ヒーローは遅れてやって来る

九重ショコラ

ヒーローは遅れてやって来る

『ヒーローは遅れてやって来る』




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──練習用の木製の剣同士がぶつかり合う音。それは城の中庭で響いていた。

「っっ……全然手加減しねぇじゃん!」

「当たり前でしょ…打ち合いだよ?」

昼下がり、俺は双子の姉であるルカと、騎士として剣術の鍛錬をしていたのだ。

「ほら、隙あり。」

「うわぁっ…!!」

相手ばかり見ていたせいで足元がもつれ、思わず尻餅を付くと、

「……っっ!!」

──ルカの突きが、首に届く寸前で止められた。

「…俺、一応弟なんすけど?」

向けられた切っ先に「降参」と両手を挙げた俺は、わざと上目遣いでルカを見上げるが、

「ソラの方がちょっと後に生まれただけじゃん…対して変わんないでしょ。」

…相手にもされなかった。

──お察しの通り、剣術のスキルは俺よりルカの方が上だ。先程から何戦かやっているが、一向にこちらには勝機が向かない。…逆に俺がコイツに勝てるモノってなんだろう、身長?

「あぁ〜〜疲れた!!ちょっと休憩しようルカ!!」

「ん?…あぁ、もうこんな時間か。」

城の大時計を見たルカが呟く。

「…そうだね。城下町の喫茶店へ、お菓子でも食べに行く?」

「っしゃ!お菓子〜♪」

「お子ちゃまだね、ちゃんと弟っぽいじゃん。」

「………、」

他の奴なら、「たかが稽古で本気(マジ)になるのもお子ちゃまだろ!」などと言い返せるところなのだが…何せコイツには頭が上がらない。「おこちゃま…」と頭の中で反芻しながら、先に歩き出していたルカの後を追った。



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──そんなこんなで、城下町でパフェを頂いた帰り道。…慌てた様子の男が1人、俺達に声を掛けてきた。

「…すみません、騎士団のソラ様とルカ様でしょうか?」

「「 ? 」」

「そうですけど…何か?」

ルカがそう返すと、

「…王子がお呼びでして。ご同行願えますか?」



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「お、ソラとルカ。急にゴメンね。」

“王子”──アルリスが、まず唐突の呼び出しを詫びる。

「ん?いいよ別に。パフェ食べてる途中なら断ってたけど。」

「ぱ、パフェ…??」

「ちょっとソラ、敬語を使って。」

“王子”にタメ口をきいたので、ルカに隣から肘で小突かれる。…アルリスとは長い付き合いの幼馴染だってのに、逆にコイツはよく敬語で話せるな…。

「はァ…んで、なんすか王サマ。」

「取ってつけたような敬語だね…いや、というかそんなこと言ってる場合じゃなかった。」

「「?」」

一刻を争うようなアルリスの言い方に、二人で首を傾げる。…と、彼が端的な説明を寄越した。

「──ココの隣町で、ドラゴンが住民を襲ってるんだよ。」

「「…ドラゴン?」」

「住民は避難させてあるから、二人には討伐をお願いしたい。」

…二人で目を見合わせ、互いの意思を確認する。そして返事をした。

「私は構いません。」

「俺も問題ないよ!」

「お、ありがとう!」

アルリスが微笑んだ。…と、

「──じゃあ、明日朝イチでお願いね!」

「え゙」

…衝撃的な情報を聞かされる。

「お、起きれるかなぁ…」

実は…俺にとって早起きとは、苦手中の苦手分野なのだ。ドラゴンの討伐より正直そっちの方が問題である。…てかアルリス、俺らが引き受けてから言うなよそんなこと。

「ソラ、起こしてあげよっか?」

ルカがそう言うので、

「…いや、気持ちだけ受け取っとく…。」

…丁重に断っておいた。というのも、ルカの起こし方は少し…いやだいぶ手荒なので、出来れば自分で穏やかに起床したいのだ。…さて、寝るのが大好きな俺にとって、天敵の朝をどう迎えるべきか…思索しながら騎士寮に戻ろうとすると、

