雲現人神の巫女
ハナビシトモエ
伝承・焼村
僕が中学生の時まで暮らした集落は
焼村。炭でも作るのか
否。焼かれるくらい日照りがひどく、焼かれるくらい作物が育たない。その為。産業が無く、村役場も予算が無くバブルの時に建築された村民体育館の維持にアップアップしている。
まさに火の車の村が唯一出来ることは村民バスで市内に人を運ぶくらいだが、そもそも作物が育たないので、市内に車で行くしかない。
盆の終わり、村を出てはいけない。連れて行かれる。
ダムの放流日は川に行ってはいけない。
「これ、どれがマジかな」
スマブラでメタナイトを操作しながら中三で同級生の
「ダムくらいだろ」
と、僕は答えた。
「でもこの上にダムあったっけ」
試しにと思って、和春と一緒に山を登った。あったのは大きな貯水池だった。それが
「げ、兄貴。いたの?」
「
「馬鹿、プールだって言ったじゃん。ちょっと
真っ黒に焦げた和春の妹の瑞香は中一、同じ中学に通っていて、この村唯一の義務教育を受ける女の子だった。多分、僕のことが好きだ。
盆の終わり、焼村から帰ろうとした子どもたちが乗った車が土砂崩れに見舞われた。後になって幸いけが人はいなかったと聞いたが、村役場は
じいちゃんが
「智ごめん。スマブラ出来ないんだ。電気がやばいらしい」
あとにこれがデマであることが分かったが、その時年寄は大きな決断をすることになる。
それが行われる日はいつも暗い村がらんらんと照らされた。何かおかしいことが起こっている。
山の途中で通行止めという看板で道が塞がれていた。その前で大人に迫っている。
「おい、なんでだよ。開けろよ」
「どうした和春」
「智、お前からも言ってくれよ。こいつらおかしいんだ。瑞香が捧げられるって、そんなの伝説だろ」
「空調を動かすには水が必要だ」
「扇風機でいいだろ」
「飲み水とか」
「生水なんて飲めるもんか。警察や自衛隊も動いている。あと一週間も経ったら、なんとかなる」
「野相さんの息子さんと、池見さんとこの孫三人が熱中症で倒れた。すぐに水が必要だ」
「そんな。だって、そんなこと」
「俺たちだって辛いんだ。でも野相さんと池見さんの顔を見たら、ここで一人を捧げて、四人助ける方がいい」
「黙っていれば、いい気になりやがって」
「智、お前」
「なんで俺たちなんだ」
「いや、別に智君だとは」
「俺たちだよ。俺の仲間だ。それにそんな当たるかどうか分からない伝説に大の大人が乗ってかかって」
右ほおに衝撃が来た。痛いと思ったのは転んでからだった。
「ついてこい。
和春とバンに放り込まれた。何すんだよと二人で抵抗した。運転席が閉まり、車が通行止めから離れていく。
「俺の言う通りにとなえろ」
村役場で会議の際、観覧席に村民代表として偉そうにしているじじいだ。
「大神様へ申し上げます。無礼につき両名を業にて
「おーがみさまにー」
と、もやもやつぶやき調子を合わせていたが、どこからか持って来たのかメモとペンでいつものところに市内から持って来た自転車がある。それで山の途中まで上る。
「じいちゃん、俺吐きそう」
和春も上手いもので顔も真っ青になっている。僕は
「止めろ。うちの営業車だ。降りろ」
良かった。運転席で開く車で。
「あ、待て」
じじいは近距離戦法の暴力は得意だが、機動力ではこちらも負けない。
「先に登れお前が遅い。後ろから押してやる
雑木林なので口に枝が入る。吐く暇も与えられることが無い、ここで吐いている場合じゃない。下からじいいの声も聞こえたが、すぐに消えた。坂を登り切るとつながあった。太く古いつな。
「
和春はつぶやいた。
「怖いのか?」
「怖くない。行くぞ」
つなをくぐった時に何かが明らかに変わった気がした。
「あったろ。自転車」
和春も僕も上り坂に構わず、自分の最大で駆ける。
「こんなの産廃だよ」
「走るから問題無し。見えた、アレだろ」
夜が始まりだした少し暗い青、坂道の上に
貯水池へ作業用の道がある。その先端の機械の先に瑞香が白い着物で立っていた。
「何をやっている」
毎日、医院に通うことで有名なばばあだ。
「お前たちだろ。何やってんだ」
和春はばばあの腕をすり抜けて囲っている金網を上り出した。
「おかしいのはアンタだ。水は浄水場があるだろ」
無い。この村には無い。
「街の方が水源でこの村には役場にろ過装置があるだけさ。分かったなら和春を持って帰りな」
それでも仲間を助けに行く。
「瑞香、今行くぞ。天候が怪しい、一雨来るぞ。戻ってこい」
「智ちゃん、来ないで」
光った。
人がいなくなったのに、法事も捜査も無かった。
ただ、大雨が一週間続き、孫たちが回復した後に貯水池の作業用の通路に白骨が出た。
逃げるように高校入学の際に家族で街に引っ越した。街の外のとても大きな街の大学に入って、四年に入った頃に和春が会えないか。と、連絡をしてきた。
久しぶりに焼村に帰った。
水道水も整備され、あの頃より緑が増えた気がする。
「俺、娘が生まれたから焼村から出ようと思う。それでこれを持って行ってくれ、塚に埋める前に少し取ってきて、先日やっとDNA検査に出したら親族だってさ、重かったら海にでも捨ててやってくれ」
小瓶の中の白い粉末。
僕は貯水池に立ち寄らずに車に乗って、再び逃げるように大学のある街に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます