霊の王
ゲッター線の使者
第1話
幽霊。未練を残した魂が現世にその存在を残した存在です。古今東西で幽霊の話は尽きませんが、もしその中でも最強の幽霊がいるとしたら……、どんな幽霊だと思いますか?
これは私があった中で最も強い霊の話です。私は霊感が強く、何度か恨みを残した霊を見てきました。その内に、霊にも強弱があるとわかってきたのです。まず、傾向として古い霊程強いというのがあります。もっと正確に言えば、強い霊でないと長く存在できないのです。幽霊のエネルギーはこの世に残した未練、思いで決まります。存在するにも何か行動を起こすにもエネルギーを消費するので、弱い霊は比較的無害で一、二年もしたら消えてしまいます。しかし強い恨みを持った霊は長く現世に留まり様々な影響を及ぼすのです。例えば怪談などでよく聞く落ち武者の霊なんかはとても強い恨みを持っている。ということですね。恨みの大きさは死に際の感情の他に、恨む対象も大きく影響します。一人への恨みはその一人を殺してしまえば晴れてしまう。複数いるなら殺しきるまでその恨みは続く。殺しきれないほど大きければ……、という具合に。先ほど出した落ち武者の場合は恨む対象が敵軍と言う大きな対象であるからこそ長く存在できるほどの強いエネルギーを持つわけです。
さて、そろそろ本題に入りましょうか。これは私が友人とアメリカ旅行に行った時の話です。三日間ほどサンフランシスコに滞在していたのですが、二日目、友人の立案でアルカトラズ島に行くことになりました。数々の凶悪犯を収容してきた血なまぐさい場所という事もあって私はあまり行きたくなかったのですが、友人の強い意志もあって結局押し切られてしまった。
フェリーに乗ってアルカトラズ島に向かいました。友人の持っていた観光雑誌には島の簡単な歴史が書かれていました。かつてアメリカ先住民がその島を呪われた島と呼んでいたことから、刑務所になった経緯など。その記述とは裏腹に感覚として何も感じなかったんですよね。島に近付いても特に背中はぞわぞわしないし、なんなら島に足を踏み入れても何もない。おかしいなと思いました。こんないわくつきの、曰くしかないように土地で何も感じないなんて。木っ端の霊一匹いない。何も感じないことに少し不安を抱きながらも、友人と一緒に観光を楽しみました。音声ガイドもあって結構色々知れて楽しかったです。でも、その途中で私は大きな揺れを感じたんです。地震大国の日本で育った私でも一瞬でヤバいと思うような、天地がひっくり返るほどの大きな揺れを。すぐさま机の下に潜り込みましたが、隣にいる友人は不思議そうな顔をしている。今地震があったよね? と聞いてもそんなのあった? と言われます。おかしいなと思って周りを見渡す。他の観光客も素知らぬ顔。何もなかったように。その時初めて気が付いたんですよ。それは最初からいたと。
人間はあまりにも大きな存在を認識できないんですね。もし、もしですよ。自分の立っている地面が巨大な怪物の地平線まで続く舌の上だとしたら。それに気付くのはきっと呑み込まれる瞬間でしょう。揺れの原因。それは咆哮でした。それは天に向かって吼えていたんですよ。巨大なティラノサウルスが。ティラノサウルスが生息していたララミティア大陸は現在アメリカ西海岸の位置に移動しています。ですから、アルカトラズ島近辺でもティラノサウルスが死んだ可能性は高いんですよ。そのティラノサウルスは恨めしそうな目で天を睨みつけ、そして吼えていたんです。そこで、一つの死因が浮かびました。隕石による大量絶滅。ティラノサウルスは恨んだんです。天から降る死の隕石を、あるいはその運命そのものを。その恨みは6600万年の時を超えて今も残り続け、天に向かって吼え続けている。なにも感じなかったことにも納得がいきました。これだけいわくつきの場所でティラノサウルス以外の霊が一匹もいないのはあまりにも強すぎる魂の力が他の霊の存在を許さないからでしょう。
不思議と、怖くはありませんでした。むしろその圧倒的な大きさ、強さに感動すら覚える。そんな気持ちでしたよ。ティラノサウルスの霊は小さな人間など気にも留めずただ滅びの定めを呪い、吠え続けるのです。きっと、今も彼は天に向かって吼えているのでしょう。あの気高き、霊の
霊の王 ゲッター線の使者 @Saty9610
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます