第11話 ノーユーノーミーハッピーライフ


 小説家というのは幸せ者だと思う。セルバンテスは牢獄の中でかの偉大なドン・キホーテを執筆したという。どんな不幸も、逞しい想像力の前ではネタや題材に過ぎないわけだ。あるいはショーペンハウアーによれば、人の幸福はいつだって主観であり、精神的豊かさによるらしい。暇があれば動画だのテレビだので必死に退屈をまぎらわせようとする親兄弟を見る度、それを痛く実感する。

 そういうわけで、私も幸福である。暇な時間があれば、あるいはなくとも、さらには夢の中であろうと考え事をしている私は、積極的に君のことを題材にする。

 そういう言い方をすると、まるで君が不幸な想い出みたいだ。いや、実際どうなのだろう? 君に出会えたのは私にとって幸か不幸か。

 少なくとも失くした今は、大変不幸である。今現在悲しい気持ちでいるので、それは確かだと思う。

 じゃあ一緒に居た時は……まあ。

 どうせ失われる幸せなら、最初から知らないほうが良かったんだろうか。ありきたりな疑問は、今日も私の題材たり得る。私は幸せ者だ。

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