11 驚き
まさかの獣人の登場に動揺した二人、獣人の少年が路地に消えた少しあとに平静を取り戻した。
「驚いた」
「そりゃドラゴンや魔法があるんだし、おかしくないよな」
「もう僕はなにが来ても驚かない」
すぐに前言撤回することなりそうどと思ったがその言葉は腹の中にしまっておくことにした。
「人魚っているのかな」
「いそうではある」
「八百比丘尼とかどうなんだろ」
「それは、それは……どうなんだ?」
異世界の生態系に困惑しているといつの間にか魔具堂の近くにと取りついていた。
「あ、ここじゃね?」
「ここ、か?」
「だって魔具堂ってあるし……」
ついて早々、ここであっているのかと悩むような事態になってしまった。
何せ窓から見える店内は薄暗く、人がいるようには全く見えない。とわいえ看板もあるしオープンと書かれた木札も垂れ下がっているのだから、営業してはいるのだろう。
一目見ただけだと物が放置された廃墟と勘違いしてしまいそうな風貌だ。
「とりあえず入るか」
「あ、ちょっ、置いてくな」
なにを考えているかわからない表情のまま、外見がとてつもなく怪しいマッドハットというおじいさんは運営している魔具堂の中に入っていき、慌てて後を追う。
薬屋のベルと違い、風鈴のようなものが吊るされておりチリンチリンと優しく綺麗な音を奏でた。あまりにもこの怪しい店とはミスマッチで逆に不気味だ。
薄暗い室内に雑多に物が置かれており不気味な仮面やら、骸骨のようなもの、大きな釜、干物になった蜥蜴っぽいものと怪しさ満点である。
「蜥蜴の干物……」
思わずこぼれた呟きは誰も拾ってくれなかった。
「誰かいませんか?」
虚勢なのか、怖いもの知らずなのか。全く理解できないが篠野部が少し大きな声で人を呼んだ。
何をやっているんだと、背中を叩きそうになったがここは廃墟でもお化け屋敷でもない不気味なだけの店であることを思い出して手の行き場がなくなった。
「はいはい、はい」
篠野部の声が聞こえたらしい、置くの扉から杖をついた老人が出てきた。
「どうしましたかな。若い人がくるとは珍しいですな」
「あ、すみません。冷やかしで来たんですけど、誰もいなかったので」
「素直ですな。どうぞ、ごゆっくり」
どんな人物がくるかと思ったが予想とはずいぶんと違う優しげなおじいさんが出てきた。
篠野部のやつ面と向かって冷やかしで来たって言うとか、肝座ってるな。
妙なところに感心しつつ、無言で店のなかを探索し始めた篠野部にならばと、私も好きなように見て回る。
改めて見てみればそれっぽいものもある。推定水晶玉とか、タロットカードとか、あとは分厚い本とか。なんなら禍々しい雰囲気の妖刀と間違えてしまいそうな剣や勝手に動く人形もあった。あのゾーンだけは絶対に近寄らないと決めた。
勝手に動く人形に脅かされるという恐怖現象にあったものの本が置いてあるコナーを見て回っているとある一冊に目が引かれた。
それは藍色の表紙に白い字で“カインツの魔道指南書”と書いてあった。
「魔道指南書?魔法の使い方が書いてあるのかな」
興味本位で本を開く。さっき勝手に動く人形に脅かされたことも忘れて。
__
魔法とは科学で証明できない奇跡である。それを扱うのが魔道師と呼ばれる者達である。
この力は個人差があり、種族差もある非常に不安定なものだ。
この本を手に取るものが間違った道に進まないことを切に祈る。
__
「魔法使いじゃないのか」
一度止めた手を動かしページを捲る。
__
魔法は四つの属性から成り立っている。地(土)火、空気(風)、水の四つである。
無論、これら属性に介さない魔法も存在する。空間魔法、時間魔法、召喚魔法、黒魔法がそれに該当する。
魔法を扱うには相応の魔力があり、魔力量は人によって千差万別であり種族によっても増減する。
__
読み進めれば読み進めるだけ気になる単語が出てくる。これを読んでいればヒントが得られるかもしれない。
