シナナイ魔法:Brave~魔物の森で100年間殺され続けていたら、いつの間にか魔力量がMAXに!俺の最愛の人がピンチで仕方ないから世界最強の魔法使いになるとするか~

カガリ〇

プロローグ

終末の日

 終末の日。空と大地は血と炎で紅く染まった。


 冷酷な魔物の軍隊は村を虫でも踏む可の様に潰して回り、奴らにより国がいくつも滅んだ。

 弱き者は強き者に蹂躙され、強き者はより強大な者に屈服された。


 だが、これらは生き物のサガだ。どうこうしようなんてムダだ。


 しかし今日のこの世界は滅びる事になっている。それでもまだ、生き物たちはそれぞれの戦いを続けていた。



 終末の日、とある世界の端の田舎町では、皆がこの世界の終わりを知り悲しみと絶望に暮れていた。

 教会に集まり自らの神に一心不乱に祈る者。泣き崩れる者。最後の時を家族と共に過ごす者……。


 だが神は非情だった。

 突然教会の戸を乱暴に開き一人の若者が中に入って来た。


「魔王軍だっ 魔王軍が攻めて来たぞ!」


「なんと……ッ せめて穏やかに死なせて欲しかった」


 それからすぐに空からは真っ赤に染まった手足を持つ悪魔の大群がやって来て家を焼き人をさらい始めた。そして地上にはゴブリン、オークの軍隊が集まっていた。


「女、子供は納屋にでも隠せ! 悪魔に連れていかれたらおしまいだぞ! そして男は武器を持つんだ」


「くそー ただの農家が魔物となんて戦えるハズない!」


「それでもやるしかないだろ!! 奴らはすぐには殺さない。人間を弄んで殺すんだ」



 男たちはクワや鎌など武器になりそうな物を持ち悪魔たちに立ち向かったが、はじめから結末は見えていた。


 オークはその怪力であっという間に武器を取り上げると、男たちの体を引きちぎって殺した。

 悪魔は手に持った細い槍の先を魔法の炎で熱すると、それを男たちの腹に突き刺し苦しめて殺した。

 そしてゴブリンは弱った獲物を集団で囲い殺した。


「きひひひ!!!」


「うわっ うわああああ!!! 助けてぇえぇええ!」


 既に悪魔に片腕をもがれ、青年は泣き叫び助けを乞いながら逃げていた。しかし周りを見ても助けてくれるような人はいない。他の住人も、自分と同じようにやられてしまっているからだ。


「きゃひ。」


「ぐああっ」


 悪魔が投げた槍は青年の足に突き刺さった。青年は地面に固定されそのまま逃げる事ができなくなった。悪魔が槍を抜く瞬間、とてつもない激痛に襲われた。


 そして悪魔は悦楽に浸った表情を浮かべると青年の心臓目掛けて槍を投げた。



 青年は死を覚悟した。しかし一向に自らが死ぬ様子がなく、恐る恐る目を開けると、そこにあったのは突然その場に現れた一人の剣士により悪魔の上半身が消滅させられていた光景であった。


 剣士の手元にはこんな赤黒い終末の世界でも、まるで太陽のようにまばゆい光を放っている剣が握られていた。


「その光る剣、まさか貴方様は勇者様? 世界最強の魔法使いで不死身の男。救世主様なんですよね!」


「…………そんなんじゃない」


 剣士はどこか悲し気だ。そして周りの様子を一瞥すると、一度光る剣を鞘にしまった。


「離れてろ。あと耳ふさいでいろ」


「は、はい」


 剣士は自らに身体強化の呪文を使った。そして腰を深く落とすと跳躍により空高くまで一気に飛びあがった。跳躍の衝撃でソニックブームが巻き起こる。


 町が一望できる高さまで上がると、剣士は再び呪文を使った。しかし今度は別の呪文、攻撃の為の呪文だ。

 それは本来は長い詠唱が必要な強力な物だったが、死線を何度もまたぐ地獄のような修行のおかげで剣士は無詠唱で扱う事ができた。


「極大呪文:緋炎乃渦インフレムギグ


 剣士の手から放たれたいくつもの巨大な火球は、器用に魔物だけを焼き滅ぼした。


「勇者様が助けてくれた!」


「ありがとう勇者様!」


 人々は魔物による蹂躙の恐怖から救われた事により安堵し互いに抱き合った。そして空を飛び町から去っていく勇者に対しいつまでも声援を送り続けた。


 しかし剣士にはその住人達の声が心苦しく感じられた。何故なら剣士は、町を救った事をどこか後悔していたからだ。


 ―こんな小さな田舎町救ったところで何も変わらないのは分かっていただろ。だって、どうせ世界は滅びるんだから―


 街を一つ、二つ救ったとしても、明日には世界の全てが消えて無くなるんだ。意味なんて何もない。

 だがそれでも彼は放ってはおけなかった。正義感などではない。それは自身の罪の意識だった。


 最後の戦いが近づいていた。宿敵との戦いが。

 この時の為にできる事は全てした。そして全ての力を注ぐつもりだ。


 ―この戦いの結果で全てが決まるんだ。本当に全てが―


 剣士は感情が高ぶり思わず強く歯を噛み締めた。口から血が滴り落ちる。


 敵への怒りや憎しみ。それと同じくらい自分にも同質の感情が向けられた。それを人は後悔と呼ぶ。


 ―この世界に来る前か?いや、来てからでも機会はあった。もっと早く気づいていればこんな事にはならなかった―


 今日、世界は滅びる。しかし剣士は自らの正義の為に戦いを続ける。


「それともこれが、俺たちの運命だったていうのかよ。教えてくれ、神様!」

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