第12話 初任務へ
「一ヶ月お疲れ様。どうだった?」
「どうだったって聞かれても……」
いきなりルドベキアの執務室に呼び出され、労いの言葉と共に投げかけられた抽象的な質問。正直、よくわからないまま必死に教えてもらったことを詰め込んだだけで、何ができた方が良いのか、自分がどの程度成長できたのか、具体的な指標が無いため何とも言えない。強いて言えば——
「……大変だった」
「ははっ、そうか、そうだろうな」
魔力の操作に関しては時間が無くて教えてもらえなかったものがあるし、剣術の指南も結局一本もサクラから取れなかった。正直、満足いったかと言われるとそうでもない。
「覚えることが多くて大変だっただろう。でも、あの2人から聞いた感じ実戦に出る分にはさほど問題なさそうだね」
さほどって言ったな。やっぱり不十分だったのだろうか。
「休む間もなく手申し訳ないが、この後とある任に就いてもらおうと思う」
「やっぱり……不安だなぁ……もうちょっと、訓練した方がいいんじゃないかな」
タダですら戦場に出るなんて怖いのに、訓練の成果がまぁまぁだなんて不安でしかない。どうにか延期にならないかな。
「そんな心配するな。君の実力なら無事に戻って来れるさ」
「それ本気で言ってる?」
「ああ、もちろんだ。訓練の成果は十分。むしろ、想像以上で助かったよ」
そう言ってルドベキアは爽やかな笑顔を向けてきた。噂では人たらしなんて言われているが、こうやって接しているうちに何となくその理由が分かった気がする。
「さて、それじゃあ本題に入ろうか。君にしてもらいたいのは最近残っている焚火跡の調査だ」
「焚火跡の調査?」
そう言われてもなんだかピンと来ない。そもそも何故、焚火跡を調査するのだろうか。
「森の中に複数確認されていてね、明らかに人によるものではあるんだけどそれが誰によるものなのかわからないんだ。A.S.Fの子ではないみたいだし、そうなると遭難者のものである可能性が高い」
「敵の可能性は無いの?」
「その可能性は低いと思ってるよ。わざわざ痕跡が残るようなことをするメリットは無いだろうしね。でも、その可能性も十分にありえる。注意を怠らないようにね」
どうやら話を聞いた感じ戦闘になる可能性は低そうだ。遭難者の救助。最初に打って付けの任務だろう。
「それと、君のペアの話だ」
「ペア?」
そういえばA.S.Fは基本的にペアで任務に当たるという話だった。任務の内容次第ではあるが、他のペアと組んで行動することが多いらしい。
「今の君にはペア相手がいないからね。代わりにペアの子を用意させてもらったよ」
「代わりの子?」
「ああ、ちょうどペアを探しているところの子がいてね。ついこの前A級に上がったばかりでまだペア相手が見つかっていないんだ」
「ん?ちょっと待って?」
「どうしたんだい?」
「A級に上がったばかりの子と組むの?私が?」
「何か問題でも?」
「それって私、A級ってこと?」
「ああ、すまないが今の実力的にはそこかなと」
「いや、いきなりA級から!?」
A.S.FのランクはC、B、A、Sの順でつけられていて、C級が訓練生なので実質B級が1番下のランクに当たる。S級は規格外なので実質無いものとすると、A級は上位10%のエリートだ。そんなところから何故か、訓練終わったばかりの私がスタートすることになっている。
「大丈夫さ、君と組んでもらう予定の子も1ヶ月でA級まで上がってきてる。最速クラスではあるができない事じゃない」
「それ才能ある人の話じゃん。できない事じゃないとか軽々しく言うなよ」
やはりエリートは考えることが違う。頼むから凡人にもっと寄り添った考え方をして欲しい。
「君もかなり才能あるんだけどね」
「お世辞はいいよ」
「お世辞じゃないんだけどなぁ……まぁいいや、話を戻そうか」
「私のペア相手の子よね?どんな子なの?」
「あの子は……おっと、噂をすれば……」
まるで仕込んだかのようなタイミングで扉が開き、3人が部屋に入って来た。
「どもっす!」
「馬鹿!指令に対してその態度はないだろ!」
「ふふ、気にしなくていい。みんなも楽にしてくれて構わないよ」
眩しいほどの笑顔を浮かべ、気さくに挨拶した子はまた別の子に窘めるように拳骨をもらった。
「それにしてもいいところで来てくれたね。ちょうど君たちの紹介をしようと思っていたところなんだ」
「そうなんっすね、いやー間に合ってよかったっす」
「あんた、本当に怖いもの知らずね。目の前にかつてのS級にして歴代最強クラスの2人がいるのよ?」