「…あ、そういやソラ、」

「?」

…アルリスに引き留められたので、振り返る。

「なに?」

ルカが先に行ったのを確認してから…タメ口で用件を訊ねると、

「その──魔法の方はどう?」

「……、あ〜……」

…その事かと目を逸らした。

「えっと…まだイマイチかも…。」

「そっか…。」

包み隠さずそう答えると、アルリスが眉を下げた。そして彼が言う。

「ソラの魔法はちょっと特殊なだけで、使い方さえ上手くやれば化けるはずだから…」

「?…いいよ?フォローとかしなくて。」

「そ、そんなんじゃなくて!…っその、」

アルリスが続けた。

「…明日の討伐、危なくなったらちゃんと逃げてよ…?」

「……あ〜、心配してくれてありがとな。」

「ちょっと!『うん』って言ってよ!」

まだ何か言いたげなアルリスに、「じゃあな」とだけ言って踵を返した。



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──俺の魔法は、生まれた時から少し特殊だった。

もちろん、発動しない訳では無いのだが──唱えてから発動するまでに、“時差”が発生するのだ。時差の長さはモノによるが…大抵は、一発で威力の出る魔法の方が、発動までの時差が長くなる。…しかもそれに加え、俺は生まれつき魔力の量が少なかった。そんな俺に比べ双子のルカは、魔力量が多い上に──“対象の魔力を吸い取れる”という、極めて珍しい魔法も持ち合わせていた。羨ましい限りだ。

…話を戻そう。

俺に生まれつき魔力が少ないコトから、亡くなった両親は俺にある“お守り”をくれた。それはペンダント型の小瓶のようなモノで、ルカも“ソレ”については知っている。俺も詳細は分からないが、両親は「困ったらそれを割って、光に救(たす)けを求めなさい」と言っていた。…だが、割ってしまうとどうやら──俺に危険が迫るらしい。俺がいつか、少ない魔力のせいで辛い思いをしないようにと…“ソレ”は両親が悩みに悩んで持たせた、俺の“切り札”だった。

…そういうことで、“コレ”については未だに分からないことも多いが…とりあえずもしもの時の為に、常に首に提げてはいるというワケだ。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「…あ、ここじゃね?」

──早朝、曇り空の今日。

なんとか朝日と共に起床することの出来た俺は、ルカと隣町に来ていた。

「静か…ほんとに住民は、全員避難してるっぽいね。」

ルカが辺りを見回し呟く。

「おー、…瓦礫だらけ。」

…無惨に潰れた家を見て、俺もそう呟いた。

「…てか、ドラゴンってどこ?」

ルカがそう言い視線を巡らす。

「そういや、それらしいモノは見てな…」

…言いかけ、空を見上げて、

──言葉を失った。

「?」

「ソラ?」

…曇り空だと思っていた。いや、まさか、

──俺らが見ていたあの空自体が灰色のドラゴンだなんて、誰か思いつく…?!?

《ギュアアァァアァア!!!》

灰色の空に現れた赤い目玉が俺たちを捉え、大きく咆哮を上げた。

「「!!」」

巨大な龍の咆哮が向かい風のように浴びせられ、思わず2人とも両腕で顔を覆う。

「──っっ、でっか…!!!」

「嘘だろ、あんなのどうやって倒すワケ…?!」

灰色の空が蠢き、やっと龍の全身を捉えることが出来たものの…改めて見るその大きさに、軽く絶望する。

「…いや、“どうやって”を考えるより…全部試した方が早いか。」

流石、冷静なルカは直ぐに攻撃態勢をとる。

「おう…それもそうだな。」

俺も背負っていた鞘から剣を取り出した。

「「はぁっっ!!」」

──並んでいたルカと、同時に地を蹴り高く跳ぶ。ドラゴンの首に向かって、共に剣を振るうが…

《ガァァア!!!》

「…っっ!!」

「ダメだ…!!」

…硬い鱗に弾かれ、翼で体ごと薙ぎ払われた。

「っっ…大丈夫ソラ?!」

「俺より自分の心配しとけって!!」

高所から叩き落とされたものの、揃って民家の屋根に着地し事なきを得る。…が、

「「!」」

休む暇もなく、ドラゴンが鋭い爪を振り下ろしてきた。

「っ避けろルカ!」

「分かってるってば!」

ルカと左右に跳んで躱すと──俺らに当て損なった斬撃は、足場だった民家の屋根を直撃する。攻撃をモロに食らったソレが、轟音を立てて崩れた。その無惨な様子を見て…ルカが舌打ちと共に吐き捨てる。

