第三部
第15話:物静かだった親友がグイグイくる
五月に入り、四週目の月曜日。
「
「ふふ、ありがとう
昨日と一昨日の休日二日は、菜乃葉が私用があると言って珍しく一人で部屋の中でゴロゴロしながら過ごした。
でも昨晩の出来事。
夕ご飯を食べ終わって自室で勉強していると、菜乃葉からメッセージが来たのだ。
内容は―――――
『真希ちゃん!明日は、お弁当持ってこなくていいよっ!!!ദ്ദി ˃ ᵕ ˂ )』
たったそれだけ。
けれど、たったその文だけで、私はこの土日で菜乃葉が何をしていたのかを察した。
そして今はお昼休み。案の定、菜乃葉からは可愛らしい桃色のバンダナで包まれたお弁当が渡された。
結び目をほどく。
桃色の中には黄色いお弁当箱があって、その中身は色とりどりのおかずに白米。腐らせない為の考慮と色を足す仕事も兼ね備えた梅干しが、その白い空地のど真ん中に、ちょこんと置いてあった。
「はやく食べてみてっ!」
「うん!じゃあ、いただ――」
目をキラキラとさせながら、私に早く感想を聞きたいようで。私も菜乃葉の成長を感じたいのと、何気に初めての大切な人の手料理ということも相まって、早速食べようとすると。
「あ、ちょっと待って!!」
「??」
菜乃葉が慌てた様子で止めてきた。
「その、ほら、一緒に『いただきます』しよ?」
「はうっ」
菜乃葉が両の手のひらを胸の前で合わせて、まるでこのお弁当を包んでいたバンダナような桃色に頬を染め、にへら〜と照れ隠しで笑いながら、、、そう提案してくる。
控えめに言って、今の一連の仕草はパーフェクトで可愛いかった。
思わず私の胸の奥がキュゥンと跳ねて、そして締め付けられるように苦しくなる。変な声が出てしまうほどだ。
「い、いいけど」
「やった!それじゃあ、手を合わせてください」
「はい」
「いただきます!」
「いただきまーす!」
望み通りに一緒に「いただきます」を言うと、何故か菜乃葉が「えへへへへ〜!」とだらしない笑みを浮かべている。
「どうしたの?」
「いや、なんかさ。こうやって二人で、一緒にいただきますをしてからさ。私の作ったご飯を二人で食べるって。それってさ、なんかまるで、夫婦みたいじゃない?私たち」
「夫婦?私たち、女の子同士なのに??」
「そんなの関係ないよ、とは言わないけど。私は、女の子同士だからこそ、素敵だって思うんだよね〜」
「へ、へぇ。そうかな?シェアハウスしてる親友、とかの方がイメージ湧かない?」
「ん〜。……私は、もうそれは嫌かな」
「えっ?」
「私、真希ちゃんとは親友止まりで終わらせたくないんだよね」
普段と変わらず、温かい雰囲気。
ずっと前から変わらず、物静かそうな見た目。
けれど、今はそんな菜乃葉の表情は、真面目そのものだった。
「……………え」
菜乃葉のこの顔は、本気だ。
親友止まりで終わらせたくない?私たちの関係。今よりもその先??
私は、菜乃葉と親友で。もう既にそう思っていて。てっきり、親友が最高潮に仲が良い証だと思ってたけど。
親友よりも、先の関係………???
っ!!
ッ!?
〜〜〜〜〜〜〜〜っ////////
「な、なな、な〜〜〜っ!???」
「うふふふ♪真希ちゃん、どうしたの?」
顔が熱い!きっと真っ赤っかだ!!
菜乃葉の表情も、さっきとは打って変わってニヤニヤと口角を上げてる。
か、からかわれた!!??
いやでも、さっきはあんなに真面目な顔で。
ふと、あの日の夜の記憶が………
「〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」
だ、だめだーーー!!!
あれは思い出したらダメ!恥ずか死んでしまう!!
もうだめ。なんか、ここのところ最近、菜乃葉に弄ばれることが多くなってきた気がする。今だって、完全に菜乃葉の思うツボだ。そんな反応をしてしまっている自信がある。
私はヤケになって、黄色いお弁当箱の中で、バランスよく詰められた美味しそうなおかずを箸でつまんで、勢いよく口の中に入れた。
もぐもぐもぐもぐっ!!!
っ!??
「お、おいひい!!!」
この玉子焼き。いつも私が作るような甘い玉子焼きじゃない。ダシが効いてて、少し塩辛い。けど、こっちも美味しい!!!
「す、すごいよ菜乃葉!本当に、すっごく美味しいよ?」
「えへへ///そう言ってもらえると、頑張った甲斐があったよ」
「うんうん!本当に、お料理頑張って練習したね!偉い偉い!!」
「………え?」
私は椅子から立ち、机から身を乗り出して、褒められて照れてる菜乃葉の頭を撫でた。
驚いて身を硬直させる菜乃葉。
この時ばかりは、人目も気にせず、純粋に頑張った菜乃葉を甘やかしたくて、撫で続けた。
菜乃葉が耳まで真っ赤になってることに気がつくまで、私は胸がポカポカするのを感じながら、撫でて撫でて、菜乃葉の頭を堪能した。
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