第10話:おねだり/皇女のスキル
「素晴らしい!! これは素晴らしいわ!!!」
俺と商人に騒がしいと注意してきたフードを被った少女の連れは、トイレの中からも聞こえるような大音量ではしゃいでいる。
そのため目の前の少女はいたたまれない様子で貧乏ゆすりをした。
「ちょっと! 何してるの?」
「だって凄いのだもの! これは革命よ! 革命!」
「ちょっと!?」
それからしばらく少女の声かけ虚しく騒ぎは続き、水の流れる音と共にすっきりした表情の美少女がトイレから出てきた。
「っフード!!」
「あっ、夢中で忘れていたわ」
トイレから出てきた少女は恐ろしく整った容姿をしていて、どう見ても普通の旅人には見えなかった。
「まさか……?」
俺には分からないが、商人イトーウは何かに気づいた様子。
しかしトイレを使った美少女は、何も言うなと人指し指を唇に当てた。
「ところでこれは誰のものなのかしら?」
「俺のです」
「こんな大きなものどうやって持ち運んでいるのかしら?」
「これです」
別に隠すこともないと俺はフェリにもらった収納袋を彼女に見せた。 するとトイレに興奮していた少女は目を見開き「無限収納袋……?!」と呟いた。
「そんな珍品どこで手に入れたのかしら? あなた不思議な人ね」
「そんなに珍しい物なんですか?」
「珍しい。 そして貴重な物よ。 宝として国の宝物庫に入れられるくらいには」
かなり気軽にフェリが差し出してきたので、こういう空間が拡張された道具はありふれたものなのだと思っていた俺は驚いた。
「あなたが一体何者なのか、気になるところだけれど……このトイレ譲ってもらえないかしら?」
美少女は相当、このトイレの遺物が気に入ったようで懇願に近い表情だ。 しかし俺としてもこのトイレなしの旅は辛いので頷くわけにはいかない。
「すみませんが」
「……対価でしたら後でいくらでも払います」
「そういう問題じゃないんです」
「そう……そうよね……」
「……諦めなさい。 もう遅いし、明日に備えて寝ましょ」
断ると美少女は諦めきれない様子でブツクサと呟くが、少女の言葉によりその場は解散となった。
次の日、商隊は動き出したが俺はなぜかイトーウの荷馬車とは別の馬車に乗っていた。
「昨日はありがとう」
目の前には昨晩、トイレ騒ぎで顔見知りとなった少女二人がいた。
「私はヒビキと言います」
トイレを売ってほしいと懇願した美少女は、青色の長髪をお団子にしたタレ目の美少女だ。
「私はアコ、よろしくね」
そして初めに俺とイトーウに絡んできた少女は、赤色のショートカット。 こちらもフードをしていたから分からなかったが、ヒビキに劣らないツリ目の美少女である。
「俺はエクリオです……それでお話というのは?」
今日、出発前に話があるので馬車に同乗してほしいと突如言われるまま乗ったものの、まだ理由を聞いていない。
「もちろんトイレを売ってほしいという話です」
「……何度聞かれても売りませんよ」
「それは理解しています。 ただ諦めきれないの……だからこれを作った職人を紹介してもらえないかしら?」
紹介したいのは山々だ。 しかしこれはこの世界の職人が作ったものではない。
それに俺もどういう原理でスキルが働いているのか分からないため、作り方を教えることもできない。
「職人はいません……俺が遺物をスキルで改造しました」
「遺物ってあの遺物……? 何にも使えない、変わり者が集めているという?」
「そうそう、それです」
「そうですか……有益な情報感謝します。 ちなみに他にはどんな遺物をお持ちなのですか? 良ければ聞かせてください」
アコはつまらなそうにしているものの、興味津々なヒビキと俺は遺物について話した。
「ありがとうございました。 色々聞けて楽しかったわ」
俺は最後にヒビキと握手を交わして、イトーウの荷馬車へ戻るのであった。
***
少年、エクリオが自分の荷馬車へ戻ったあとアコは首を傾げた。
「あの子に頼めば早いんじゃない?」
「必要ないでしょう?」
「あなたまたやったのね……」
悪びれない態度のヒビキをアコは仕方のない人を見るような目で見て、エクリオが去って行った方へ不憫な視線を向けた。
「ホントにヒビキのスキルってずるいわよね」
「誰も損をするわけではないのだから構わないでしょう?」
ヒビキのスキルは触れた相手のスキルを三つまでコピーする能力である。 このスキルのせいで友人が少ないことがヒビキにとってはコンプレックスであるが、アコは気にせず付き合ってくれるため国の関係抜きに彼女を慕っていた。
「後は国中の商人に遺物を探させればトイレが手に入ります」
「相変わらず清楚な見た目とのギャップが酷いわ……私の分もお願いね?」
「ふふ、どうしようかしら。 私は黒いらしいですから……」
「ごめんって! お願い、ね?」
エクリオから聞いた様々な未知の面白そうな遺物の話で盛り上がる二人であったが――
――これからエクリオと深く関わることになるとは思いもしていなかった。
***
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