「…チッ、降りてきなさいよアイツ…!!」

「空飛べるって卑怯だな…w」

悪態をつくルカにそう返す。…と、

「遠距離でも出来る攻撃って、もう魔法しかないでしょ…」

「…俺の苦手分野。」

「知ってる、だからソラはじっとしてて。」

「……、何もしないっていうのも苦手なんだけど?」

「あ〜もう!言ってる場合じゃないでしょ!」

言うが早いが、ルカ目掛けて降ってきたドラゴンの爪を、

「──氷霧(こおりぎり)!」

…彼女が氷魔法で弾く。食らったドラゴンがよろめいた隙に、

「氷塊(ひょうかい)!」

素早く氷の足場を作り、それを使ってルカがドラゴンとの距離を縮めた。…そして、

「──氷刃(ひょうじん)!!!」

彼女はドラゴンの首元に、氷を纏った剣を振るった。

──が、

「…チッ、」

手応えが無かったのを本人も感じたのだろう。相変わらず剣も魔法も弾く鱗に、ルカが舌打ちを漏らした。…と、

《──グァァアァァア!!!》

再び吼えたドラゴンが、氷の足場ごとルカを吹き飛ばす。

「きゃっ…!!」

「ルカッッ!!」

吹き飛ばされたルカは、俺が受け止める前に──

「…!!」

──ドラゴンに掴まれる。

「っっ、ぐ…!!」

「っ、ルカ…!!」

…不味い、ルカの身動きが封じられた。

「っっ…!!」

とても物理攻撃じゃ届かない位置のドラゴンに、

「──っ雷鳴(らいめい)!!!」

手を翳し、ダメ元で魔法を使ってみるが……やっぱり、

「…っ、ソラ…!!」

「クッソ…!!」

時差のせいで──俺の魔法は今すぐに発動しない。そしてそうこうしている内に……龍が口を開け、エネルギーを溜め出した。

「──ッッ!!(まずい…!!)」

俺でもわかる、

「くっ…んの、離せ…!!」

アイツは、溜めたエネルギーを──手中に捕らえたルカに撃って殺す気だ。

「……っ、ルカ…っ!!」

先程の魔法が発動するのは、最早いつか分からない。それにもう1発放つにしても…魔力の無い俺じゃもう何も打てない。…かと言って、

「……っ、クッッソ…!!」

…遥か上空のルカを助ける術は、俺には思いつかない。

「──っっ、逃げてソラッッ!!」

「こんな時にまで冗談言ってんじゃねぇよ!!!」

(っなんか…なんかねぇのか…!!)

…と、その時───首元のペンダントが揺れた。

「──!!!」

そうだ。

あるじゃないか、ひとつだけ。

俺でも、大事なヤツを救える方法が。

「!!」

「…やめて、」

…流石双子だ、察したらしいルカが俺を止めようとする。この期に及んでも尚、自分の身より相手の身だとは…やっぱり似た者同士だ。心配してくれる優しいルカに、心の中でお礼を言った。


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割ってしまうと──どうやら俺に危険が迫るらしい。


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──使えば、恐らく命の保証は無い“切り札”──。

「…上等だよ。」

ペンダントを剣の持ち手で叩き割り、叫んだ。

「やめてソラッッ!!!!」

「──っ光よ、俺を救(たす)けろ!!!」

刹那、轟音と共に、

──辺り一面が激しい光に包まれた。



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「……っっ、ソラ…!!」

…私のせいだ。

私が、1人で突っ走ったから。


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あの後、激しい光が収まると、

…私を握っていたドラゴンは、大きな音と共に地に伏せた。捕らわれていた空中から何とか地面に着地し、慌ててソラの方に駆け寄ると、

…ソラはその場で倒れていて、何度揺すっても目を覚まさなかった。

そんな状態の彼を背負い、城まで運んで。

…今、医務室のベッドの上で眠っているソラの、医師からの診断結果を待つに至っている。

「…ルカ様。」

「!」

医師が口を開いた。

「結果から申し上げますと──危険な状態です。」

「っっ………」

…膝の上で、拳を固く握り締めた。

「…その、それと、」

医師が続ける。

「ソラ様について、少しお聞きしたいことがありまして。」

「…、何でしょうか?」

訊ねると、

「──この方は何故、これ程の魔力を持ち合わせていらっしゃるのですか?」

「…?」

…思いがけない問いだった。

「……、魔力?」

「はい、こちらをご覧下さい。ソラ様の診断結果なのですが…」

医師から用紙を見せられる。

「…これが、魔力の指数です。」

「!」

「…嘘、」

見せられた数値に──目を見張った。

「…私のより、多い……。」

「はい、それも一般騎士の二倍…いや三倍近くの数字です。」

「…この方は生まれつき、これ程の魔力を?」

「…いや、そんなはずは……」

「………?」

…どういうことだ。

魔力の少なさでいつも悩んでいたはずの彼。その彼の魔力値が──私のソレを超えている。…私の魔力は、ソラどころか常人より多いはずだった。

「………、」

…でも、そういえば、


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「──っ雷鳴(らいめい)!!!」


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光属性の魔法…「雷鳴」と、


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「──っ光よ、俺を救けろ!!!」


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二度目の、聞いた事のない魔法。…ソラは二回も魔法を使っていた。二度目の魔法の詳細は分からないが…少なくとも「雷鳴」は、

