第23話 こちら天文台。曇り


 ただ一つのものをよすがにしてしまった人生は最悪だ。そして、そのよすがを失くしてしまった人生は、救いようがない。

 北極星は変遷する。今はポラリスという星なのだが、地球の歳差運動だかなんだかという物理法則のために、ポラリスから違う星へと、北極星を担うものが変わるのだ。過去には夏の大三角たちが北極星だったこともあったらしい。また、これから数千年、数万年で、何度も彼らは巡る。

 長い長い時を経て、あのポラリスさえも北極星ではなくなるなら。

 いつか君も、私の大切ではなくなるんだろうか? 私のよすがである、よすがだった君も、何の意味もないただの記憶となり果てるんだろうか? 君を忘れられないことに気づいて焦る私を、若かったなんて達観する私が現れてくれるんだろうか?

 そうであればいい。私の北極星でなくなった君なんて。

 それなのに私の前には、次の北極星が現れない。

 巡らない天体に、君は帰らない。

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