スマホ持って転生したし、勇者らしいけど納得がいかない点が多々あります。
あおいそこの
納得がいきません。世界線変えてください。
どうやら俺・ユウタ・社畜はおそらく転生をした。でも信じたくないので信じない。名前の通り俺は社畜だった。めっちゃ疲れた日にラッシュにもまれ、しんどさを噛み締めながら駅のホームに突っ立った乗り換えを待っていたら疲労のあまり倒れた。そこからの記憶はない。線路側に倒れてしまったのか、緊急搬送されたのかは未だ謎である。
そんなことはどうでもいいのだ。
服は家で過ごす時と変わらない。要するにスーツ。装備は地獄でもいっしょなんだろうなと愛着がわいているカバン。要するに仕事用のカバン。中身は忘れた時に絶望感が激しいものたち。要するに変わりなし。
どこかに鏡はないか。
もしかしたら俺はめちゃくちゃイケメンになっているかもしれない。ありえるだろ???
中身が変わっていないのなら、とカバンを探った。スマホが出てきた。
「え、Wi-Fiあんの?」
こんな山奥。日本だとしたなら東北のどっかだろ。失礼な偏見をぶち込んでいるとスマホが反応。
「E-sekaiFree?これかな。どーせパスワード12345とかだべ」
ポチポチ
「繋がったんですけど!!」
驚きと歓喜の声を上げる。
「このまま小屋でも見つかったら俺はもう老後をここで過ごそう…一生ようつべを見て、青い鳥を周回しよう…」
スマホの機能は問題なく使えるようだ。しかし、最大の娯楽ようつべ、青い鳥が問題だった。
※「ようつべ」とは。→世界最大の動画配信アプリ。アイコンの色は赤と白が基調となっており、再生ボタンにマークが似ている。決してようつべをローマ字にしたサイトと同じではない。
そもそもこの日本かどうかも怪しい場所で同じクリエイターが見られるのか、と思って開いた。まさかの異世界を生き抜く方法ラッシュ。食べられる魔性植物の見分け方。魔性動物に出会った時の対処法など。その時に調べたって遅いだろ。もう。
おかしい。確実におかしいと思って俺は、スマホを閉じた。目を逸らした。そして感覚だけで電源を落とした。そもそもここは東北なのだから。日本なのだから。目が何個もある生物が存在するはずがない。即学会案件だ。転生にしてはロマンも欠けている。よってここは白神山地だと思う。
きっと心優しい誰かが俺を白神山地まで・・・
「んなわけないだろ!!」
セルフツッコミにも体力がいるな。
そういえば昨日から何も食べていない。しょうがない。背に腹は代えられない。そう思ってスマホの電源をいれた。変わらず繋がっているWi-Fiに、変わらないホーム画面。ようつべを開いて「食べられる植物 簡単」と検索してみた。
「普通に検索エンジン使えばいいじゃん」
ようつべで探してみようと思う。
「あ、これか?『【初心者向け!】異世界魔性植物!生で食べられるものまとめ!!』」
川が近くに流れている音もするし、生で食えるなら洗えばいい。その動画を開いてみる。
・・・数分後・・・
「うんっ」
俺は笑顔だった。
何を言っているかさっぱり分からない。画像付きだったけど似たような植物が四方八方に生えてますけど。
思い立った俺はスマホの画面を動かした。検索エンジンで「画像 植物 特定」と調べた。写真を撮るだけ、画面に映すだけで植物の名前が出てくるアプリやブラウザ版のが有名になっていた気がする。
「それは普通に使えるのね!?」
