「これ、松野さんの差し入れ?」はちは言う。

「そうですよ。えらいでしょ?」

 にっこりと笑って菘は言う。

 園芸部の部室の中には二人のほかに誰も人がいない。今のところ、園芸部の部室の中にやってくる気配はほとんどなかった。

「? どうかしたの?」

 はちは言う。

 見ると、目の前にいる菘は、なんだか落ち着かない様子で、はちを見たり、部室の中のいろんなところに目をやりながら、なんだかとても、『そわそわ』していた。

 園芸部の部室の中はしんと静まり返っている。

 いつもなら、ずっと話をしている菘が、今日はあまり話をしないせいだった。

 はちはもう一つ、木の実のようなチョコレートを食べながら、自分の目の前にいる松野菘のことを見ている。

 今日の菘はいつもの菘とはどこか少し違って見える。

「先輩。あの、実は先輩に話があるんです」

 久しぶりに口を開いて菘は言った。

「話ってなに?はちは言う。

「はい。あの実は……」そう言ってから菘は、(いつもの元気でおしゃべりな菘らしくなく)顔を赤く染めて、もごもごと口ごもった。

(はちはもぐもぐとチョコレートを食べながら、そんな菘のことを変だな? と思いながら、じっと見ていた)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る