第23話 ■ New Family ■

 ここはリーブス公爵家のエントランス……。


「あらあらあら!! まあまあまあ!!」

「おおおおおおおおおおおお!!!」


「へ……?」

 リーブス公爵閣下と公爵夫人が私を見た途端、大きな声を上げた。

  私は思わず後退りした。


「リンちゃんの言った通りね!! エンジュに似ているわ……」

「うおおおおお えんじゅううううう」


  囲まれた!! 回り込まれた!

 エンジュさんってお亡くなりになられたリンデンの妹様ですかね!


「リ、リンデンおにいさま……」

  私は助けを呼んだ。


「プラム、少し我慢してね。大丈夫、あと一分くらいで収まるから」

 助けはこなかった。


 リンデンの言った通り、割とすぐ二人は落ち着いた。


「本日からお世話になります、ヒース領から参りましたプラムと申します」

  私はブルボンスで散々やらされたカーテシーをして、挨拶した。


「私はヘブンリー=リーブスだ。今日から君のお父さんだよ。気軽にパパって読んでいいんだよ?」

「あら……礼儀作法がしっかりしているのね!かわいらしい!! ……これは失礼したわ、私はアルストロメリア=リーブスよ。よろしくね。気軽にママって呼んでいいのよ?」

夫妻も挨拶してくれた。


「じゃあ僕もにいにでいいよ!」

 あなた、さっきお兄様って呼べっていったじゃん!


 ヘブンリーさんは金髪碧眼のすっごく背が高くてマッチョだった。おっきぃ……。


 グリーズリーくらい……は言い過ぎか。でもおっきぃ……。リンデンの金髪碧眼はパパ譲りか。

かたや、アルストロメリアさんは、綺麗な淡い水色の髪で小柄で華奢で本当に妖精かと思うくらい美しい人だ。


「えー…こんな可愛い娘。ホントに預かるの3年だけ? 僕、もっと預かりたい。えええ……知ってたら無償で預かってたな。権利書返却するかわりにホントにくれないかな……えええ、レインツリーに10年くらい前に奉仕活動で行けばよかった……絶対引き取ったのに……」


 指を咥える公爵。エエエー…。

 そんなのブラウニーと離れ離れじゃないですか。


「あら、あなたも? 私ももう手放したくないわ!」

 会ってまだ5分くらいですけど!? なんでいきなりこんな溺愛されてんの。

 あ、そうか。


「あ……すいません、昨日、私……自動魅了のパッシブ処理が弾け飛んじゃって、今は自動で魅了が……」

「まあまあ大丈夫よ。私達、魅了無効のアミュレットを身に着けているから。それより、アメリアママって呼んでごらんなさい?」


「あ、はい。アメリアお母様……」

「ママ(ずいっ」

「ま、まま……」


 ううう……!! なんかママってハードル高い……!

 でも、ママ……か。教会にいた頃、結構何度も憧れたなぁ……。


「じゃあ、次は僕だな。パパって呼んでごらん」

「ヘブンリーお父様……」

「パパって呼んでくれない!!」


「……ぱ、パパ……?(涙目」

「わーーーお!うっれしい!!」


 いきなり私をリフトしてクルクルするヘブンリー閣下。

 高い! 目が回る!!


 歓迎されすぎつらい。

 身分のこともあって、ハードル高過ぎですって!


「父上、母上、彼女は孤児院出身だから、そういうの慣れてないと思う。

彼女が呼びやすい言い方で我慢してあげて。プラム、普通にお父様お母様でいいよ」


 リンデンありがとう。あなたもお兄様でいいですか。


 ……でも、温かい。


 周りに目をみるとこの場にいる使用人が皆、笑顔でこっちを見ている。

 ブルボンスでは、みんな冷たい目をしていた。


「そう……そうよね。でもびっくりしたわ。ブルボンス家で半年教育されただけあって、所作がちゃんと貴族の子に見えるわ。頑張ったわね、プラムちゃん。辛かったでしょう?」


「本当にね。窮屈だっただろう。そうだ、プラムちゃん、僕達はね、君にそういうの強要しないから、素の自分で過ごしていいからね。社交界に出すつもりもないから、安心しなさい……でも学院では令嬢ぶっておいてね。社交界はともかく学院でもパーティはあるからねぇ」


 令嬢ぶる!!

