EX “day after 〜全てが終わったその先に〜”

 とある日の事だった。

 サウス・リトル・ロフトで依頼された仕事を終え、カムリはバイクで帰路に着いていた。


「蜂の巣の駆除、大イノシシ討伐、迷い猫探し…コレで合わせて2万か……こりゃ、重労働すぎるな。便利屋も侮ったもんじゃねえよ」

『普通に殺し屋続けてた方が楽だったんじゃないの?』

「確かに動く額がデカいからな。だが、捕まれば無期懲役は免れねえ。デケェ金が入るより、真っ当な事して端した金稼ぐ方がよっぽど安パイってわけ」

『結構、真面目なんだ』

「まあな。それに、コッチには前々から貯金していた分があるからな。今更惨めになっても生活は安定するさ」


 バイクが閑静な街中を駆け抜ける。

 その途中、背負っていた“J”が異変を示す。


『これは……救難信号?……え?』

 ショットガンは、困惑していた。まさか、そんな事があり得るはずがないという風に。

「どうした、“J”?」

『信号が届いてる。送り主は……ジョセフ・ワーグナー……』


 “J”の出した名前にカムリは思わずバイクを止めた。

「……ジョセフ?」

 彼の救難信号……それも2

 一度、途切れたはずの救難信号が今になってまた現れた。

 不可解な状況。だが、カムリは考える暇も無く、バイクのアクセルをふかす。

『まって、イーグル!!罠かもしれない』

「罠でもいい!!確かめねえと!!」

走り出したバイクを加速させ、発信元の座標へと駆けつける。


「……嘘だろ」

 信号を追って辿り着いたのは、半壊した小さなビル。


 ブラックブレイズとの初めての邂逅を果たしたあのビルであった。


 地面の上には、大小さまざまな瓦礫と砂埃を被った鉄片、配線の残ったロボットの首、砂埃だらけのライフル銃が混ざっていた。


「だが、ここには何も無かったはずだ。それが一体どうしてまた……」

『それは、分からない……でも、わたしたちが探してない場所があるんじゃない?』

「探してねぇ場所……待てよ…?」

 カムリはバイクから降りて、瓦礫を漁る。


「チィっ、ここじゃねぇ!!こっちか!?」

 手の皮を擦りむきながら鉄屑と、瓦礫の中を掻き分ける。

 陽が落ちる前の事だった。

 瓦礫の中から、地面とは違う感触が指先に伝わる。

「……ビンゴだ」

 泥だらけの手で砕片をどかすと、そこには木製の隠し扉があった。

「“J”、信号は?」

『……反応が強い。この下かも』

「そうか……あの時の信号は途切れたんじゃねえ。このビルが倒壊した時にロボットの部品がジャミング代わりになってやがったんだ……」

 カムリは、隠し扉を勢いよく開ける。


 そこにあったのは果てしない暗闇へと続く階段。

 この階段の先にジョセフが待っている。


「……行こう」

 背負っていた白いショットガン、“J”を持ち暗闇に視線を向ける。

 そして、カムリはその暗闇の中に足を踏み入れた。

 コツ、コツ、コツ……携帯電話のライトを頼りに、暗闇の中を降り続けていく。

 彼の目の前に広がるのは闇ばかり。

 その先に待っているモノが何なのかは分からない。

 巨大な化け物か、地獄の門番か、はたまたそれ以外か

 それでも、彼は進む。

 己の意思のために。


 ジョセフの口から、真相を聞き出さないといけないのだ。


 埃っぽい臭いの中、ひたすらに階段を降り続ける。自然とショットガンのグリップを握る力も強くなる。

 携帯電話の充電が無くなり、仕方なくそのまま降り続ける。


 カツン。

 足先が何か硬いものにぶつかった。一体何が目の前に?

 そう思っててを前に伸ばすと、板状の何かが立っている。

 それがドアだと気づいた時には、既にドアノブに触れていた。

 ざらついた感触からして、錆びついている。

 そのせいか、それとも鍵がかかっているのかドアノブが引けない。


『この先に、強い反応がある』

“J”の言葉にカムリは頷き、小さくドアを3回叩く。

「ジョセフ、いるんだろ?」

 だが、返事はない。


「チッ、仕方ねえ……」

 カムリはショットガンの銃口をドアノブに押し付けながら構える。

 ドン、ドン、ドン!!


 狭い空間に明滅する光と炸裂音がこだまする。

 鍵を壊して、ドアを蹴飛ばすカムリ。


 ドアの向こうには、穏やかな灯火があった。

 ぼんやりとしたオレンジ色の灯り。

「隠し部屋…」

 近づいてみると、その光は炎によるものではなく、ただの電気スタンドのものだった。

 机の上には綺麗に整頓された本と何冊も積まれたノートが。

「ジョセフは……」


 辺りを見回してもジョセフはいない。

「っ……!!」

 代わりに一つの屍が揺り椅子ロッキングチェアの上で揺れていた。

 屍は腐食が進み、もはや骨まで見えていた。

 だが、それがジョセフだということは手に持っていた発信機で分かった。


 屍の着ている白いシャツには、燻んだ赤が滲んでいる。

「ジョセフ……」

 彼はずっと、ここで待っていたのだ。

 椅子に揺られたその屍は、安らかに眠っているようにも見える。


 カムリは、その屍に頭を下げる。

「ジョセフ……俺はお前のおかげでここまで生きてこれた。色んなやつに会うことが出来た。俺を自由にしてくれて、ありがとう」

 きらきらとスタンドの光を受けて頬に一筋、二筋と滴り落ちる軌跡が輝く。

「さよなら、義父とうさん」

 別れを告げて踵を返すカムリ。


 その時だった。

『ザザ……ザザザ…―ジ…メッセージ………す…メッ……ザザザザ……メッセージ』

 突然、どこかからノイズが流れる。

『ザザ……ル……ザザザ……イーグル……』

 ジョセフの声が響いた。

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