近くにある草花を片っ端から名前を特定した。そして食料は確保。じゃがいもみたいな根っこを食べます。地下茎を食べますタイプのものは加熱すれば食べられるらしいのでどうにか火を起こそう。タバコはやめたけどライターはまだ持っている気がする。薪を集めながら川の音がする方へ。
「もしかして、マップ使える…?」
マップのアイコンをタップして開くとすぐ近くに川が表示されていた。
「なんて便利なんでしょう!」
川を発見し、とりあえず顔を洗った。道中集めた薪は火が付きそうな形に組み合わせた。要らないものを何もかも捨ててカバンとしての本来の役割を背負わせたものの中に食べ物を詰め込んでいく。
焼いたり、混ぜ合わせたり。ドレッシングの作り方まで調べて、挑戦して見様見真似で作り上げた料理。
「うんまっ!」
人工甘味料、添加物のオンパレードしか食べてこなかった俺の胃袋には優しいメニューが突き刺さった。社畜な俺は自炊なんて数年間していない。
「これは東北の食べ物が上手いのか?俺の料理の腕がすごいのか?いくらでも食える…」
用意したご飯はペロリと食べ終わった。
「このまま後生をここで過ごしたい…」
小説で鍛えた俺の知識が今火を噴く時が来た。近くに街がないかをまずマップで探す。そこで上手いこと金を稼いで上手いものをたらふく食べる。現代に戻りたい気持ちは皆無なので、良さそうな場所を求めて旅に出るのもいいかもしれない。車も、電車もバイクも新幹線も何もないのに、どうやって移動しよう。それはまた後で考えよう。
街は案外簡単に見つかった。ここからそこまで離れていないようなので早速歩き始めることにした。
その道中でのことだった。
草むらからガサガサと音がしてなんだ、魔物か?と思い身構えた。かなり大きい狼のような魔獣がいた。目の中に炎が揺らめていて是非ともこの構図で推し絵師様に絵を描いて頂きたいと思った。水が効きそうだ。近くの川まで急ごう。
走りながら調べて川の画像がスマホに広がる。
と、その瞬間。
「くぅ~ん…」
捨て犬が拾ってください、と言わんばかりの声だった。何に怯えているのだろうか。もしかして他にもっと強い魔獣か何かがいることを知らせているのか?周りを見回すが足音も何もない。
この隙に街、いや、川まで目指そう。走り出した瞬間追いかけてきた。
追い付かれて地面に押し倒される。諦めよう。美味しくいただかれるのなら…
スマホを放り投げた。
「くぅ~ん…」
だからどうしてなんだって!!
もしかして、と頭の中に現れたのはスマホの画面の川に怯えている?
試しに滝を表示させた。この東北(仮)の中で一番大きい滝の画像。
「きゅう~…」
ごめんって。なんかこっちが悪者みたいじゃん。
「俺の仲間になってくれる?」
「きゅう」
「犬なのか、お前は?」
翻訳タイプの機能をタップする。
「ちょっとなんか喋ってくれ」
「ばうばうっ、ばうう」
「ふむふむ…《仲間になります!》か」
《はい!》
「1回喋ったらもう翻訳機いらないみたいだな。便利なもんだ。近くの街まで乗せて行ってくれ」
《分かりました!》
近くの街に到着した。名前はチカクノマチ、というらしい。何という偶然。東北にそんな街があったのか。それにしても、日本家屋ではないな。この家々は。もしかしたら東北ではないのかもしれない。ここは白神山地ではないのかもしれない。奥羽山脈でもないのかもしれない。
「貴様は誰だ!チカクノマチへ何しにやって来た!」
