第8話

 ねこひろい われひろいだと あめ


 ホームレスのテント村のわきに、仔猫こねこが捨てられることがある。まだ目の開かない仔猫だと助からないことが多い。目が開いていると助かるかもしれない。路上生活者が与えるミルクを飲めれば、だいたい助かる。そうしてテント村についている猫は多い。



 うめが 小枝こえださきに きほこり


 可憐な白い梅の花が咲いている。淪落りんらくの底のテント村にも春は来る。誰しも心のなかに一輪の花を咲かせているものである。あるいは花は汚れているかもしれない。しかし、懸命に生命いのちを咲かせる以外にない。



 わんもつ 黒爪くろつめながめ 明日あすをみる


 日雇ひやといの土工どこう仕事の帰りだとからだはくたくたに疲れ、倒れ込むようにテントのなかにせる。夕食どきは、もう日が暮れてランタン電燈のあかりでめしう。じっと、見つめる親指の爪の汚れに、自信と悔恨がぜになって胸中に去来する。


 

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