 ……でも確かにね。


 学校(勉強)にはあんまし興味ないんだけど、孤児だった私が王立学院とか行かせてもらえるってすごい事なんだよね。


 将来ヒースに帰ってもヒースだって男爵家ではあるし、貴族の事は知っておくべきだったりもするんだろうな、とはなんとなく。


 アドルフさんも、のほほーんと生活してるように見えて、情報収取はキッチリやってたみたいだし。

 それ考えると社会に触れて雑学するには学院は良いんだろうなぁ。


「あ……ありがとう、ございます」


「とりあえずは疲れただろう。君の部屋は用意してあるから、夕飯までそこでゆっくりしておいで。

さて、パパはブルボンス退治に奔走してくる!!」


「あなた!廊下は走っちゃいけません!! じゃあ、私もこれで失礼するわね! またディナーでね!」


「あ、はい! これからよろしくお願いいたします!」

「勿論!!」


 そして嵐のように歓迎されて嵐のように二人は去っていった。


「プラム、びっくりした?」

「うん、ちょっとね。でも素敵な人たちだね」

「ふふ、良かった。プラムが気に入ってくれて」


 いやーブルボンスで半年、公爵家クソとか毎日思い続けた私からすると、

 ここは概念が変わる場所ですよ。ホント。


「さて、お部屋に行こう、プラム」

 リンデンが手を出した。

「ありがとう。お兄様」


 エスコートって一体なんなんだろうな本当。

 別に普通に歩いていいんじゃないのかって思うけど……。


 孤児だった私が場違いで不思議な事やってる感が拭えない。


 案内された部屋は、ブルボンスで用意されてた部屋と同じ様式だった。

 でも、部屋全体が明るい雰囲気で、印象が全然違った。


 あっちの部屋はすごく重苦しい雰囲気だった。

 リーブスの部屋のバルコニーの前には可愛い花が敷き詰められた庭園や噴水が見えた。


 そっか、あそこは塔だったけど……ここは普通に屋敷の中なんだ。


「プラムに関してはね、バルコニーから飛び出でようと多少マナーがなってなかろうと目くじら立てないように周知してあるから、ほんと自由にしていいからね。うちにもうるさい使用人はいるっちゃいるけど、3年っていう区切りもあるから、目をつぶると思うよ」


「あはは、私はそこまでお転婆じゃないよ! でもありがとう。そう言ってもらえるととても気が楽」


「夕食前にまたお着替えあると思うから、それまでは自由にしてていいよ」


「うん。でも、自由って言っても…何したらいいかわからないな……」


「ああ、そうだね。部屋の中を見て、必要な物がないかチェックしておいて? 別にしなくてもその都度いってくれて良いけどね! あとは庭の散歩とか、図書室も侍女に言えば連れてってくれるよ。

そのあたりはブルボンスと同じじゃないかな?」


「あ、成程。何が役に立つかわからないものだなぁ……」

 庭の散歩か……ギンコはどうしてるかなぁ。

 ブルボンスでは見張りだったとはいえ、彼とずっと散歩してたようなものだ。

 あの時、飛び出るようにとんずらしたから、挨拶もできなかった。


 最初は大っ嫌いだったのに、今はとっても感謝してる。

 神様……彼が無事でありますように。


 ……といつものように祈ってはみたけれど。


 私が祈ってる神様って…どういうもの?

 アカシアが言ってた地母神?

 聖書にはいつも神、としか書かれてなくて。


 そういえば昔。

 教会の子供たちが神様の名前は?、とアカシアに訪ねても

『神様は神様だよ。名前があっても口にしてはならない尊いもの。だから"神様"でいいんだよ』

 ……と。

 ……神の愛娘が地母神で。他の世界の神様が地母神を産んだ?作った?

 他にも神様がいるの? んー?


 宛先がわからないのに祈ってるの?

 おかしくない?

