10 探検とお使い
異世界に来て二日目、初仕事を終えお使いついでに散歩してきたらと言われた永華とカルタは町を練り歩くことになった。
パン屋を出て少し進むと噴水のある広場に出た。この噴水は町では目印扱いされているらしく、人の通りが多く屋台のようなものもある。
「ほあ〜、噴水綺麗だな」
「ふむ、別れるか」
それだけ言ってスタスタと進もうとする篠野部を慌てて止める。
「待って、待って!全く知らない町だよ?地図一つだけだし、流石になれてない今は一人行動は不味いでしょ」
「……それもそうか」
篠野部のやつ、今まで一人でいることが多かったから自ら一人になろうとしてるのかな?正直、良くもわからないところで一人になってほしくないし、一人になりたくないんだよな。
「で、どこから行こうかね。お使い先にやる?」
「いや、後の方でいいだろう。荷物があると動きにくい」
「そっか。んっと、本屋、服屋、靴屋、図書館、公民館、あと食べ物屋とか?」
「図書館は後日でいいだろう。休日にでも入り浸ればいい」
というか図書館を使うにしたって何かしら必要になるものとかあるのかな。
「薬屋に行こう、シマシマベアーに使われた薬品について知りたい」
「確かに」
そういえばイザベラさんに行ってくるように言われてたんだった。
注射器はどこかと確認すると篠野部の持っていた鞄からハンカチにくるまれた注射器が出てきた。
「僕が持っている」
「そっか、じゃあ第一目標は薬屋だね。ええっと……イザベラさんとナノンちゃんが言ってたのはヨート通りだから」
「このまま右だな」
「よし、ゴーゴー!」
永華を先頭にヨート通りに向かって進んでいく。カルタはとなりに並ぶこと無く、少し後ろについてくる。必要以上に仲良くするきはないらしい。
相変わらず、こちらから話しかけなければ何も喋ろうとしない。仲がいいなんてこともないから気まずい空気なだけだ。
ヨート通りは案外近くで薬屋もすぐに見つけることができた。
「ここだね。マーキュの薬屋」
建物は全体的に白く、大きさは一軒家ほどのものだ。どうも一回を薬屋に、二階を住居にしている造りのようだ。
「入るぞ」
「ん」
扉を開けると備え付けられていたベルが鳴り、永華とカルタの来店を店内に知らせた。
中は広く、棚に薬が陳列されているものの狭さじたいは感じない。掃除も行き届いており清潔に保たれているようだ、薬屋と言うよりは病院のような雰囲気も感じる。
背もたれのない椅子もあるのでもしかしたら兼業していたりするのかも。
「いらっしゃいませ」
紫の髪が印象的な白衣を着た女性がいた。彼女が店員か、店主だろう。
「すみません、イザベラさんに薬のことならここにと聞いてきたんです。あなたがマーキュ・カティさんですか?」
「私がカティです。エイカさんとカルタくんですよね?ええっと……ああ、昨日のシマシマベアーさんに投与されたと言うものですね。わかりました、ではこちらで調べておきますね」
「お願いします」
ハンカチをそのままにカルタが女性に注射器を渡す。
「私は医者と薬師を兼業しておりますので何かあれば是非、よしなに」
「あ、はい」
「……医者は貴方だけなんですか?」
カルタがそういうとカティは首を横にふった。
「いいえ、少しはなれて転々とございます。とわいえ、ここは田舎ですので大きなところはございません」
学校の件のように優秀なものや夢を追うものは王都のアストロに行くんだと、どこの世だって都会に人が集まる理由は変わらないらしい。
「何かわかってることってないですか?」
なにが気になるのか、篠野部はやけに薬のことを気にしている。
「すみませんが調べてみないとなにも」
「そうですか」
なんか落ち込んでる?とりあえず、話を変えようっと。
「あの、私たちってこの町に来たばっかりで、なにかおすすめの場所とかありますか?」
このままだと目的地も決めないままふらふらと歩くことになりそうだし、カティさんに聞くことにした。