歴代最強クラスの2人?それってまさか——
「私!?」
「いや、話しただろう。君は元No.1だって」
「歴代最強とは聞いてないんですけど!?」
かつてのトップにしてはみんなの期待が重いなと思っていたら、まさかのかつてではなく歴代最強だった。余計に信じられないが……
「さて、せっかく集まったんだ。私の口から紹介するのもなんだから各々に自己紹介をしてもらおうか」
「わかったっす!」
元気に手を挙げて返事をしたのは最初に拳骨をもらった子だ。
白いボブカットに、緑色のメッシュを入れた明るくてまさに天真爛漫という言葉が似合いそうな子。
「私の名前はクローバー!趣味は鍛錬っす!第三世代の新入りっすが先輩方には負けないっすよ!」
「今後しばらくはクローバーとペアを組んでもらうよ。仲良くしてやってくれ」
「よろしくっす!」
「よ、よろしく」
第三世代。2ヶ月前に入って来た子たち。つまり、私と1ヶ月しか変わらない新人だ。
それにしても、この元気いっぱいでちょっと馬鹿っぽい感じ、なんだか既視感を感じる。どこの最強だったっけ。
「それじゃ次、ブローディア行こうか」
「わかりました。初めましてミズキ様、ブローディアです。A級で、そこのカランとペア組んでます。一応、カランとは姉妹です」
髪型が似ていると思ったら姉妹だったらしい。2人とも2つに分けた後ろの髪を、先の方で縛っている。違うのは髪の色と長さくらい。
「なるほど、紫で長い方がブローディアで、赤くて短い方がカランか」
「覚えやすいでしょ?じゃあ次カランね」
「今の流れでアタシの自己紹介いる?」
「いるいる」
若干嫌そうにカランは自己紹介を始めた。
「カラン。姉さんとペア組んでる。以上」
「素っ気ないなぁ」
「別にいいでしょ、特に言うこと無いし」
初対面とはいえあまりにも隔たりを感じる。この4人で任務なんて本当に大丈夫なのだろうか。
「この3人には任務について先に伝えてある。もちろんミズキのことについてもね。それじゃ、初めての任務、頑張ってね」
そう言って私たち4人はルドベキアの執務室から追い出された。
「とりあえず目的地に向かいますか」
ブローディアがそう言うと、もう慣れているのか私以外の3人は同じ方向へ歩き始めた。
「どこに行くの?」
「あそこだと、第三中央防衛拠点が近いかな」
「……どこ?」
そんな当たり前のように言われても、私はまだ土地勘もなれければ、なんて名前の拠点があるのかも分からない。
とにかく置いていかれないように、3人の動きに注意しながらついて行く。
しばらく施設内を歩き、転送装置と書かれた部屋の中に入った。
「ここは……」
中央によく分からない大きな装置があるだけの、さほど広くない部屋。特に飾り気もなく、何か道具でも入っているであろうロッカーが置かれているだけだった。
「ここにあるのが転送装置。これを使って別の拠点の転送装置に飛ぶことができる。基本的に任務に出る時は、この装置で目標地点の近くの拠点に飛んで、そこから飛ぶなり歩くなりで向かうことになるよ」
ブローディアが、私の方を見るなり、丁寧に説明してくれた。ここまで何も言われなかったので、てっきり説明する気がないのかと思っていたが、そんなことはなかったようだ。
不安でいっぱいだった胸が少し軽くなったような気がした。
「生体認証で自分の任務の目的地は勝手に表示されるから、マップ見て近いとこに飛べばいいよ」
ブローディアの解説もありがたいが、それよりもA.S.F部隊の技術力の高さにも驚かされた。
仮想空間による自由自在な世界の構築。各地に点在する拠点を繋ぐ転送装置。個人の情報を生体認証で管理し、自動で適切な処理をして設備を快適に扱える。
「さて、任務に出る前に作戦を伝えようか」
「作戦?」
「まず、二手に分かれて森の中を探索しよう。その方が効率的だろうからね」
「効率的に回るなら全員バラバラの方がいいんじゃないっすか?」
「さすがに単独行動は避けたいから却下」
この作戦内容が告げられ、意見をかわす感じ。いよいよ出発の時だという感じがしてドキドキしてきた。
「2方向から森の中を探索する感じで行こう。だいぶアバウトだけどそのくらいしかできることはないかな」
ブローディアの意見に全員異論はないのか、何も言わずに頷いた。
「よし、それじゃあ行こうか」
そう言ってブローディアがパネルを操作すると、装置が光出した。その光は勢いを増していき、私たちを包み込んだ。
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