 聖書を久しぶりにめくってみたくなったけど……絶対寝る。


 字が小さくて1ページに凝縮するかのようなあの……酔いそうな……。


 ブルボンスの図書室でも聖書だけは手出さなかったものね……。


 だれかプラムにもわかる簡単な聖書みたいなかんじで語ってくれる人が必要だ。


 でもまあ、とりあえず。

 長年の習慣だし、神様叫びたいときはいつも通りにするよ。

 なんか色々知ってるアカシアが神様でいいんだよって言ってるんだし。


 とか考えてたら、リンデンが。

「これからの事は改めて落ち着いたら話しようね。じゃ、僕もちょっとブルボンス戦に参加してくる!」


 ブルボンス戦!


「よ、よろしく!」

「うん! まっかせてー!」

 リンデンはバビューンと出ていった。


 楽しそう……?


 うーん、そういえばさっきの夢。ココリーネの事……。

 ずいぶん先の出来事ってアカシアが言ってたけど、誰に相談しよう。


 ブルボンスを攻撃するのに今夢中なリンデンにはココリーネを助けるような事、言えないな。

 ましてやブラウニーやアドルフさんにも。

 すごく怒ってくれてたもの……。


 私も別に助けたくはないし、ココリーネなんて大嫌いだけど……だからってあんなひどい目にあってほしい訳では無い。知らなくていい事を知ってしまった。


 あんなの視てしまった以上は、何かしら助け舟は出しておかないと、自分が後悔しそう。

 かといって手紙すら届けられそうにないしなぁ。


 どうしよう……。まったく方法がない。

 まあ、夢の中のココリーネは今よりお姉さんになってたし、まだ先の話だからゆっくりでいいか…な。


 あ!いけない。


 ブラウニーとアドルフさんに無事ついたって『報』を出そう。

 『報』はすっごいいっぱい持たされたから。


「何かあったらすぐ『報』を出しなさいね?」

 ……と、アドルフさんにお母さんぽく言われた。


 部屋の中に、デスクがあったのでそこの引き出しを確認したらペンや便箋が揃っていた。

 ありがたく使わせてもらおう。


  『アドルフさん、ブラウニーへ

   無事にリーブス家についたよ。

   ブルボンスとは違ってみんな優しいし、とても過ごしやすそうだよ

   でも、それでも早くヒースに帰りたいよ。

   またね

          プラム』


 私は書き終わると、インクが乾いたのを確認して、紙飛行機を折った。

 バルコニーに出て、紙飛行機を投げた。うん、良い感じに飛ばせた。


 アドルフさんが、リーブス家とヒース家なら『報』は距離的に大丈夫って言ってたから、途中で事故にあわないかぎり届くだろう。


 あー…早速、寂しい。


 そういえばモチがいないんだ。

 ブルボンスではモチがずっと傍にいてくれたのに。


 私はそんな事を考えながら小さくなっていく紙飛行機を眺めてぼんやりした。


「……分霊(わけみたま)」


 普通の人間でないって言われたのは、実はかなりショックなんだよね……。


 そしてアカシアは一体何者なんだろう。


 他の世界に行ってゲーム作者を殺してきたり、私の夢に出て来たり。

 運命をいくつも知っていて、私を生まれる前から知っているとか……。


 魔王……ではないよね。


 それにこの世界は現実世界でゲームは書記官の転生者が作った……ってことは、

 攻略対象を選ぶっていうのはゲームにおいてのルールで、この現実世界には当てはまらないのでは?


 何故まだ私に運命の相手を選ばせようとするの?

 疑問でいっぱいだ。

 呼び出したい。


 特別な夢は次いつくるだろう。

 そんな風に考えたのは初めてな気がした。



※※※


 数日後、魔法研究所の職員さんが来て、魅了封印をしてくれた。

 公爵家ともなると自分から行かなくても、呼べば来てもらえるんだね……。


 そういえばライラック殿下も魔法研究所で働いてたっけ。


 あそこで続けて働くのかなぁ……そうなるとヒースに帰った時にはまた自分で封印しにいかなきゃいけないから、またあそこで出くわすのかな……やだな。


 リンデンとティータイム時にライラック殿下の事を聞いた。

 噴水が見えて良い場所なんだこれが。


 ブルボンスでは、ココリーネとずっとお部屋でティータイムだったよ!

