしよう」
「どうするもこうするも、断れるものでもないだろうから行くしかないだろう。多分……」
差出人はブレイブ家当主、ローシュテール・ブレイブだった。
……これほど嬉しくない手紙が来ることなんてあるんだな。
推定__私からしたら確定__ローレスがいなくなった原因である人物から手紙で、貴族からパーティーの誘い。
そんな手紙を受け取ってしまった私たちはどうするべきかと考えた結果、ひとまず担任のザベル先生に相談することにした。
「……嘘でしょう」
ザベル先生も頭を抱えてしまった。
ごめん、ザベル先生……。
「いや、いやいやいや……。こんなの怪しすぎるだろ。ろくに関わりがないのに、こんな手紙普通来るか?来ないだろ。ローレス君がいなくなった理由最有力候補がなんで、こんな手紙をローレスくんの友人に送ってくるんだ!?」
ザベル先生のいう通り、怪しすぎる。
正直、誘ってきているようにしか見えない。
いったい何を企んでいるのだろうか。
ドレスやタキシードを用意してるとまで書いて、外堀を埋めてくる辺り何がなんでも参加させたいんだろう。
「ザベル先生、これ行った方がいいですよね」
「……正直、言って欲しくないが手紙の書き方からすると来る前提でもろもろの手配をしているようだから断れない……でしょうね。仮に断ったとして、君たちじゃ払いきれない衣装代なんかを吹っ掛けられるでしょう……。昔、似たようなことがあって、断った娘が借金を背負わされたとか聞いたことがあります」
なにそれ怖い。
「もし学校側がかばったとして、重箱の隅をつつくようにネチネチ言われて君たちに払わせようとするだろうし……。ロンテ・ブレイブくんがいる以上は無理矢理にでも連れていかれてしまいそうだし……」
……怖い。
「そもそもなんで今?パーティーが行われるのは一週間後だぞ。これじゃあ断るにも断れないじゃないか……」
こういったパーティーの招待状は基本的に欠席の返事が必要な場合、最低でも2ヶ月前に届けるのがいい。
そして欠席の連絡は1ヶ月前にしておくのがいいらしい。
つまりはまあ、今さら断ったところで……という話なのだ。
どうやって参加者欄に私達の名前を挟んだのかは疑問だ。権力でも使ったのか、それとも提案の段階で怯えた開催者側が了承したのか……。
それにあくまで噂、でもやりかねない可能性がある以上は無理に断れない。
「学校にいる間は守れるけど、学外に出たタイミングで何かされたらなにもできないからな」
ずっと学校のなかにいるってのも無理だものね。
結果、パーティーに行く事になってしまった。
なんあら後からメメとレーピオ、その他いつメンがやってきて皆似たような手紙が来ていることが発覚して、ザベル先生は頭を抱えることになった。
ローレスと関わりの深い七人が名指しで断れないパーティーに呼ばれる。
なにか思惑があるのは透けて見えており、全員満場一致で武装していった方がいいということになった。
いったい何が目的なのか、ローレスと関係していることなのか、ローレスをおびき寄せるための罠なのか……。
目的がはっきりしない以上、丸腰でいるなんて聞けん極まりない。
貴族組とララはさりげなく、こんなことがあったと家に連絡をいれ家の方から探りをいれてもらおうと動く。
ベイノット、ミューは私たちが参加する予定のパーティーについて調べることになった。
そして私と篠野部なのだが、スノー先輩のもとに行きつつカリヤ先輩、ビーグル先輩、ネレーオさんに話をする。
どうもあの三人も参加するらしく、驚かれてしまった。更に、ブレイブ家の誘いだと教えると何で参加するんだと怒られてしまった。
まあ、断るにも断れなかったことをいうと頭を抱え、パーティーでの作法などを教えてくれることになった。
そして、ロンテ・ブレイブなのだが……。
「お前ら!」
この数日、見ないと思っていたら行きなり姿を表した。しかも、随分と焦った様子で、だ。
「……何ですか?」
ロンテ・ブレイブは膝に出をつき肩で息をしている状態だ。どこからか走ってきたんだろう。
「はぁ、はぁ……お、と、う様からパーティーの招待状来てるか?」
「来ましたよ。僕たちだけじゃなくて、ローレスと仲のいい五人にも」
「嘘だろ……」
唖然、驚愕、そんな言葉が似合う表情だ。
反応からして私たちが参加することになっているのを知らなかったのだろうか?
「せっかく隠したのに、これで出てきたらどうしよう……」
ロンテ・ブレイブが小さい声で何かを言っていたが、聞き取れなかった。
「あの……?」
「……いや、いや、うん。わかった」
「何がわかったんです?」
「気にしないでくれ、俺の独り言だから……。断らなかったんだな」
「断れなかったんですよ。何せ今日手紙が来たのでね」
篠野部は嫌みったらしく言う。
「……そうか。あの人ならやりかねないな」
「で、なんですか?」
「パーティーに参加するのか確認したかっただけだ。……貴族が出てくるパーティーってのは基本的に思惑渦巻く腹の探りあい、どうやって得するかって考えてる連中がほとんどだ。食い散らかされたくなけりゃ、発言や行動に気を付けるんだな」
ビーグル先輩達にも言われたことだ。
「じゃあな」
それだけ言って、ロンテ・ブレイブはどこかに消えていった。
私たちが参加することを知らなかった。何かで私達が参加することを知って、慌てて確認しに来たってところだろうか。
そうじゃないとすると、いったい何しに来たのかよくわからなくなってしまう。
さっき小声で呟いていたことも気になるが、パーティーのことで警告をして来たことを考えると悪いことは考えていないんだろう、か?
「なんだったんだ?」
「さあ?早く行こ」
「あぁ」
作法等の稽古、スノー先輩の手伝い、調べもの。
やる作業を分散しているものの、やらなければ行けないことがあって一週間なんて言うのはあっという間に過ぎていった。
手紙が来てから一週間後、私達はパーティー会場に行く前にドレスやらタキシードやらが売っている店に来ていた。
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