「召喚、魔法?これか!」
召喚魔法の文を見つけた永華は目を見開き、早急にページを捲って斜め読みをしていく。召喚魔法の項目を探していると本の終盤に記載があった。
「“この魔法を使って呼び出せるものは多岐にわたる。魔獣、私物、伝説では悪魔をも呼び出していた。そして何より目を引くのが異世界より勇者を呼び出した伝説を持つことである”!篠野部!」
耐えきれずに潜めていた声を大きくしてカルタを呼んだ。ただならに雰囲気を感じたのか、カルタはすぐに永華の側に駆け寄った。永華は駆け寄ったカルタに召喚魔法の記載がある部分を見せた。
「これは……」
「たぶんこれだよ」
「ああ、ただ……」
「“勇者伝説で使われた召喚魔法であるが、これは一般に浸透しておらず知っているのは王族とそれに仕える魔道師等のごく少数である。そのうえ異世界からの召喚はコストが高く並大抵の魔道師では行えない”」
特大のヒントだ。肝心のそれがこの本には載っておらず、そのうえ知るのは王族に仕えるようになるまで出世しなければならないというしようではあるが。
「これ、魔法学校でて王宮で仕事するしかなくない?」
「それが堅実か」
「それ以外となればまともな方法無そうだよね。て言うかこれ図書館にあるのかな、じっくり読みたいんだけど」
そう考えて裏表紙を見てみると紙素材のシールが貼られていた。
「ええっと?一、十、百、千……16520!?」
「い、いくらなんでも高くないか?」
「そりゃあ“カインツの魔道指南書”じゃからのう」
「うわあっ!?」
永華はヌッと現れた声をかけてきた老人に驚きすっとんきょうな声を上げる。肩もびくついたし、なんなら飛び上がった。
「あ、えっとマッドハットさん?」
「気軽にじいさんとでも呼んどくれ。お嬢さん、脅かしてすまんの」
「へ?あ、ああ、いえ、別に。ハハハ」
「お主ら、魔道書を見るのは始めてかの?」
「そうです」
「です」
未だ心臓が落ち着いてくれないが、なんとか永華自身は落ち着いてきた。
「そうか、そうか。それならばおかしくはないの、本来魔道書はもっと高いのじゃぞ」
「え?」
「この値段はむしろ安い方じゃな」
マッドハット氏の言葉に口を開けて固まってしまう。開いた口が塞がらないとはこの事だろう。
「それは流れに流れた品物で使えはするが劣化が激しいからこの値段なんじゃ、ほんとは魔道書の中でも高めなんじゃよ。偉大な魔法師、カインツの書いたものだからの。図書館にも置いておらん貴重なものじゃ。新品の値段、聞いてみるか?」
「あ、持ってられなくなりそうなのでやめときます」
「流石にちょっと……」
マッドハット氏は二人の反応に頷くとある一つの提案をした。
「その本が欲しければ取り置きしておくぞ?」
「え?いいんですか?」
「うむ、何せこの店に置かれてかれこれ三年ほどする。ここにくるもの自体が少ないしお主らに託すのが一番だと思ってな、使われること無く眠るより若い者の糧になる方が本も喜ぶじゃろう」
「ならお願いできますか」
「あい、わかった。ほかに何かあるかね?」
マッドハット氏の言葉に首を横にふる。永華は本を渡し、そろそろおいとますることにした。
「給料はいったら買いに来ますね」
「うむ、待ってあるぞ」
恐怖体験とヒント、魔法というロマンを手に入れた魔具堂を後にして二人が向かうのは市場だった。パン屋を出てからかれこれ三時間たっており、現在は午後五時である。流石にお使いを優先させることになった。
「ふう、魔具堂で二時間も時間潰してたとは」
「なかなか興味深いものだらけだった」
「さてと、市場どこ?」
「市場はこのすぐ右だな。近いし、とっとと行こう」
「はいよ」
進行方向はガヤガヤと騒がしく、噴水のあった広場よりも人の往来が激しい。
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