「あ? クズ……じゃなくてライラック? 嫡廃にできそうだよ! めっちゃ遠くの寂れた領地に送れそうだよぉ」

「おにー様、すっごいニコニコして言うね!? 従兄弟だよね!?」


「いやーだってあいつ、ホントクズだったんだもーん……。

実はさー。学院に来てる女の子にも手を出したりとかあったんだよ……。特にね、身分が低くて逆らえない子とか……。昔亡くした僕の幼い妹でさえ、クズな視線で見てて不快だったんだよ。もうあれ病気だよ」


「そんな小さい子まで!? クズだ!?」

「でしょう!?」


「子供作れない身体にしてその遠く寂れた領地にポイって事になるとおもう。

でも、思わずライラックを追い込んじゃったけどさぁ。僕、このままだと王位継承権が繰り上がっちゃうんだよね……。身体弱いのに~……」


「何位になるの?」

「三番目になっちゃう。ルーカス……じゃなくて皇太子殿下に何かあったら父上が王様にならないといけないけど……場合によっては僕が王様にならないといけなくなっちゃう。皇太子殿下は普通に健康で丈夫な男子だから本当に万が一の場合だけどね。」


「お兄様は王様にはなりたくなさそうだね?」

「うん。やだ。勉強は一応させられてるけどね。僕って一応王様スペアだし……。皇太子殿下が早く子供作ってくれたらいいんだけど。皇太子殿下もココリーネの件で婚約者選び直しだしね。僕のためにも皇太子殿下は絶対守り抜く!!」


 理由はなんであれ、偉いねおにーちゃん。


「お兄様は皇太子殿下好きなんだね」

「うん。クズ……じゃなくてライラックと違って、とても良いやつだよ。……でもプラムは会わせないようにしないとね。ヒロインなんだっけ?」


「うーん、うん。違うけど実質そうらしい、みたいな」


 分霊でーすとは言えないな。なんとなく。

 なんだよそれって感じの空気になりかねない。


 私自身も分霊がどういいうものか知らない。


 ああー確かに説明する時に転生者の言葉便利だな。悔しい。


「出会っても、ココリーネが言ってた場所とかワードを言わなければ大丈夫とは思うけど。

お兄様の場合は水辺で話してたあなたの気持ちわかるってやつだっけ」


 皇太子殿下のウイークワード(?)はいっぱい聞かされた。

 つまりリンデンも幾つかあるはずだ。気をつけないと。


「そうだったなぁ。もうすっかり平気だけど。正直心鷲掴みされた感じで、しばらく頭おかしくなってたね」

 ココリーネが狡猾だったのもあるだろうけど、地球からの呪い怖いな!


