第15話 ピース
その後、洞くつを出た三人は村人たちと一緒にグロッチ村を立ち去った。
とりあえず同じ森の近くにある村長の親類がいるコロッパ村で、わけを話し世話をしてもらうことになった。
しかし四十人ほどとはいえこの人数が急に増えては寝床も食料も困る。そこで他の町や村に家族などがいるものはそっちに移動し、二十人ほどが残った。
優太はそもそもツヴァイガーデンの人間ではないので、他の町に知り合いなどいない。
ビアード達にも、優太は百年前に迷いの森に迷い込んだ大昔の人間だと思われていた。
「森に迷い込む前に暮らしていた場所とか……やっぱり分からないよね」
流石に別の世界から来ましたとは言えない。
この世界では百年で、多くの町や村が魔物の襲撃や地殻変動などによって滅び、人は住む場所を絶えず変えていた。そのため百年まえと同じ場所に暮らしていた場所がある可能性は低いのだ。
「どこにも行く当てがないなら、ずっと村にいてもいいんだよー」
身よりのない優太を心配してビアードはそう言った。優太にとってそれは嬉しいことだったが、心のどこかであまり乗り気でない部分もあった。
ここが異世界であると明確に分かった優太は元の世界に戻りたいと思い始めていたのだ。
―確かに元の世界に戻っても、あっちで俺に群がる人間は肩書き目当てのバカや、親父のようなろくでもないやつばかりだ。だけどあっちにはまだやり残したことがある。逆にここにいても俺の役割はないんだ―
ただ、元の世界に戻ったらクレアと会えなくなってしまうだろう。そのことを考えると少し寂しくなった。
優太はクレアに呼びだされてコロッパ村の方にある川に来ていた。
「クレア、来たよ」
呼び出された場所は、優太とクレアが初めて会った迷いの森の境目にある川よりも、木が少ないせいか日の光が差し涼しい風の吹く場所だった。
優太は彼女の名前を呼び探しながら川岸を歩いていた。
「あ、ユタッ 思ったより早かったね……」
クレアは初めて会ったときのように川に入って水浴びをしていた。優太の姿を見ると慌てて手で露わになっている胸部を隠す。優太も慌てて彼女に背を向けた。
「ご、ごめんッ ……そんなつもりじゃなかったんだ」
「う、うん へへへ、けど嬉しい 呼んでも来てくれると思わなかったから」
「え、どうして」
するとクレアはこういった。
「だって、私アナタに酷いことばっかりしたと思う……けど、それでもユタは助けに来てくれた!」
「……俺は、ただ逃げ回ってただけさ それにほとんどヌダロスと戦ってたのは、じいさんだろ」
「ううん、アナタがいなかったらおじいさんは死んでいたかもしれない。私ずっとお礼が言いたかったの」
そう言うとクレアは突然背後から優太に抱き着いた。
「本当にありがとう!!」
「ク、クレアッ …………当たってるよ」
―ああ、もう死んでもいいかも―
今はまだ優太は、この後の些細な出来事がきっかけに大冒険がはじまるとはまだ知らずにいた。
そして思いもよらず訪れた幸運な時間に、ただ酔いしれていたのだった。
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