第19話 子供かよ、とは言わないでおこう


 君が挙動不審ぎみにカーテンを開けたので、私はつけていたイヤホンを外す。私が尋ねる間もなく、答えが聴こえてきた。どこかで花火が鳴った。

 答え合わせはもう済んだのに、君はわざわざ「花火やってる」なんて言う。

 滑りの悪い窓をスライドさせて、君がベランダに出る。キョロキョロと辺りを見渡し始めたところで、ようやく私は立ち上がった。バンバンと音は聞こえて忙しないくらいなのに、肝心の光源は見当たらない。

 反対側だと君が言う。更には部屋着のままで玄関に向かったので、私は慌てて追いかけた。おい、このヨレヨレTシャツで外に出す気か。

 君は玄関でドアを開けて待っている。私は靴のかかとを潰して、きちんと履けたフリをする。コンクリートの地面が湿っている。少しだけ雨が降っているらしい。

 外には多くの人がいた。マンションやテナントビルをかいくぐるように光を探す。

 運悪く、音が聞こえなくなってしまった。ちょうど花火は終わったらしい。

 それなのに君には微塵の後悔も見えない。

 見えなかったね、なんて楽しそうに言う。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る