第7話:親友が挙動不審すぎて

「あら、その手首どうしたの?捻挫??」


 お母さんとお父さんの仕事が終わるまでの間、私は菜乃葉とリビングでテレビゲームをして遊んでいた。

 あの有名な赤と緑の兄弟が攫われたお姫様を助けるために冒険するゲームだ。

 まぁ、私は左手首が痛くて、コントローラーを持ててもゲームに熱中して力んだりすると痛いから、主にプレイするのは菜乃葉。私は菜乃葉の隣に座って指示厨みたいに「あれやこれや」と右の手で画面を指をさし、菜乃葉は楽しそうにそれに従ってプレイしてくれていた。


 二人とも結構夢中になってたみたいで、お母さんがリビングに来たことに最初は気付けなかったほど。


 お母さんは私の左手首に視線を固定していた。

 その顔は心配というよりも、「どうせ真希がドジしたんでしょ?」みたいな呆れ顔。とても失礼なお母さんだ。


「あ、あのっ。これは私のせい―――

「うん。ちょっと転んじゃった(๑>؂<๑)ゞ 」


 お母さんが現れた途端に先程までの笑顔が嘘のように頬を強ばらせて涙目になった菜乃葉は、まーた変なこと言おうとしてたから、途中で私が言葉を遮る。


 お母さんは「自分のせいだ」と言いかけた菜乃葉に視線をやって、次に私の顔を見て。


「はぁ、、、やっぱり真希がドジしたの。あんまり菜乃葉ちゃんに迷惑かけちゃダメでしょ」


 額を軽くおさえて頭を振り、そう言い残してキッチンに向かった。


「お母さん、今日菜乃葉うち泊まるって」

「そうでしょうね。菜乃葉ちゃん、今から晩御飯を作るんだけど、何かリクエストある?」

「えっ、あ、いえ!何でもいいです!!」

「何でもいいが一番困るんだけどねぇ。じゃあ真希は?」

「あ、私はオムライスが食べたい!!」

…………………………………真希ちゃんの大好物はオムライスだもんね。可愛いなぁ

「ん?何か言った?菜乃葉」

「ううん!何でもないよ!!」

「それじゃあ、今晩は真希のリクエスト通りオムライスにするけど、菜乃葉ちゃんは大丈夫?」

「は、はい!」


 私はお母さんのつくるオムライスが小さい頃から大好きだ。もちろん普通にオムライスが大好物っていうのもあるんだけど、お店のよりも私はお母さんがつくるオムライスが一番好き。


「それにしても、あなたたち本当に仲良いよね」


 キッチンで作業に取り掛かろうとしているお母さんが私たちを見て微笑んでいた。


「そう?」「そうですか!?」


 私の家のリビングにはソファが二つある。

 と言っても、一つは家族三人が並んで座っても余裕でスペースが余るほどの大きさ。そしてもう一つは本来一人が座る用のもの。1.5人分ぐらいの大きさのソファ。


 今、私たちが座っているのは小さい方の。


 私が最初にそれに座っていたら、菜乃葉がなんでか隣に詰めて座ってきたのだ。

 おかげで、今の私たちはお尻も肩もぴとっとくっつきながら並んで座ってる状態だ。確かに傍から見たら、少し距離が近すぎるように思われなくもない、かな?


 でもまぁ、私たち別に同性だし。

 親友だし。


「まぁ、あなたたちが何も思わないなら、私は何も言わないけど。それよりもあなたたち、晩御飯まで時間あるんだから、先にお風呂に入ってくれば?」


 冷蔵庫から具材を取り出すお母さんが私たちに背を向けながら、さも当たり前みたいにそう提案してきた。

 隣の菜乃葉がそれを聞いて「えっ」と小さく洩らした言葉は聞かなかったことにしとく。


「たしかに。それじゃ一緒に入ろっ!菜乃葉」

「え、えぇ!?い、一緒に!??」

「なに驚いてんの。さっきも言ったけど、もう今更でしょ?」

「い、いや!い、今の私は違うと言いますか、何と言いますか」

「うだうだしてないで、ほら、早く行くよ」

「わ、わーわー!ちょ、真希ちゃん!引っ張らないで!心の準備をさせてぇ!!」



 そして私たちは二人でお風呂に入ったんだけど………


 今日の学校の更衣室でも思ったけど。なーんか私が着替えてる時、やたらと菜乃葉から視線を感じるんだよね。

 なのに私が服を脱いでる菜乃葉を見ると、赤い顔をさらに赤くして、、、


『ま、真希ちゃんのばかっ!えっち!こっち見ちゃやだ!!』


 って大きい声出すし。

 むぅ、納得がいかない。


 菜乃葉が浴槽に浸かって、私が頭や体を洗う時にも、ずっと何やら、、


『お風呂イベだってまだ先だったはずなのに。まぁ、嬉しいんだけどさ。けど、ほんとどうしてくれるの真希ちゃん。こんなの生殺しだよ。真希ちゃんのばーか』


 って、最後の「ばーか」しか聞こえなかったけど。それで私は菜乃葉のそんな赤くなった反応が可愛くて、少しからかってみたくなって。


『あーあー、私、左手が痛くて頭洗えないなー。誰かやってくれないかなー』

 チラ( ˙꒳¯ )


 そしたら罪悪感が働いなのか、緊張しながらも「わ、私がやるよ」って言ってくれた菜乃葉に頭を洗ってもらった。


『め、目とじててね?ぜ、絶対に鏡越しにこっち見ちゃダメだからね?それに、シャンプーが目に入ったら痛いんだからね??』


 と念押しされた。

 私は返事をして、菜乃葉に丁寧に頭を洗ってもらってる途中でこっそり閉じた目を開けて鏡を見たら、、、

 菜乃葉、すっごい挙動不審になってて。

 明らかに頭じゃない私の体の部位にも目がいってて、それで恥ずかしがって。


 もうね。笑うしかないよね。


 あはは。


 あはははは。






 はぁ。

 私、めっちゃ顔赤くなったんだけど、きっと逆上のぼせただけだよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る