「お金稼ぎにと、食糧調達です」
「そのウルフはどうした?ペットしたのか?」
「ペット?」
《服従させるって意味ですよ》
「あぁ、まぁ。そんな感じです」
「ふむ…怪しい者ではなさそうだな。通れ!」
「ありがとうございます」
ウルフはサイズを調節できるらしく可愛らしい小型犬になってちょこまかとついてきた。
《ご主人様が使ったあの奇妙な術って何なんですか?》
「ご主人様じゃなくていい。ユウタでいい。確かに、奇妙か。普通はどうやって戦うんだ?」
《魔術とか、剣とか。いろいろです。でも多くの人は魔術を使いますね》
「魔術があるかはどうやって分かるんだ?」
《オレ簡単に測定できますよ。やりましょうか?》
「頼む」
オーブに包まれる。眩しい感じは一切なくて、何かがまとわりついている感じもない。
《なんというか、ユウタさんはゼロ?》
「まぁ、だろうな」
《ゼロってそこまでいないんですよ!生まれたての人間でも魔力は少しくらいあります!》
転生したはずなのに俺という人間の皮や、中身はそのまま変わっていないらしい。最強魔術師とかになって街救ったりするもんなんじゃないのか。言語は日本語だし、でも確実に日本ではない空気感を纏っている。
「しばらくは観察するか」
《ユウタさんはどこから来たんですか?ウルフは旅をするんですけどユウタさんみたいな服を着ている人を見たことがありません》
「うーん、結構離れてるところ」
「わう?」
「上から」
《上、ですか…》
上手そうな匂いがする方へ足が引き寄せられていく。まだまだ食べ足りない。もっと食べたい。
「あ、でもどうやったら金を稼げるんだ?」
《多分酒場に行けばアレがあると思うんですけど》
「酒場?あ、あれっぽいな」
何のためらいもなく酒場らしき場所に向かって行く。
キィ
西部劇のバーのドア。いつも見るたび上着みたいな形しているな、っていうドアを開けると一気に
「あ”ぁん?」
「んだよぉ”」
「やんのか?」
敵意マシマシな歓迎のお言葉に喉が鳴った。
「ウルフ、アレってなんだ?アレって!」
《掲示板みたいなのです!そこに書いてあるはずです!いろんな任務が!》
「分かった!」
今にも命が刈り取られそうな視線を浴びながら木の床をキィキィ鳴らして歩いて行く。
「おかしなかっこした兄ちゃんだなぁ、可愛らしいわんこ連れてよ」
「ここは遊びに来るようなとこじゃねぇぜ、坊ちゃん」
「コイツが伝説の勇者様だったりしてなー!ギャハハハ」
巻き起こる笑い、馬鹿にされているのは一目瞭然。なにか一矢報いてやろうとスマホで何を見せたら一番混乱するか、をウルフに聞いた。
《魔王の姿ですかね…奴らは魔王が復活してないからって適当な任務しか行かずのさばってるんです》
「勇者様はわんころとも話せるってか!」
「ナメるなよ」
魔王、と検索して出てきた一番上の画像を見せた。その瞬間、恐れおののく音と声がした。殴られたり、笑われたりするもんだと思ってた。
「すっ、すまねぇ!ちょっとからかっらだけなんだ!」
「許してくれ!悪気はねぇ」
「目の前から消えますんで・・・」
《ユウタさんすごいですね!また奇妙な術を使って》
ごめん、ウルフ。可愛らしいわんこの見た目できらきらした目を向けてくれるけど。
正直全く嬉しくない。
何この倒し方。一体全体何が面白いの?殴り合うとか、切り合うっていうのが相場ではなくって?思わずお嬢様になっちまうよ。脳も混乱するぜ!
