New World Order〜故郷から追放された俺は、神に授けられた力を駆使して世界を統一することにした〜

@tetora0112

第0章 プロローグ

第0話 伝説の誕生

 周囲を高い壁に囲まれた大都市カオン。 

 

 世界に蔓延る魔物から都市を守るために、カオンには呪力使いだけで構成された幻竜団げいりゅだんなるものがあった。


 都市に住む人々から魔物に対する恐怖を感じないのは、幻竜団のおかげである。

 

 呪力使いの手にかかれば、魔物など敵ではない。

 人々は安心して生活することができる。そう思っていた。


 しかし、そんな魔物の中に神獣と呼ばれるものがいた。


 ある日突然カオンに姿を現した8匹の神獣。


 都市を守ろうと幾千の呪力使いが神獣へと挑み、敗れた。


 これまで相手にしてきた魔物とはレベルが違った。

 

 幻竜団と神獣の戦いは七日間にも及んだ。


 5000人を超える犠牲を出した激戦は、神獣1匹の捕獲という結果に終わった。

 

 人類の敗北である。


 それからというもの、人々は神獣の到来を恐れはじめた。


 神獣を全滅させるまでは本当の意味での平和は訪れない。


 人類は再び平和を手に入れるために、【神獣を全滅させる】という公約の元、新生幻竜団を発足。


 そしてより強力な呪力使いを誕生させるために、呪力の学校を設立した。

 

ーーーー


 オギャーオギャー


 特徴的なオレンジの髪色をした赤ん坊は、威勢のいい泣き声と共にこの世に生まれた。


「この子の名は……ムギ。 星崎ほしざきムギよ」


 生まれてきた我が子を両手に抱え、ホッとしたような表情を浮かべる母親は、我が子から机に飾ってある写真へとゆっくりと視線をうつす。


「ギリギリ間に合ったわ……あなたとの子よ……」


 母親はそう呟くと、ゆっくりと目を閉じた。


「姉ちゃん! 姉ちゃん! 気をしっかり! まだ死んじゃだめ! この子の成長を見守らなきゃ」


はいつだって見守っているわ」


 母親は写真に映る男性に視線を向けたままそう告げると、ゆっくりと目を閉じる。


「モモエ、この子を……頼むわ……」


 掠れ掠れの声でナギサは妹にそう言うと、ゆっくりと子の頭を撫で、そのまま動かなくなった。



ーーーーーー



 カオンと呼ばれる、周囲を外壁に囲まれた都市に、特徴的なオレンジ色の髪色をした星崎ムギおれは産まれた。


 俺自身この髪色は気に入っている。


 炎のようだからだ。


 なんでも、この都市を統括しているセイメイ様は、唯一炎を司ることができる呪力使い。

 今の文明の発展は炎なくしてあり得ない。

 炎=カオンの歴史。

 つまり、

 俺=カオンの歴史。


 そのように俺の頭の中では変換されている。


 俺がここまで自己肯定感が高い要因はモモエさんだろう。


 モモエさんは母ちゃんの妹で、育ての親だ。

 

 俺が何かをするたびに「まぁ天才!」「一族の誇りよ」と、これでもかと持ち上げられて育てられた。

 おかげで俺は、自分は選ばれし者なのだと信じ切っていた。


「大丈夫。 あなたの両親はずっと見守ってくれてるわ」


 これは寝る前にいつも言っている、モモエさんの口癖だ。


 ”亡くなった人は星となって空から見守ってくれる。”というのが、一族の間での言い伝えらしい。


 だから俺は両親がいなくても寂しくなかった。


 両親とは会ったことも見たこともないけど、きっと空から見守ってくれているんだろうし、モモエさんからは十分すぎるほどの愛情をもらっている。


 そんな、何不自由ない日常を過ごす中で、ある日事件が起こった。



ーーーーーー



「すごいやろー!」


 俺は夕食に出てきた豆を、器用に箸でつかんでそう叫んだ。

 

 もちろんモモエさんにすごいと言ってもらうためだ。

 当時8歳。

 この時期になると、モモエさんの褒めを欲しがっていた。


「すごーい! 本当に器用ね! さすが天才」


 今日もモモエさんに褒めてもらえた。

 やっぱ俺って天才!

