第2話

 1回目の婚約破棄は流石に驚いた。

 謂れのない濡れ衣を着せられ、王宮を追放されたのちに修道院へと向かう場所で殺された。


 1回目の人生を終えた瞬間、天国で目を覚ましたはずのヴァイオレットの視線の先では、今となっては恒例と化しているディートリヒがビシッとヴァイオレットに向けて指を指す場面が流れていた。

 ほっぺたをつねってぼーっとしていたら、あっという間に馬車に括られて外に連れ出されて、いつのまにか殺されて、2回目の人生は終了していた。


 3回目の人生も、2回目の人生と似たようなものだった。

 同じ場所で、同じ人に殺された。


 4回目の人生、ヴァイオレットは意外にも早くこの状況に適応し、出来うる限りの反撃をした。ディートリヒの持っている証拠に徹底的に矛盾点を指摘した。

 けれど、無理矢理ヴァイオレットの罰を執行させたディートリヒのせいで徒労に終わってしまった。


 5回目、6回目、7回目、8回目、9回目と婚約破棄された瞬間を起点としてループして、何度も濡れ衣だと騒ぎ立てたのちに修道院へと向かう馬車の中で殺され続けたヴァイオレットは、10回目の人生で逃げることを選択した。

 けれど、10回目から20回目の人生、何度頑張っても、何度見切っても、必ず後ろや前から彼の側近である近衛騎士団長の息子に剣で刺されて死んだ。


 10回目はすぐに刺されて死んで、11回目もそう。12回目は、13回目の攻撃は避けられたけれど、そのすぐ後に刺されて死んだ。14回目も13回目と同じところで死んで、15回目はもう少し多く避けられた。16回目、17回目、18回目、19回目と重ねて、20回目で初歩の初歩の1手目で刺されて死んで、なんだかんだと逃げることを諦めた。


 ヴァイオレットは我慢できなくなったのだ。耐えられなくなったのだ。

 自分が刺された瞬間に見える、近衛騎士団長の息子の驚いた表情と今にも泣きそうな表情、そして、自分の手がヴァイオレットの地で濡れていることに絶望をしたそんな表情を見ることが。


 彼は王太子同様この国の聖女である少女マリーナに惚れた男だ。


 ヴァイオレットにとっては婚約者がいる身であるのにも関わらず複数人の男たちとともに、嘘を重ねて重ねて上塗りして、嘘という化粧をべったりと顔面に厚塗りしたような聖女に惚れたという狂悖暴戻きょうはいぼうれいな男であるが、これでも彼とは幼馴染だ。

 苦しむところを進んで見たいだなんてことは思えない。幼少の頃から王太子ディートリヒの為だけに生きるようにと強要され、厳しい勉学や鍛錬に勤しんできたもの同士だ。多少の思いやりぐらいは持ち合わせている。

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