「あの」
「ひいっ」
「聞きたいことがありまして…」
「なっ、なんでしょうか!」
「あの掲示板の任務?をやったらお金がもらえるんですか?」
「そっ、そうです…少し離れた、街の奥の申請所に証明を持って行くと金品と交換してくれますっ」
「ありがとうございます」
良さそうなものを吟味する。スマホって案外強いんだな。確実にここが日本ではないことが分かった。ましてや東北なんてことあるわけがない。ごめんなさい、東北…旅行に行った時はものすごく楽しかったです…
「ウルフ、おすすめのはあるか?」
サイズがにょきにょき大きくなって掲示板を眺める。
《いっけね、オレ文字読めないんす!》
「あらま。採集系か、討伐系。楽なのってどっちだ?」
《ユウタさんの手にかかればどっちでも楽だと思いますけど、採集の方が楽です。戦わないので。途中で魔物が現れることがあるかもしれないのでついでを狙っていく感じで良いと思います!》
「そうか、分かった。じゃあこの、白くて花びらが丸い、真ん中が黄色い花を探しに行こう」
《え、名前は?》
「俺、カタカナの名前を覚えられないんだ」
《カタカナ…?まぁ、オレが覚えますよ。なんていう花ですか?》
「ホワイトサンライズリリー・冬季限定バージョン」
《確かに長いっすね…》
冬季限定て。コスメかよ、っていうツッコミは恐らく誰にも理解されないので口を噤んだ。
「ウルフ連れて行ってくれ」
《わっかりました!》
始めにウルフに自然破壊に思いをはせながら絵に似た花を摘んでくるように頼んだ。俺も歩いて見回ってそれっぽい花を地球(かもしれない場所)よごめん、と思いながら摘んで回った。
「これを選別していこうか」
《どうやってっすか?》
「俺の奇妙な術」
《おぉー!出ました!》
日が傾いて、赤色サンライズを見た。咲いているかもしれない場所の情報がチカクノマチからかなり離れていたのでこの日は、転生初日だけれど野宿をすることになった。ホワイトなんとかは煮詰めると美味しいスープになることを知ったので挑戦してみようと思ったけれど鍋がないことに気が付いてこのまま腹を空かせて寝ることになり軽く絶望。枕になってくれたウルフが温かくて気持ちがよかったことで相殺。
「ウルフは腹空かないか?」
《オレは探してる途中に魔物食ったんで平気っす》
「あ、丸飲み?」
《人間みたいな繊細な舌はないんすよ。ウルフは》
朝日と共に目が覚めたのは社畜の癖。
《ユウタさん早いっすね…》
「おはよう」
《昨日は驚きすぎて聞けなかったんですけどその炎を発生するやつも術ですか?》
「うん、術だね」
技術だね。
《ユウタさんがいた、上ってところはすごいんでしょうね!》
「うん、空とか飛べた。乗り物に乗って」
《すごい!作られたものに乗るってことですよね。ここは空を生きる魔獣の背に乗るくらいしか方法がないから…》
ウルフ?この世界にもっと自信を持っていいから!ユウタさんは正直者だから言うけれど鳥の背に乗れる方が断然羨ましいから!!
ウルフの背に乗ってチカクノマチに戻った。
「貴殿は昨日の…お戻りになられましたか!」
「え?えぇ…?」
衛兵が街に向かって「勇者様がお戻りになられたぞー!」と叫ぶものだから縋りついてでも止めてやろうかと思った。とりあえずこの花を交換しに行きたいんだけど。
え、昨日の店閉まってる?