 ブラウニーがモブモブいわれるのも腹が立つけど、ブラウニーが攻略対象じゃなくて本当に良かった。

 もしブラウニーにそんな呪いがかかって、『真実の愛を見つけたんだ!』とかなんとか言っちゃって、他の女の子に心移りしちゃったら、私何するかワカラナイヨー。


「人を好きになるって何がきっかけか自分でもわからないよねぇ……。

ねえ、プラムはブラウニーのどこが好きなの?」


 唐突に聞かれた。

「え…全部」

「顔が怖いところも?」

「怖いのは、ちゃんと理由がある時だけだよ。普段は全然怖くないよー。優しいよ。でも怖くても好き!」


 ブラウニーの話しになったので私は顔が緩む。

 ブラウニーの話しなんて一日中できるよ。


「いつから好きだったの?」

「ずーっと一緒で気がついたら好きだったかんじ」


「……ブラウニーの話しになったら、顔がとっても幸せそうだ。君を助けて良かった」

「とっても感謝してるんだよ。何も返せてないけど。本当にありがとう」


「大丈夫だよ。ちゃんと保護者のアドルフさんが代価を払ってるんだから。

そうだ、婚約式だけど、来週中にはするからね」


「え? そんなに早く?」

「何か困るかい?」


「それはないけど! 嬉しいけど! ……でも日程がただ早くてびっくりしたの」

「9月半ばから学院に行くからね。ちゃんと婚約式すませて指輪してかないと、うちにどっさり婚約の申し込みが着ちゃいそうだからね」


「え、やっぱ……学院行くんだ?」


「行くよ~僕と一緒に馬車乗っていこうね~。リーブス公爵家の子で、容姿良し、聖属性。フリーだったら殺到しないわけないでしょ……。養子でもうちと繋がり欲しい家はいっぱいあるからね。ちなみに外聞わるいから聖女ぺけは取り消したからね!」


「えええ、ぺけついてないと不安!!」


 あんなに恥ずかしい思いをしてつけたPE☆KE☆GA!!


「いやーさすがにね。大丈夫。父上が全力で守ってくれるから。僕も守るから。」

「……そっか~、まあ、確かにね……うん、ありがとうお兄様。」

 ここにいないお父様も。


「ところで私は学校で何を勉強したらいいの?」

「とりあえず普通科で申し込んだよ。ほんとは平民が通うクラスとかにしてあげたかったんだけど、公爵令嬢を平民クラスに入れるわけには行かないからね……」

「たしかに……」


 残念だ。平民クラス、名前聞いただけで楽しそう。


「もしついていけなかったら家庭教師を」

「あ、アドルフさんに教えて貰いたいなぁ。教師の資格持ってたと思うし」


「へえ? なるほど。彼は優秀な人だねぇ。さすがヒース男爵家の一人息子。養子とは聞いてるけど、ヒースは錬金術師の家系だから、頭脳が優秀じゃないと養子にはしないと思うからね。よほど光るものがあったんだろうね」


 アドルフさんが褒められるのなんだか嬉しい。えへへ。

 ああでも、アドルフさんは冒険者業とかで忙しいかな?


「……王家や神殿の嫉妬を買うのもわかる気がするよ」

「へ? 嫉妬!? なんで?」

 いきなり不穏なワードが!


「……ヒースは昔から優秀過ぎたんだよね。

便利な道具を沢山生み出して、国への貢献が半端ない。

国民の人気が高かった。あれだけの功績があれば本来男爵家よりも上の爵位を与えられてもおかしくはない。むしろ与えられるべきなんだ。


ただ、ヒース男爵家の人たちって、アドルフさんを見てるとよくわかると思うんだけど……研究一筋というか自由気ままというか。御し難いというか。それでいて国民人気がすごくって。ヒースがあれば王や神はいらないとかいう話しまでちらほら……上からすると面白くないよね。」



「ひょっとして、魔王軍が来た時に助けを出さなかったのって……嫉妬を買ってたから?」


「…さあ、そこまでは僕にはわからない。

でも、当時の国民感情としては何故ヒースを助けなかったんだってのは相当あったと想像しちゃうね。

だから、あんな命令無視カードもらえたんだと思うよ。更にヒースは荒野になってしまったし何の力もなくなったと思われただろうしね。逆にヒース領地は悪評が流れるようになってしまったし。

与えても問題ないって思ったんだろうね」


 想像の話しっていうわりには確信もって話してる気がするな。お兄様。

 ……嫉妬ってこわい。

 というか、それをしたのかもしれないってお兄様の叔父様……で、陛下ってことだよね。


「国王陛下って怖い人?」

「怖くないといけない人、だね」

 難しい。


「……そういえばお兄様は婚約は?」

「実は困ってるんだよね。療養したりココリーネが好きだったりしたから、ちょっと出遅れてるんだよね。

今来てる申し込みは家柄含めて、どうも合わないなぁって感じてて。

学院か社交パーティで探すしかないんだけどね。売れ残ってる子で良い子いるかなぁ。

でもそういう子いたらまず皇太子殿下に譲らないといけないな……。

外国の姫とかも僕らの世代に合う人いないしね」


「貴族って大変だね…お父様とお母様も政略結婚なの?」


「彼らは恋愛結婚なんだよね。母上がここの公爵家の跡取り娘でね。父上がよく小さい頃からここへ遊びに来てて、その延長上で結婚したらしいよ。ふふ、なんだか君とブラウニーみたい。」