──大量の魔力を消費する。

私でも、放ってから3分は別の魔法を撃てないくらいだ。…そんな技を、何故彼が可能としたのだろう。恐らくは、この跳ね上がった魔力値の為せる技でしかない。なら何故──彼がどれだけ焦がれても得られなかった魔力が、急激に増えたのだろう。

「………。」

謎は多いが…今はそれより先に、医師に訊かねばならないことがある。

「…すみません、」

「?」

「何故ソラを…危険な状態だと仰ったんですか?」

訊ねると、

「…ああ、すみません。まだお話していませんでしたね。」

医師が言った。

「──今の彼が持っている魔力が、彼自身の耐えうる魔力量では無かったからです。」

「…と、言うと?」

「私達は、人がそれぞれ持てる限界の魔力──許容魔力量と言いましょう、」

「…ソレを数値化出来る術を持っているんです。」

医師が続ける。

「わかりやすく言うと……大量の水も、それを受け止める瓶(かめ)が無ければ溢れてしまうような。」

「…なるほど。」

「そしてソラ様の魔力量が、一般人を遥かに凌ぐ量だったので…違和感を覚えて、彼の許容魔力量を調べてみたんです。」

医師が一呼吸置いて言った。

「するとソラ様の許容魔力量では、今現在持ち合わせている膨大な魔力量に…遠く及ばない事が分かりました。」

「…!!」

目を見開く。

「限界をとっくに超えた魔力を持ったから……今、目を覚まさないってこと…?」

「…まとめると、そうなります。」

「……わかりました、ありがとうございます。」

何とかそれだけ口にすると…それが遠回しに、会話を終わらせる台詞だと察したのか、

「………。」

医者が会釈だけし、部屋を後にしてくれた。



「………、」

…ソラが倒れたのは、急に魔力が増えたことが原因。そのせいで、彼が耐えうる量を超えてしまったから…。

「…もしかして、」

彼のペンダントに閉じ込められていたのは──大量の魔力だったのではないだろうか。二度も魔法を使えた理由も、急に魔力量が増えた理由も…それだと辻褄が合う。

「!」

「そうか…それなら、」

あるじゃないか、ひとつだけ。

私でも、彼を救える方法が。

「──私が、ソラの魔力を吸収すればいい。」

私には、対象の魔力を吸い取れるという珍しい魔法が使えるのだ。…だがしかし、先程の“許容魔力量”の話からして…彼の膨大な魔力を全て吸い取るとなれば、

「………、」

今度は──私が目を覚まさなくなるかもしれない。

「…でも、」

もう、これしか方法はない。

医者が彼を「危険な状態」だと言ったのなら、正攻法の治療ではもう治せない域なのだろう。

「………、」

…あの時、私は助けて貰ったんだ。こいつに借りを作られたまま逃げられるなんて…やっぱり嫌だ。

「……ごめん、ソラ。」

…大きく息を吸い、ソラの手を握った。そして意識を集中させ──彼の魔力の根源を探る。

(…捉えた。)

後は、彼に流れる魔力をこちら側に引き寄せるだけだ。…回路を調節し、循環する魔力を私の方へ流れさせる。

──と、

「……っっ…!?!」

(…っホントだ、すごい量の魔力が流れてくる…っ!!)