「おすすめ、ですか?そうですね。ならマッドハットおじいちゃんの魔具堂なんてどうでしょうか、色々と変わったものがあるので楽しめると思いますよ」
「魔具堂」
思わずおうむ返しになる。
なんだ、そのロマンがつまってそうなところは。魔法の箒とか杖とか売ってるんだろうか。
「ええ、便利なものから何に使うかわからないものまでたくさんあるです」
「は〜……わかりました。ありがとうございます」
「薬のこと、何かわかったら教えてくれるとありがたいです」
「はい、またの来店お待ちしております」
話もほどほどに切り上げ薬屋を後にする。出てすぐに地図を開く、マッドハットおじいちゃんがやっているという魔具堂を探す。
「魔具堂どこだ?篠野部わかる?」
「……地図もわからんのか。魔具堂は、二つ先の通りだな。ここだ」
「お?靴屋あるじゃん」
「ふむ、なら靴屋に言ってから魔具堂でいいだろ」
「そうね」
次の目的地が決まり、永華は地図をカルタに渡した。見てもわからないものが地図を持つのは愚策と判断したのだろう。
「そういや、やけに薬のこと気にしてたね。なんかあんの?」
「……あれについて何かわかれば、僕らを呼び出した人物にたどりつくかと思ってね」
「同一犯かもって?なんでわざわざ召喚した人間を熊に襲わせるんだよ?」
「それは……やはり同一犯の可能性は低いか」
「そう思うけど、まあなんでも疑ってかかった方がいいよね。なんにもわかんない状態だし」
「ああ」
仮に同一犯なら、私たちを殺すことが目的みたいじゃないか。わざわざ異世界から召喚した人間にそんなことしないでしょ。
それから会話はなく、靴屋についた。
「ん〜、ほぼブーツ」
「めちゃくちゃ尖ってるな」
「ピンヒールあんじゃん」
「それで動けるのか?」
「余裕、むしろ暴漢用の護身になるよ」
「どこが?」
「ピンヒールで踏まれると、とても痛い」
近所のお姉さんが言ってたんだよね。なんかストーカー野郎にお見舞いして撃退したことあるんだって、極力真似するなって言われたけど。
「それは、また別の層に狙われるからやめておいた方がいい」
「そう?」
「ああ、そうしろ」
「ふーん。あ、サンダルみたなのある」
私が見つけたのは細い鎖を使っているサンダルのようなものだった。これ履いてないときどうするんだろう、鎖からまっちゃいそう。
「ん〜、これにしよっと」
「結局ブーツか」
「まあね、決まった?」
「君がピンヒール見つけた辺りに」
「え、待たせてごめん」
靴は持たせて貰ったお小遣いで支払い、スニーカーは紙袋の中身いれて鞄のなかにしまうことになった。
「やっぱ、スニーカーとかなかったね」
「ああ、早々に買いに来て正解だった」
「……やっぱりばれると不味いと思う?」
「僕らを呼んだ人物の思惑がはっきりするまでは危険だろうな。そもそもこの世界の住人がどんな偏見を持ってるかもわからないし、物理的にバラされたくもないだろう?黙ってるのが得策だろうね」
篠野部の言うことに一利ところか百利ある。
「解体も差別もやだ……」
「はあ、召喚された人間についても調べるべきか」
「増えてばっかだな、全然減らない」
「仕方ないだろう。あまりにも無知すぎる」
「そう……」
篠野部の意見に同意しようとしたとき、視界の隅にあるものが見えた。勢いよく振り返ると、そこには空想だけの生き物だったはずの生き物がいた。
「ん?どうした、なにか見つけたか」
「い、いや、あれ」
途中で言葉を途切れさせた永華を不思議に思ったのかカルタは永華に声をかけた。永華は動揺しつつも言葉を返す。
永華の指差す方向には獣の耳と尻尾の生えた少年がいた。
「……つ、つけ耳?」
「獣人もいるんだ」
まさかの遭遇に困惑しつつ言葉を絞り出す。
ドラゴンに魔法、不思議な熊と来たら獣人がいるのだって何らおかしくないだろう。もしかしたら人魚や妖精もいたりして。
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