クラス全員が異世界に転移してなんか天使の力も持ってるので生きるために無双する~転移と能力とみんなの想いと~

後藤 悠慈

プロローグ

第1話 とりあえず焼き払うね

 イヤホンをしていない世界の音はこうも穏やかで静かなものなんだと、何度も考えた思考を今日も巡らせる。時間はちょうど午前の遅い時間。人々や村が完全に起き、村の世界が動き始める時間だ。そんな忙しない時間に、私は一人この村で唯一のバルにて、水を飲みながらぼうっと窓から外を眺めていた。スマホも学校も遊び場もない環境にやっと慣れて来た私の今の楽しみは、いろんなところから眺める空を楽しむことなのだ。


「今日は平和な一日になりゃいいな」


 そう言いながら近づいてくるバルの店主のおじさん。若い顔つきに似合わない木製の杖を付き、右足を引きづりながら歩くおじさんは、私の相席に座る。


「ほんと、それね~。まあ、あいつらが監視してるんだし、大丈夫だと思うけどさ! いざとなったら私いるし、まだまだおじさんの出る幕はないよ!」

「へっ、よく言うぜ。俺も足が自由に動けば、10代の時みたいに一人で村を守れるんだがな!」

「それ前にも聞いたし! 確か、意外にこの村の一番強い、自警団のエースだったんでしょ?」

「意外には余計な一言だが、まあそうだった。脚を怪我してからやめて、こうやって親父の店やってるがな。剣の才能以外にも、料理の才能もあったのは自分でもびっくりだったぜ」


 そういっておじさんは利き手の右手を左手でさする。そこには不器用な手つきで包丁の古傷が残っているのだ。おじさんのお父さんがそう言っていた。才能は才能でも、料理の方は努力の才能があると言っていたっけ。


「おじさんの料理美味しいからさ、毎日食べさせてもらってほんと、ありがとね!」

「何言ってんだよ。むしろこっちがありがとうだ。ほんと、マジであの時にお前たちが来なかったら、冗談抜きで村は終わってたんだからな。こうやってこの村に留まってくれてるし、そのほんのお礼なんだからよ。それでも足りないって思ってるんだがな」

「それこそ、行く当てもない私たちを泊めてくれてるんだし、お互いさまでしょ! それじゃあ、お互いありがとうだね!」


 あの日。約1か月くらい前になるだろうか。私たち4人は当てもなく彷徨ってこの村に行きついたんだ。魔物の群れに襲われて壊滅状態だったこの村を私たちが助けた一件。その出来事があって、私たちはこの村に居候させてもらうことが出来た。

 私は水を一口飲む。この村の水は、確か魔鉱石が潤沢に眠っている山から流れている地下水を汲んでいるから、非常においしいらしい。正直、そこらへんの一般知識もよく分かっていないけど、まあ私たちにとってはミネラルが豊富なんだと解釈して飲んでいる。


 そんな穏やかなひと時の最中、その警鐘は突然鳴り響いた。村中に響く鐘の音と共に、村の外を見回っていた一人の自警団員が、私のいるバルへと走り込んできた。


「おい、どうした! まさか魔物か?」

「はい、そうです! 魔物の群れが、真っすぐ、この村に近づいてきてます! しかもそのほとんどが、中位種なんです!」

「おいおい、マジかよ……」


 魔物の中位種という言葉にバルのおじさんは言葉を失う。確か、魔物には分かりやすいように学者たちが分類したものがあって、細かく分類されているのを一般化して表現すると数として3、4種類あるらしく、その中で中位種は騎士とか、兵士でも苦戦を強いられるくらいの強さに分類されるらしい。だから、一国の都街なら問題はないけど、この村のように、どこの国にも属さない辺境の村なら、下手したら壊滅の危機もあり得るのだと。


「今、救世主たち3人が本隊群を相手取っていますが、そこから抜けて来た魔物たちが群れを成してここに向かっているんです!」

「なるほどね~。それじゃあ、最終防衛ラインの私が必要ってことだよね!」

「……ああ、そういうことになるな。すまん、またこの村を救ってくれないか?」

「当たり前! おじさんの美味しいごはん、食べたいし! その魔物の群れって、どこから来てる?」

「はい。ちょうどこの村の正面入り口方面から真っすぐこちらに来ています」

「分かった! じゃあ、行ってくるよ!」


 私は飲んでいた水を一気に飲み干し、身なりを整えて村の正面出入口へ向かう。村の中はすでに迎撃のために自警団たちが避難勧告や防衛設備を用意し、準備を進めている。この世界では、こういった村の壊滅危機は毎日隣り合わせなんだと、村長が言っていたっけ。生き残るための必死に準備を進めている。その人の往来の中、私は真っすぐ正面入り口に向かう。

 村の正面入り口にはすでに自警団のレギュラーメンバーたちが集っていた。彼らの中から、私に気づき近づいてくる人がいた。


「どうも、自警団長さん!」

「救世主ミカ殿。ここにいると言うことは、魔物の群れを迎撃していただけると考え良いか?」

「もちろん! そのために私がこの村にいるんだし!

「そうか……本当ならこの村の問題は、我々が解決するべき問題なのだと理解している。だが、どうか、どうかミカ殿の力で、村を守っていただけないか……?」

「だからそのつもりだって! そう畏まらないでよ! それじゃあ、私が前に出るから、みんなは村の方に居てよ! ――撃ち漏らすつもりないけど、念のためね!」


 私は自警団長にそう伝え、前に出る。私は深呼吸をして、自分自身の力をイメージする。この世界に来て最初の身に着けた、自分自身の防衛方法を、頭の中でイメージする。


 人々の話し声が聞こえなくなり、自然音だけが残る。その自然音の中で響く、魔物たちの駆ける足跡。それが徐々に大きく、そして近づいてくることを感じ、私は一気に葬るための全力をイメージした。そしてそれを、自分自身に聞かせるように、声に出す。


「セラフィムモード」


 私の声に呼応し、突如輝く炎が具現する。その炎は私を包み、同時に目を閉じる。閉じた瞳の裏で、自分自身を俯瞰するイメージを想像し、私は輝炎に包まれ球体になっている。そして、内なる力を解放し、私の体は輝炎の6本の翼、手に輝炎で出来た諸刃の長剣を持ち、解放された力の勢いで翼を広げて少し宙に飛び、地面に足を付く。


 その直後、魔物の群れの先頭がこちらに向かって走ってくる姿を捉える。恐らくその後続に多くの魔物たちが走っているのだろう。私は右手に持った長剣を天に掲げ、そして力強く振り下ろした。

 剣の振り下ろしと共に輝炎が発動し、魔物の群れを丸々包み込むほど巨大な炎が長剣から放出される。魔物たちがその炎を避けようと動き始めていたが、炎の速さは魔物たちを逃がすことなく捉え、そして魔物たちを丸々飲み込んだ。

 炎が消え、魔物の群れがいた方向を見る。そこには何も残っていない。魔法制御で魔物以外を燃やさないようにしていたため、全く綺麗に、先ほどまでいた魔物たちだけを、文字通り消し灰にした。私は一応警戒しながらひとまず一呼吸ついて、そして後方の村の人たちを向いて、安心させるためにこういった。


「とりあえず焼き払ったよ!」


 魔物たちが村を襲う時、私たちはその魔物たちを消滅させる。それが、この村に来てからのひとまずの日課になっている。

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