気を抜けば立ちくらみでも起こしそうだ。

「っっ…ぅ…、」

……やがて、体が「これ以上は駄目だ」とでも言うように、胸を締め付け警告してきた。

「……っ、く……!」

…その痛みを耐え抜く為に、ぎゅっと目を閉じる。

──ソラが起きた時の為に、手紙でも書いておけばよかったかな。

…ふとそんなことを考えながら、残りの魔力を一気に吸い出そうとすると──

──パシっ

「……言っただろ、俺より自分の心配しろって。」

「………!!!!」

握っていない方の手で──ソラに私の腕を捕まれた。…予期するはずも無かったその出来事に、高まっていた集中がプツンと切られる。

「………っ、ソラ…?!?」

「…あのさぁ、それで俺が目ェ覚めた時に、喜ぶと思ったワケ?」

薄ら目を開け、こちらを見るソラ。 ……一体何が起こっているのだろう。

「…な、なんで……、」

「…なんでだろうな、俺もよく分かんねぇけど、」

彼が徐に身体を起こす。そして続けた。

「意識が戻った時に、手握られてて…その感覚で、『ルカが俺の魔力を吸収しようとしてる』って分かった。」

ソラが私の目を見る。

「…止めるに決まってるだろ、」

「──何のために、俺が命賭けたと思ってんだ。」

「………っっ…、」

──視界が緩む。

「え、え、」

途端にソラが慌てた。

「……っごめん、泣かせるつもりじゃ…!!」

「……っっ、だって…!!」

溢れた涙を、掌で無理やり抑え込む。

「っ、こうなったの、ぜんぶ私のせいだって……!!」

「なんでだよ…w」

彼は笑いながら、私の握っていた手を優しく握り返した。

──そうか、そういえば。

よく考えてみれば不思議だった。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「──っ光よ、俺を救けろ!!!」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「自分を救けて欲しい」と唱えたはずの魔法で、彼が危険な状態に陥るのは確かに辻褄が合わない。…となると、


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


轟音と共に、

辺り一面が激しい光に包まれた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



……あの時辺りを包んだ、あの光は──

「…あれは、“時差”で発生した、」

「──一度目の『雷鳴(まほう)』……。」

「?」

…なら今、彼が目を覚ましたのが、

──再び時差で発生した、二度目の“魔法”。

…ちゃんと、“光”は彼を救けたのだ。

「……っっ…!!!」

「うわっ、ちょ、え?!」

──思わずベッドに振り下ろした拳を、困惑顔のソラが足を避けて躱す。……危なかった。もし彼が目を覚ます前に、私が魔力を吸い出し終えていたら。…せっかくの二度目の魔法も待たず、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。

「…ほんとに、ごめん……っ」

「……いや、勝手に“切り札”使った俺も悪かったって。」

余りに私が弱気だからか、いつもなら「ごめん」なんてほぼ口にしないソラが、珍しく謝罪を述べる。それが少し可笑しくて、思わず笑ってしまうと…釣られて彼も笑い出した。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「なるほど、そんなことが…」

「へぇ〜…だから俺は元気になったんだな。」

──王様に、今回の任務の完了を伝える際。

ついでにソラの“切り札”と、魔法について…私の推測を話してみた。

…余談だが、後日再び行った検査で、ソラの許容魔力量が急増していた事が分かった。…恐らく二度目の魔法の効果は、“ソレ”だったのだろう。ソラが目を覚ましたのも納得だった。

…と、話している途中でふと気づく。

「…てことは、ソラは『雷鳴』の魔法一撃で、ドラゴンを仕留めたってこと…?!」

「あっ!言われてみれば確かに、そうなるな…」

「…嘘でしょ。」

…私が放った魔法ではビクともしなかったのに、

コイツの魔法なら、一撃…?!

「…え、なんだよルカ。なんでそんなこっち見てくんの…?」

「いや、だって…嘘でしょ、ムカつく…。」

「え、えぇ…??」

許容魔力量が増えたソラなら…今後さらに魔法を使えるようになるだろう。

「…嫌、ソラだけには負けたくない。」

「え、え?ルカさ〜ん…??」

「……ソラ、一戦打ち合いしよう!魔法アリで!」

「??????」

「…いや、え、ちょ、おい離せ離せ!!俺病み上がりだぞ?!?」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



…言うが早いが、ソラはルカに引っ張られ、あっという間に玉座の前から姿を消した。…全く、慌ただしい双子だ。

「……“時差”、か。」

──魔法に“時差”が発生する現象は、しばしば存在する。まだ詳しくは分かっていないが…有力な理由の一つとして挙げられるのは、

──あまりにも一撃に威力のある魔法を撃てる為に、術式の処理が追いついていない…というもの。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「ソラの魔法はちょっと特殊なだけで、使い方さえ上手くやれば化けるはずだから…」

「?…いいよ?フォローとかしなくて。」

「そ、そんなんじゃなくて!」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「…言ったでしょ、“ソラの魔法は化ける”って。」





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