「へえ、全部政略結婚って訳じゃないんだね」

「うん」


「話聞いてたら、ますます早く卒業してブラウニーと結婚したくなったなぁ……正直学院行かないで花嫁修業だけで私はいいんだけどなぁ」


「まだ学院に入学すらしてないのに、気が早いよ~。

そうさせて上げたいのは山々なんだけどね。うちは学のない子は許さない家系だから……。

あ、そうだ、ブラウニーも学院くるよ」


「え!! 行く。学院行く。それ早く言ってよお兄様!!」

 私は立ち上がった。


「態度が反転した!? こんなに釣れるとは!?」

「釣られるに決まってるよ!! ブラウニーも普通科?」


「いや、彼は経済科に在籍するよ。アドルフさんと学校卒業したら会社経営始めるらしいから」

「えええ! 聞いてないよぉ! てかお兄様いつそんな情報入手したの!? 私も知らないのに!」


「とりあえず座んなさい。いや、君を預かる上で、学校行かせますよって話を前にしたんだよ。

その時にブラウニーも行くって決めてたよ」

 ブラウニー、そう言うことはちゃんと教えてよね!!


「(座った)……私も経済科いきたい」

「……」

「ん? どうしたの」

 珍しくリンデンが遠慮がちに言った。


「その、ブラウニーが……プラムには無理だろって……あと、プラムが同じクラスにいると勉強に集中できなくなりそうだって」


 ぶらうにいいいいいいい!!!!

 すみません!! お勉強に対してやる気がない子でごめんなさい!

 私はテーブルに突っ伏した。


「えっと、ほら。昼休みとか我が家のプライベートルームあるから、そこ使って二人でランチしていいから、ね?」

「そんなのあるんだ! ん? じゃあお兄様は?」


「僕のこと気にしてくれるの? 優しい子だね。

 ……うん、たまには使うけど、僕は皇太子殿下の補佐で生徒会に入ることになるから、そっちでランチになると思う」


「お兄様忙しいのね」

「うん、段々忙しくなるね。禿げないように祈っててくれる?」

「あはは、ハゲになんてさせないよ。――私が治してあげる!」


「――」

 ん?


「あ、そっか! 君はそういうのできるんだった! お兄ちゃんうれしいな!」

 なんだ今の間。なんかやばいワードに触れた?


 早速忘れてたけど、リンデンも攻略対象だった。気をつけないと。くわばらくわばら。


「さてと、そろそろお開きにしようか。またディナーでね」

 リンデンは急に切り上げて、私の手を取り、部屋までエスコートしてくれた。


 ……ん、これリンデンもココリーネのこともあったから警戒してるな。

 攻略対象のほうが警戒してくれるのはありがたい。


 部屋に戻ると、バルコニーから『報』が入ってきた。


「あ……ブラウニー達からだ。」

 ブラウニーからはタイムリーに学校に行くって書いてあった。


 そして早く婚約式で会いたい、と。


 アドルフさんからは、お前たちの婚約式が楽しみだ、とまた生活が落ち着いて学校が休みの日にはヒースで過ごそうと書いてあった。


 うん、私も婚約式がとっても楽しみだよ。

 帰る帰る、土日はヒース帰る!絶対!!


 私はテンションがあがって、『報』を抱きしめるように胸にあてた。


 そしてその次の日からは、婚約式の準備が怒涛のように始まった。


 神殿から神官様をお呼びして、本当に身内だけのひっそりの式だというのに、ドレスやら靴やら色々試着させられた。


 髪は怪我の功名みたいな感じだけど、結ってもらえるから長くなっててよかったなぁ。


 婚約指輪はサイズを測りに来た店員さんが言ってたけど、納品はヒース家らしい。

当日ブラウニーが持ってきてくれるんだ……やだ、テンション上がっちゃう。


 あー、もう。楽しみで楽しみで仕方ない!!

 早く会いたい!! ブラウニー!


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