「じゃあ、さようなら。先輩」

 赤い鳥居をくぐったところで、菘が言った。

「うん。また。山根さんにもよろしく言っておいて」とはちは言った。

 そして二人は赤い鳥居の前で別れた。

 途中までおくっていくと言ったのだけど、「大丈夫です」と言われてしまった。(もしかしたら、小柄でひ弱なはちは男性として頼りにされていないのかもしれない)

 でも、はちが赤い鳥居の前で、元気よく歩き出した菘の後ろ姿を(ちょうど二人の帰る方向は正反対の方向だった)なんとなく見送っていると、ぴたっと菘が立ち止まって、それから急ぎ足で、まだ赤い鳥居の前にいるはちのところまで戻ってきた。

「すみません。大事な用事を忘れてました」照れ隠しのように小さく笑って菘が言った。

「? 大事な用事ってなに?」はちは言う。

「これです」

 そう言って菘は中学校の制服のスカートのポケットから、手のぎゅっと握って、なにかを取り出して、それをはちの前で開いて見せた。

 すると、そこには『小さな白い花のお守り』があった。

「これを椎名先輩に渡しそびれてました」菘は言う。

「これを僕にくれるの?」はちは言う。

「はい」

 菘は言う。

 それから菘はその白い花のお守りをはちに手渡した。

 はちはその白い花のお守りを自分の手のひらの上に置いてじっと眺める。……それはなんだか不思議な魅力のあるお守りだった。

「ありがとう」菘を見てはちは言った。

 菘はなにも言わずに、にっこりと笑顔をはちに返した。

「でも、どうしてこれを僕にくれるの?」

「先輩が買った白い羽根のお守りはことりにプレゼントするんですよね?」菘は言う。きっと、ことりがそんなようなことを菘に言ったのだとは思うけど、菘は本当になんでもお見通しなんだな、とはちは思った。

「うん。そうだよ」とはちは言う。

「だから、そのお礼です。それと、お守りがことりの手に渡ってしまうと、椎名先輩の分がなくなっちゃうから、その意味もあります」と菘は言った。

 どうやら菘はことりだけではなくて、(出会ったばかりの)はちのことも、気にかけてくれているようだった。

 きっと、菘は子供のころから、(頭の後ろつけているお面のヒーローみたいに)すごく優しい子なのだろうとはちは思った。

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