monologue 〜ある青年の臨終〜

 ずっと、寂しかった。

 物心ついた時には親はどちらも消えていた。

 殺されたと聞いた。

 家にはボクと妹の二人。

 家に遺された貯金を切り崩しながら生きてきた。

 苦しくはなかった。けど寂しかった。


 でも、ある日親友に出会った。

 何事も淡々と良くも悪くも言わない日常を過ごしていた彼が、少し眩しかった。


 そして……彼はいつのまにか消えていた。

 中央技術研究所の崩壊した日。あの日から彼とは会えなくなった。

 ボクはまた一人失った。

 怖かった。親を失い、友を失う。

 神さまはどうして、ボクから奪っていくのか。

 奪われるなら……次は妹だ。そう思った。

 だからボクは決めた。“妹は絶対に守る“って。


 その思いだけでボクは成り上がってきた。

 血と汗と涙と火薬でやっと……見えた景色だ。

 でも、親友は帰ってこない。

 だから、この都市を支配する企業をぶっ壊そうとした。


 ぶっ壊して、妹が安心していられるように、親友が帰って来られるように……

 そんな矢先だ。“彼”に出会ったのは。

 “彼”は下半身を失って、地面を這いつくばっていた。

 “彼”は自らを完全な人間と称していた。そして、「助けて」と言った。

 その姿が親友に重なったから。

 思わずボクは手を差し伸べた。


 その瞬間だ。

 ボクの身体に“彼”が入ってきたんだ。

 口の中に鉄の味が広がって気持ち悪くて……

 そして、ボクはこの力を手に入れた。


 “Z”は、“彼”がその時所持していた少女だ。

 自らを次代少女兵器と言った。


 “彼”は、この四菱の地下に次代少女兵器を全て格納してこの都市のリセットを試みていたんだ。


 ボクはそれをただ引き受けただけだ。

 そっちの方が余計な犠牲を出さずに済むから。


「でも、君が止めてくれるなんて思いもしなかったよ」

 チリチリと指先から砂鉄を零しながら、アダムは崩れ落ちていく。

「ホント、皮肉というべきかな。最後の最後でが敵になるなんて」

 アダムは苦笑しながらカムリの方を見ていた。

「カムリ、後は君の自由だ。この企業を潰したって彼女達をどうしたって構わない。君は——この都市に——羽撃く……大鷲イーグルだ。好きに、飛ぶ、んだ……」

 彼の身体が粒子となって宙に消えていく。


 白い空間に優しい静寂が広がる。


 カムリは小さなため息を吐く。

「さよなら、。俺のたった一人の旧い友達よ」


 そして、彼は歩み出す。

 全てを知った、その先の為に。

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