第29話 ごめん、やっぱ嘘


 敬愛だろうが恋慕だろうが、誰かを強く想うとき、それは祈りなのだ。

 そして祈りは清廉なものだ。ちょうど私が、雨の降る窓を眺めながら、その少しの晴れ間に君を考えているように。あ、カラスが鳴いた。最近出現し始めた野良猫も、しきりににゃおにゃお言っている。隣の家のおばちゃんが餌やりをしているという話を、親から聞いた。

 悲しいのは、こんな日常を君に言えないことだ。どうでもいいことをどうでもよく綴りたい。雨が降っているんだけれど、窓から見える空が青いこと。カラスの声は意外と好きなこと。鳴き声は毎日聞いているのに、まだ猫の姿を見ていないこと。

 言おうと思えば言える。今この瞬間も、駄文を考えている暇があれば、君にメッセージを送ればいい。君も待っているかもしれない。私のことが、君だってそこそこ大事なはずだ。

 だから私はずるい人間だ。君がそこそこ私を想っていることを知りながら、私は君に会わない。話もしない。

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