 よし、今日はもっと凄いものを見せてやろう。


 俺は左手でスプーンを持つ。

 右手には豆を掴んだ箸。

 この豆を空中に投げて、左手のスプーンでキャッチする。


 これができれば、モモエさんの度肝を抜くことができるだろう。

 

 豆に全神経を集中する。

 モモエさんの視線は俺へと向けられている。


 よしっ今だっ!


 箸を離れた豆が綺麗な放物線を描く。


 大体この辺に落下してくるな。ってあれ?


 落下してくるはずの豆が落ちてこない。

 なんと!空中で止まっている。


「うわっなんだこれ?」


 思わず声を出してしまった。


「ちょっとムギ! どうやったの?」


 モモエさんが立ち上がった。


「いや、わかんない」


 空中で止まっている豆を前に、少しの間時間が止まった。


「すごいわ! やっぱり持ってたのね!」


 モモエさんはかなり興奮している様子だけど、何が何だか分からない。


「持ってるって何を?」


「呪力よっ!」


 ここで初めて俺は呪力というものを知った。


ーーーー


 俺が初めて使った呪力は、サイコキネシスというものらしい。

 念じるだけでモノに物理的効果を与えるものだそうだ。


 それからというもの、モモエさんが色々教えてくれた。


 まず、呪力に目覚めたものだけが通える学校があるということ。

 学校名は愛神山学校まなかみやまがっこう


 カオンの東側に位置する愛神山に建てられている学校で、カオンを守るための戦士を育成しているらしい。


 もちろん俺はすぐに入学を決めた。

 せっかくの力だ!

 有効的に使わなくては勿体無い。


 天才だと言われ続けて育てられた俺だ。

 学校に行っても圧倒的な才能を発揮して、他の生徒から一目置かれる存在になるだろう。

 そう信じて疑わなかった。


 それから数ヶ月後、入学が決定し家を出ようとした日の朝、モモエさんに呼び止められた。

 

「ムギ。 今から私がいうことを守りなさい」


「分かった」


 そうしてモモエさんは次の3つを言った。


 呪力はこの都市を守るために使うということ。

 なんでも自分1人で解決しようとせず、周りの人の力を頼ること。

 自分の力は誰かのために使ってこそ、意味があること。


「当たり前のことじゃん!」


 言われた言葉は、何も目新しいことじゃなかった。

 呪力に目覚めてからというもの、毎日のように口酸っぱく言われていたことである。


「そうね。 あと……姉にこれを渡すよう頼まれてたの。 ほら、1つはムギのものね。 どれがいい?」


 そう言ってモモエさんが手のひらを広げると、そこにはアクセサリーが握られていた。


「え……父ちゃんと母ちゃんから? うーん……俺はこれがいいかな?」


 俺は、指輪、ブレスレット、ピアス、ネックレスのうち、ブレスレットを手に取った。


「そう。 絶対無くしちゃダメだからね! 他の3つは、学校で信用できる人ができたらあげなさい」


「どうして?」


「それは……大人になったら分かるわ。 ほら、似合ってる」


 そう言ってモモエさんは俺の手首にブレスレットをつけた。


「ほら遅刻しちゃう。 行ってらっしゃい」


「うん。 いってきまーす」


 よく分からないけど、背中を押されて学校へと走る。


 8歳の俺にはまだ少し大きいブレスレットが、腕を振るたびに揺れる。


 手首から抜けそうで気が散るな。


 立ち止まり、ブレスレットを手首から外して太陽に透かしてみた。


 綺麗だ。顔も知らない両親からの贈り物か……宝物にしよう


 ポケットにブレスレットをしまうと、4つのアクセサリーを手に、学校へと向かった。

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