疾走感すごい感情の変化に自分でも驚く。社畜時代に培われたコスパ最強表情筋は今も健在なようで動くことがない。動じることがない。表情は。やめて、ウルフ。そんな目でこっちを見ないで。結構俺は驚いてるから。動じてないわけじゃないから。
「勇者様、よくお戻りになられました!」
「勇者?誰が?」
「貴方様です!ここチカクノマチという国に代々伝わる神聖な儀式を行う神堂があるのですが」
チカクノマチって国なんだ。
「そこの司教様が予近いうち魔王が復活すること。しかしその魔王と同等の力を持つ勇者が現れると予言なさったのです!」
「俺が、勇者かは断定出来なくないですか?」
「その勇者様は、長方形の板を使う不思議な術を使う、とも予言されているのです。昨日、無礼を働いた者を奇妙な術で追い払いましたよね?貴方こそ、チカクノマチを救う勇者様なのです!」
急にそう言われても。持って帰って検討します、は通用しなさそうだし。人違いです、って言ってもこのキラキラな目をかいくぐれるとは思えないし。でも今までの経験則(2日間)でいうと魔王って簡単に倒せるんじゃないか?こっちは魔王の事前情報や外見だけでどんな画像という名の術が効くのかも大体はわかる訳だし。
「なぁウルフ、勇者って認めるべきところ?」
《知りませんよ…》
「あ、俺が勇者です」
どうとでもなれ。
「やはり!魔王復活まで是非このチカクノマチでおやすみください!」
「あの、酒場の任務表みたいやつで採ってきた花なんですけど。お金に換えられますか?」
「ただいま拝見させていただきます!」
鑑定士のような人が来て重量計測や間違い探しをしてくれた。
「おぉ…全てが間違いなく冬にしか咲かないホワイトサンライズリリーです。恐れ多くも勇者様、どうやって見分けたのですか?」
「奇妙な術の中に、花を見分ける術もあるんです」
俺の発言1つひとつに歓声があがる。現代に行ったら全員が卒倒しそうな勢いだな。
ヒーロー割引きでいろんな場所で美味しいご飯がたらふく食べられた。ウルフもペットされている魔獣としていろんな人から可愛がられていた。子犬のようなサイズになっていたけれど。本当は雄々しい狼だってばらしたら怖がるな。やめよう、俺優しいし。
グラリ
行きつけになった新鮮な肉を目の前で焼いてくれる店の店主も揺れと同時に外を眺めた。
「地面が揺れますね。ずっとこうなんですか?マスター」
「いや…魔王復活の前触れかしれん…」
埋まってるタイプの魔王?もしかして。幼虫とか、カブトムシになります。とかそういう感じの魔王なのかな?スマホなくても虫取り網とかで退治できそうですわね!
「魔王ってどこで復活するかも分かってるんですか?」
「分かっていない。地揺れの方角からして、北の方にあるマウントダークネスじゃないか、と言われているがな」
「あ、闇の山とかじゃないんですね」
「元はそうだった。司教様が趣味で変えた」
「仲良くなれそう」
たらふく食った後は勇者様のお仕事にかかる。時がやってくる前に司教様に予言の内容と、山の由来について聞いておきたかったから神のお堂に向かうことにした。
「司教様?いますかー?」
「おや、勇者様。どうされました?」
「予言の内容をちゃんと聞いておきたくて。奇妙な術があったとしても何かヒントがあれば有利に事が進むかな、と思って」
「そうですね。予言の内容はこうでした。『大地が回転し北の山に太陽が沈む時、魔王は復活を遂げる。大陸の多くの都市は絶叫と涙に包まれるであろう。しかし同等、もしくは同等以上の力を持つ勇者が現れる。その者は奇妙な出で立ちをしており、長方形の薄い板を用いた不思議な術を使い、制限あり戦いを終わらせる』と」
難しくない文章だったから意味を理解するのは簡単だった。しかしところどころ分からないことがあった。
「大地が回転し、ってどういうことでしょうか?」
「最近の地揺れです。予言では1日に少しずつ回転して、西の方角が北になるくらいに回転した時に魔王は復活します」
「復活って今はいないんですか?」
「今も魔王の城の中にいます。眠り続けて復活の時を今か今かと待っているのです」
「俺が勇者として倒せばいい、というわけですね」
「そういうことになります。残念ながら勇者様の知りたい魔王の弱点などは予言の中にはありませんでした」
