第4話:どうしてわかったの? 前編

「真希ちゃん」

「どうしたの?」

「今日提出の英語の宿題が分からなくて」

「………いいよ。教えてあげる」

「う、うん………」


 今日の2限目、化学の移動教室から戻ってきた私のところに英語の教科書を持った菜乃葉が来た。


 相変わらず、菜乃葉は私のことを『まーちゃん』では無く『真希ちゃん』と呼ぶけど。少し慣れてきた。だけど同じように、菜乃葉が私に勉強のことで質問しに来てくれるのには未だに慣れない。


「(まぁ、一番に私を頼ってくれるのは、やっぱりすごく嬉しいけどね)」


 教えようとすると、菜乃葉が座らずに眉根を寄せて困ったようにキョロキョロしている。


「どうしたの?座らないの??」

「いや、あの………座る場所が、無くって」

「あー、、、」


 確かに、私の周りの席は賑わっていて、菜乃葉が座るスペースが何処にも無い―――わけでは無い。


「じゃあ良いよ。―――ほら」


 私は少し椅子を下げて、机と自分のお腹のスペースを人が一人入れる間隔であけた。

 そして自分の太ももをポンポンと軽く叩く。


「え」


 菜乃葉はその意味を理解したのか、視点が私の太ももに固定された。そしてみるみるうちに頬が朱色に染まっていく。


「ほら、はやく」


 再度ポンポンと自分の太ももを叩いて、菜乃葉を急かす。


「す、座って、いーの?/////」

「……い、言わなくたって、それぐらい分かるでしょ?………ばか///」


 別に気にして無かったのに、菜乃葉が恥ずかしがるから私まで何だかイケナイことをしているような気持ちになってくる。

 座っていいか?良いに決まってる。だって、私たちは親友なんだから。


「〜〜〜っ!!そ、それじゃあ、失礼します」

「……ん」


 おずおずと菜乃葉が私の太ももの上に座る。

 うわ、菜乃葉のお尻、やわらか。


 て言うか、、、


「な〜の〜は〜?私に全体重預けて無いでしょ〜?」

「そ、それは、だって!………真希ちゃんに重たいとか思われたくないもん」


 っ!!!

 可愛い。不覚にもドキッとしてしまった自分わたしがいる。

 菜乃葉の横顔を除き見れば、耳まで真っ赤になるほど恥ずかしがっているのが分かった。そんな表情を見て、私もまた顔が熱を持つのを感じる。


 私はそれを紛らわせるために、


「そんなことする菜乃葉には、こうだぁ!」


 菜乃葉の脇腹をくすぐった。


「ひゃあ!ちょ、真希ちゃん!?あひ、あはは、あははははっ!!!」


 菜乃葉はコチョコチョに滅法弱い。


 ………よし。

 これで普段通り。

 こうやって笑い合っていれば、自然と女子校という風景にも溶け込んでくる。


 膝上に友達をのせることなんて、よくあること。私たちは同性で。何も恥ずかしがる場面じゃない。


「それじゃ、どこ分かんないのか教えて?」

「うん!ここの傍線Bの理由を答えなさいって問題なんだけど――――」

「あぁ、ここはね――――」


 それから私は次の授業が始まるまでの10分にも満たない数分間を、、、


 流れで菜乃葉のお腹に左手をまわして、抱きつく形で過ごした。



◇ ◇ ◇


 お昼は菜乃葉と一緒に、珍しく食堂で食べた。


 私が今日は菜乃葉の分のお弁当を作ってきてないと言ったところ、菜乃葉は見るからに落ち込んで、うるうるとした涙目で、、、


『私、なにか真希ちゃんの気に障るようなことしちゃった?』


 って言ってくるものだから。

 一から説明してあげた。そもそも、今朝学校についてから菜乃葉にお弁当箱を返してもらったから、作れなかったと。


 そしたら、


『そっかぁ!良かったぁ〜!……あ、でも、じゃあ私お昼どうしよ』


 だから私は食堂で食べようと提案し、そこで私は自分で作ったお弁当を食べ、菜乃葉は食堂で買った420円のコロッケカレーを食べた。



 そして今。

 5限目と6限目の授業が体育でテニスをやるから更衣室にスクールバッグを持って行き着替えようとした時。


「あれっ?うそ、、、」


 ………体育着がスクールバッグのどこを探しても見当たらない。

 そういえば、昨夜準備をした時にも入れた記憶が無い。忘れてしまった。


 どうしよう。


 体育の女性教師は厳しく、怒ると怖いことで有名だ。

 怒られたくない。保健室に体調が悪いって言ってサボっちゃおうかな。


 そうやって一人で頭の中で考えを巡らせている内に、一人、また一人と更衣室から着替え終わった子たちが消えていく。

 いよいよテンパって泣きたくなった時、後ろから声がかけられた。


「真希ちゃん、もしかして体育着忘れちゃったの?」


 菜乃葉だ。

 気づけば更衣室には、未だ制服の私と既に体育着に着替えた菜乃葉の二人しか居なかった。


「………ぅん。どうしよう、菜乃葉」


 どうしようと聞かれても菜乃葉だって困ると思う。だって、もう選択肢は素直に言って怒られるしか無いんだから。


「やっぱり!良かったらさ、これ使って?」

「ぇ?」


 そう言って菜乃葉が彼女のスクールバッグから取り出したのは、もう一着の体育着だった。腕の部分に書かれた名前は、何故か『夜凪』と私の苗字になっている。

 でも、よく見れば縫い目が見られて、その下には『天野』と書かれてあった。


「いいの?」


 どうして、と思った。どうしてわかったの?って。けれど、それは聞かなかった。


 菜乃葉が詮索しないで欲しいオーラを出してたし。実際に私は菜乃葉のおかげで万事休すの状況を打開できる訳だから。


「ありがと、菜乃葉」


 私はその体育着を受け取って、お礼を言ってから素早く着替えた。


「うん!………………………百合ゲーやり込んでて良かった!!


 着替えてる時の菜乃葉の視線が気になったのは、敢えて触れてあげないでおこうと思った。

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