collusion 〜共同作戦、実行16分前〜
リトル・ロフト
「いらっしゃい、いらっしゃい」
「安いよー実際安いよー」
「おぅ、そこの嬢ちゃん!!活きのいいイカがあるよ!!」
「こっち、美味しいモロコシあるよ」
「バナナ3束300円のとこをなんと200円!!」
喧騒響き渡る商店街。
マーケット・タンガ。
修羅の都と呼ばれるシティの中で活気のいい場所の一つ。
遥か昔から続く屋根付き市場で、燃えても壊されても立ち上がり続ける庶民の味方。
エイト・バナーのアウトレットとは違った雰囲気がここにはある。
人情溢れる場所といえば確かにとシティの民は頷くほど。
すぐ近くに大型老舗デパートの井管屋があっても、マーケットの賑やかさは絶えることがなかったぐらいには愛されていた。
そのおかげかどうか分からないが、銃と火薬に染まってしまったシティになった現在でも井管屋とともに現存している。
「えーと、322、322……」
ある場所を求めて人混みを掻き分けていくカムリ。
「一体、どこへと向かっているんですか」
「322だ」
「322……?」
首を傾げるアカリ。
「“ハッキン322“。ここのどこかにある施設だ」
「そこの施設で何を……?」
「部屋で話した計画を成功させるための手段だよ」
「あの計画の為の手段……」
「ちなみに皐月はもう呼んでいる」
後ろを振り返ってサムズアップしてみるカムリ。
「へー」
アカリがめちゃくちゃ食べ物を買っていた。
カムリはサムズアップしたまま、アカリに冷たい視線を送る。
「……いつの間に買ってんだよ」
「美味しそうなものは買うのが当然でしょう」
「いや、そうだけど……そうだけどよ」
めっちゃ買ってんなコイツ。
アカリの両腕に提げられたレジ袋が擦れている。
てか、どんだけレジ袋貰ってんだよ。
「いいじゃないですか、あの人たちへの差し入れです」
あの人たち……というのはおそらく黒服の事だろう。
それにしてもよく買うな。
「あなたもいります?ぬか炊きですが」
「ぬか炊き。チョイス渋いな」
「なんか好きそうだなって思って」
「俺そこまでおじさんじゃねぇぞ。他に何かねえのか」
「マグロ丼はあげません」
「んな事聞いてない。……まぁいい。コロッケで良いよ」
「コロッケはもう食べました」
「お前さぁ……」
「だからぬか炊きです」
「もういいよ。ぬか炊き食うよ」
本当に殺し屋と暴力団当主の会話なのか。
側から見れば食い意地の張ってる彼女とすごいドン引きしてる彼氏かと思われているだろう。
とどのつまり、めちゃくちゃイチャついてるカップルだ。
そんな事思われたくない。
「まぁ、さっちゃんが来る事は分かってました。あなたの計画はさっちゃんなしでは動きませんから」
「……あぁ、そうだよ」
余談だが、“J”は家で留守番させている。
本来は連れて行きたいが、事情が事情なのだ。
その証拠にアカリの方も“V”を置いてきている。
雑踏の中で、おどおど辺りを何度も見回している少女が見える。
皐月だ。
「さっちゃ〜〜ん」
アカリが手を大きく振って、皐月の方へと駆け出す。
皐月は皐月で表情を明るくしてアカリの方を見る。
で、その後カムリの方を見てそのまま硬直する。
いや、なんでだよ。
そんなに怖い訳じゃないだろ。
「さっちゃん、やっぱりあなたの事怖いんですって」
普通に傷付いた。
カムリは深いため息を深呼吸代わりに吐いて、気を取り直す。
そして、皐月が立っていた店を見つめる。
看板も何もないその建物が店だと分かった理由は、ここが皐月との待ち合わせ場所であり、彼らの目的地だったから。
「まぁ、いい。ここが“ハッキン322”……ダークウェブ専門のネットカフェ。企業や国のセキュリティ破りが大体使ってる……でいいよな」
皐月に確認してみると、強張った表情で何度も縦にヘッドバンキングしている。
「今からここで、シティの警察署のサーバーを全部潰してもらう」
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