「ありがとうございました。それでも十分な成果になりました。今日はもう宿に帰ります」
「何かあればまたお越しください。神のご加護はいつも救世主と共に」
本当に仲良くなれるかもしれない。俺は所詮俗っぽい偶像崇拝。司教様は本気で神を信じているだろうからそれを馬鹿にしてはいけない。同じにしてはいけない。
夕方、太陽が沈むのを眺めるようになった。最初に来た時には山の端の方に沈んでいた太陽が。マウントダークネスの山の端の方に沈み込んでいた太陽が今では山のてっぺんにかかっている。復活も近いな。
夜の間に突き上げられるような揺れを感じて目を覚ました。国中に明かりが灯され、俺の泊まっている宿の扉がドンドンと叩かれた。
《魔王ですか?》
「恐らくな」
扉を開けると予言を伝えてくれた人や、会って話したことがある人が何人も怯えた表情で待っていた。
「勇者様!」
「魔王でしょうね。今からでも退治に行きます」
「本当ですか!」
「ウルフ行けるか?」
《もっちろん!》
そして魔王の根城へ。
マウントダークネスの山の中の城に魔王はずっと眠っていて、ついぞ復活を!ということだったよな。
見たところ外見は炎タイプ。水の写真をいくつかダウンロードしてある。レベル別に分けて。水攻撃を仕掛けたらたら炎、地獄の業火みたいなものを見せればいい。これもダウンロード済み。キュア大地☆みたいな攻撃は一体どうしたらいいのか分からなかったから雲を用意した。大地の反対と言えばって感じ。
植物タイプは炎で焼き切れる(?)と思うし、黒い画面を見せたら何とかなる気がする。闇は万物に勝つって言ってたしな。
俺が
いざ尋常に!
「どうやって入ればいい?」
案外あっさり見つかった魔王の根城に入り込む。
「たのもー!!」
「お前が吾輩を倒しノコノコやってきたひよっこか…」
重々しい声に背骨が折れそうになる。重低音過ぎて腹の奥がむずかゆい。
「姿を現せ」
ちょっとノリ気になっちゃってるよ。魔王様、早くして。黒歴史が生まれる前に。
「ふはははは、勇者よ。勇敢にここに来たのは誉めてやろう。しかし今日死ぬのはお前だ!」
どんな攻撃がやってくるか予想も出来なかったからただ身構えた。避けることに関しては俺はもうスマホじゃどうしようもない。タブレットならまだ勝算があったかもしれない。守りに関しては。
眼前に突き付けられたのはパソコンの画面。
「え?」
「驚かぬかっ!吾輩の武器だぞ!」
俺が捨てたパソコン!?!?
そりゃあ俺は普通の人間だから影響ゼロですし。
「えいっ♡」
出来るだけ可愛くボタンを押した。画面は真っ黒に、真っ黒になった画面に映った自分の顔の泥の付き具合に絶叫した。
「いっやぁぁぁああ!なにこれぇ!」
「どうだ、降参するなら命は助けてやろう」
「俺の顔めっちゃ汚くね?」
現世では美容男子としてちまたで有名だったのに。
これじゃあ美容もくそもないじゃない。
「もーう、怒った!」
ちなみに言っておくけれど、何もされていない。
大事なことだからもう1回言うけれど何もされていない。
行きにウルフから落ちただけ。完璧なる自業自得。なのにも関わらず怒りの矛先は少々混乱している魔王様へ。
でも戦いっぽいことがしたい痛いお年頃なもので!!
「喰らえ!地獄の業火!!」
っぽいセリフを言っておけば何とかなる気がする。
「っぐぁぁぁああ!!おぬし…なかなかやるな!なにっ、真っ暗になっている!?どこで点けるんだったか…」
おろおろしている間に畳みかける。
「白神山地!」
日本の遺産なめるなよ!
「がぁぁぁぁあああ!」
これにて成敗完了。
某魔法映画の撮影シーンくらいシュールだったと思う。何もないところで杖をぶん回すのと同じくらい。スマホの画面をただ見せ合う。これに関しては完全個人作成の映画(仮)だから風も発生しない。もはや嵐とか起きていた方が雰囲気は味わえると思う。
パソコンはフリマに出すから返してね。しかし、どうやって現世に戻るの?
【完】
あおいそこのでした。
From Sokono Aoi.
スマホ持って転生したし、勇者らしいけど納得がいかない点が多々あります。 あおいそこの @aoisokono13
★で称える
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