第25話 茎凪

綾乃さんが奮闘してくれている今、オレはとにかくカウンターのチャンスを伺っていた。


『分かっておると思うが、神威この技を今出そうと言うならただ待っているだけでは一生かかっても決まらんぞ』


「あぁ、もちろん分かってるさ」


オレは、めいっぱい刀気を椿に集中させる。

そして、視線を今闘っている綾乃さんへと向けると、椿の言っていた通り徐々にだが綾乃さんが圧され始めていた。


「くっ…神威くん!まだ?!」


「綾乃さん!!!」


「何?!!どしたの?!!なんか不祥事?!!」


「オレ…今元気玉を作る孫 〇空やってるみたいでスゲェ主人公してる気ぶ「真面目にやらないと君からたたっ斬るよ!!!」…さーせん」


『今のは神威が悪い』


しょーがねぇじゃん、ホントにそー思ったんだから。

けど、今のやり取りで肩の力が抜けたのか綾乃さんの動きにキレが戻り、少しだが攻撃を見切れるようになっていた。


「はっ、よっ、わわッ!」


だいぶ良くなってきたけど、オレが狙うのは大振りの攻撃、けどあいつは小ぶりな攻撃しかしてこない


「チッ、めんどくせぇな」


しびれを切らした男が、また能力を使い出す。

むしろ願ってもない。能力を使うということは攻撃のパターンが制限され始めたってことだ。


「もう少し…まだここじゃない」


「神威くん!まだなの?!」


オレに声を掛ける綾乃さんに、男は刀を振り下ろす。


「シッ!」


「おわぁっ!」


そして振り下ろした刀の先端から石を作り出す男だが、なぜかその石を地面に射ち出した。


「あれ?失敗?」


「アースストーン」


「!奏多!!」


油断した綾乃さんの足下の地面が盛り上がり、危機を察した綾乃さんは即座に奏多を盾に変える。


「ショット」


ズガァン!と地面に射ち込んだ石が、下から綾乃さん目掛けで飛び出したが、それを綾乃さんが盾で防ぐ。


「そんなデカイ盾じゃ、視界も塞がるだろ」


「!」


男は綾乃さんの後ろに回り込んでいて、綾乃さんはそれに気づいてなく、男は綾乃さんの後ろで刀を振り上げていた。

きた!ここだ!


「しまっ」


オレは高速で綾乃さんと男の間に入り込み、刀気を込めた椿を右下から振り上げる。

狙いは、やつの刀!


「『桜花流 茎凪くきなぎぃ!!!』」


バシィン!!と刀のぶつかり合う音とはまた違う打撃のような音がオレ達の空間で響き渡る。


「ぐうぅ…」

「なっ!」


グッパァァン!!


オレ達の刀がぶつかった部分から破裂音が響き、物凄い風圧がオレ達を襲う。

風圧により男は吹き飛び、オレは背を反らせるが足の踏ん張りを効かせて何とか持ちこたえた。


「凄い!今のがカウンターなのね!」


「失敗です!」


「失敗なの?!!」


本来、茎凪は相手の刀と自分の刀をぶつけ合い、ぶつかる瞬間に刀気の塊を間に入れ、刀気を叩き割り相手の方にのみ風圧をぶつけてぶっ飛ばし、次の桜花流の技に繋げるカウンター技だ。

今のは全体に風圧が弾け飛び、力が分散されちまった。


『修行が足らぬぞ、神威』


「刀気はまだマスター出来てねぇっての」


オレは地面を蹴って急いでぶっ飛んだ男の所に向かって走り出す。


「起き上がる前に仕留めるぞ椿!」


『勿論じゃ!』


土煙が上がる中に向けてオレは走りながら腰を大きく捻り、刀を構える。


「『桜花流!薇!』」


シュバァッ、とオレの刀は空を切り、男は飛び上がって薇をかわしていた。

そして男は、空中にいる状態からオレの顎を蹴り飛ばしやがった。


「ぐぁぁっ!」


「貫け!!」


吹き飛ぶオレに向けて、男は石を射ち出してきた。

やべぇ、このままじゃ貫かれちまう。

オレは空中で姿勢を直したが、間に合わない


「まずっ…」


終わった…そう思った瞬間にオレの目の前に綾乃さんが奏多を盾に変えて現れ、石を防いでくれた。


「なっ!」


「行って!」


このチャンス、逃しちゃダメだ!


オレは、刀気の塊を作り出し、片手で掴み取る。


「『桜花流!!!睡蓮!!!!』」


オレは、全力で男に向けて睡蓮を射ち出した。

オレの射ち出した刀気は男を貫き大爆発を起こした。


「ぐわぁぁぁ!!!!」


今度こそ、完全にオレ達の勝ちだ。

そう思ったオレと綾乃さんはその場にヘタリ込み、椿と奏多が人型に戻ってオレ達の下に駆け寄ってきた。


「お疲れ、お前ら」


「ようやったの、そなたら」


「おう!へへへ」


「奏多ちゃんのかわいい服を買わずして死ねないわよ」


「死ね!男物を買わないなら今ここで死ね!」


手のひら返しがスゲェよ奏多君


「何はともあれ、とりあえず…病院じゃな」


はぁ〜、またあのおっさんの世話になるのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る