友達と恋人編

第27話 願い

闘いを終えて、今現在オレ達は鷹也のおっさんに傷の具合を見てもらっていた。


「ったくこのクソガキが、あれから数日しか経ってねぇってのにもう新しい傷作ってきやがって」


「オレは悪くないっす。責めるならオレ達を襲ってきた奴らにしてください」


「その奴らは、お前さんが倒したんだろうがダボ」


それでもオレは悪くないってのに、

確かに倒したのはオレ達だが、あれは倒すしか無かったんだから仕方ないと思う。


「よしっ、お前さんの傷はこんなもんか、後は軟膏でも塗るなり湿布貼るなり好きにしとけ」


「最後が適当すぎてワロタ」


おっさんは、タバコをふかし終えると今度は奏多に視線を変えた。


「にしても…こんなに可愛いのに野郎だなんて、神様はどうしてこーももったいねぇ事をするのかねぇ」


そう言っておっさんは、上の服を脱いだ奏多の胸や腹回りを撫で回す。


「神威!オレこのおっさん嫌だ!気持ち悪ぃ!」


まぁ、言わんとすることも分かるけども…


「はぁ〜スゲェもったいねぇよぉ〜」


気がつけば、おっさんから涙や鼻水が滴り落ちていた。


「泣くな触るな身悶えする!!」


いや、傷がないか見てくれてるだけだから諦めて大人しくしてようよ。

そして奏多の身体を触り終えたおっさんは、奏多から手を離してフラフラと椅子に座る。


「誰が好き好んで野郎の腹なんか撫で回すかよ。とりあえずテメェは問題なしだ。さっさと服着ろ性転換小僧」


「誰が性転換小僧だ!」


「お前」「ムキィー!!」


奏多を煽るだけ煽り散らかしたあとは、おっさんはルンルンと椿と綾乃さんのいる部屋へと足を運ぼうとする。


「さーて!次は待ちに待った椿ちゃんと綾乃ちゃんの具合いの確認だ!!こんな野郎どもよりよっぽどやりがいが」


ガラガラ


おっさんが言い終える前に、椿が部屋のドアを開けてオレ達のいる部屋に入ってくる。

お?もう終わったのか?


「こっちは終わったぞ……ってなぜそなたは無念そうにこちらを見ておるのじゃ」


椿の視線の先には、口をあんぐりと開けたおっさんが涙を流して嗚咽していた。


「私利私欲に動こうとした結果、無惨に散ったんだ。ほっといてやれ」


「とことんアホだな。このおっさん」


「くぅっ!こんなガキ共より先に、椿ちゃん達を診察すべきだった!!」


「全力で拒否られてたじゃん」


「なになに?どしたの?」


椿の後ろにいた綾乃さんも、既に服を着ていて完全に終わった感じで現れた。


「綾乃ちゃんまで!!?この世に神は居ないのか!!!」


「「「「居ないよ」」」」


「ちくしょう共め!!」


そりゃアンタの私欲の為だけに、動いてくれる神など居ないでしょうよ。

それからオレ達は、病院を出て近くのベンチに腰掛けていた。


「学校、サボらせちゃってゴメンね」


そう言って、オレと椿に缶ジュースを渡してくる綾乃さん。別に綾乃さんは悪くないのに。


「綾乃さんは何も悪くないっすよ」


「そうじゃな、今回は予期せぬ事態に巻き込まれた。ただそれだけじゃ」


「アハハ、そう言って貰えると少しは気も楽になるかな」


綾乃さんもオレ達同様ベンチに腰掛け、手に持っていた缶コーヒーを一気に飲み干す。


「ぷっは〜!この1杯のために生きてるよねぇ」


「酒でも飲んでんのかお前は」


呆れ顔でツッコむ奏多に、綾乃さんは笑顔で返す。


「ある意味この瞬間はお酒並に美味しく感じるわよ」


まぁ、あれだけの闘いの後だし、分からなくもないよな


「ねぇ、神威くん!椿ちゃん!アナタ達に聞いてみたいことがあったの」


いきなり身を乗り出してオレ達に質問してくる綾乃さん、なにを聞きたいんだろうか。


「?なんじゃ?いったい」


「椿のスリーサイズなら上から「言わんでいい!!というかなぜ知っとるのじゃ!!」」


愚問だな、オレは椿親衛隊から襲われても交換条件として出せるように椿の情報は大体知っているんだよ。


「違うわよ。私が聞きたいのはあなた達の願い事」


「願い事?」


「私達が闘ってる理由って、最後の1組になるまで闘って願い事を叶えるって事は分かるわよね?」


「えぇ、まぁ」


「知っておるが」


「それでさ!あなた達も必死で闘ってるって事は願いたい事があるって事よね」


あるにはあるんだけど、オレの願いか。


「椿の為にとしか考えた事ないな」


今まで椿を1人の人間にする為に闘ってきたけど、そーいやオレの願いは考えたことねぇや


「じゃあ何も考えずに闘ってた訳?」


「イエス!まぁ椿の為ですし」


「神威…」


横で頬を赤らめる椿、いや事実だし。


「じゃあ椿ちゃんの願いってなんなの?」


「妾は1人の人間になる事が願いじゃ、そして…ゆくゆくは、妾は神威と…その…あの…」


モジモジとしながら話そうとする椿、もはやその動作だけで答えが丸わかりなんだが。


「あー、なるほどねぇ。よく分かったわ」


「因みに綾乃さんの願いってなんですか?」


「私?私はねぇ」


綾乃さんは、奏多に視線を向けてニヤリと笑ってからオレの質問に答える。


「奏多ちゃんを完璧な女の子にする事よ!!」


「初耳だぞ!?勝ち抜きたく無くなったんだけども!!」


「って言うのは半分冗談よ」


「半分は本気なのか!!?」


というやり取りを見せつけられたオレと椿は、乾いた笑いしか出なかった。


「で?本当の願いは何なんですか?」


「私の願いは、お姉ちゃんの居場所を知って放浪癖を治してもらうことよ」


「「お姉ちゃん?」」


「そ、放浪癖で連絡すら入れないバカ姉を見つけ出さないといけないの」


それ、わざわざ勝ち残ってまで願う必要あるのか?


「なぜわざわざ勝ち残ってまで願おうとするのじゃ?」


「あんのバカ姉は、昔から普通に探しても絶対に見つからないの、だから私は勝ち残って姉の場所を知って放浪癖を治してもらわないと」


お姉さんのために願いを使うって、綾乃さんって物欲ないんだな。

綾乃さんは、腕時計を見て時間を確認すると、慌てて立ち上がる。


「やばっ!午後の授業始まっちゃう!急いで帰らないと」


「と言ってもお前の車はペシャンコだぞ」


「そーだった!!!どーしよぉ!」


「タクシーでも拾うか?」


「それよ!!」


綾乃さんは辺りを見渡して、いきなりオレの胸ぐらを掴んで持ち上げる。


「へ?」


「ヘイタクシー!!」


「いやぁぁぁ!!!」


この人、走るタクシーに向けてオレをぶん投げやがった。


「なんて止め方するんだ!!!」


「神威ぃぃぃ!!!」


急ブレーキをかけるタクシーに、綾乃さんは奏多を連れて乗り込んだ。


「ゴメンね神威くん!今度お詫びするから、それじゃ!」


「とりあえず今詫び入れてくれ」


倒れ込むオレをかわしながら、綾乃さんを乗せたタクシーは走り去ってしまった。

そして、オレの下に椿が歩み寄ってくる。


「とりあえず、遅刻確定じゃが、学校に向かうかの?神威」


「うい」


それにしても、オレの願いか…

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