詩翔雪極(ししょうせつきわみ)と友愛
永遠在生人
第1話 sideA 0
私、詩翔雪極(ししょうせつきわみ)は生まれてから一度も笑ったことがなかったそうな。生まれたときも泣くことはあっても笑ったことがなくて、両親がひどく心配していたらしい。大きくなるにつれて泣くことは少なくなったが、笑うことはなかったらしい。
「いないいない、ばぁ!」
と父がしても、私はペチンと父の鼻を叩いた。
TVでお笑い芸人が披露したネタに対しても、
「ふーん、つまんない」
と小学生の自分は一瞥するだけだ。なんとも思わない。
「こちょこちょこちょこちょ」
とクラスメイトから脇をくすぐられても、
「…………」
と無表情だったらしい。くすぐったいという感覚が未だに分からない。どんな感覚なんだろうか?
そうやって、笑わないことがステータスになっている私。男子からは、
『冷血鉄面』
女子からは、
『クールビューティー』
と言われているのを耳にしたことがある。
「冷血鉄面はないですよー、ね〜」
と私は鏡の前で両頬を引っ張ってみたり、にこりと笑みを浮かべてみたりしたが、全然『スマイル』って感じがしなかった。
それでも、私はこれでいいのよ、極、と言い聞かせて、今日も学校に行く。
道中、同じ高校の男子から、
「おはよう、ござ、い、ます」
と言われたから、
「おはようございます」
と挨拶する。だけど、それだけなのに、
「ふうー、詩翔雪さんに挨拶されたぜ!!」
「いーなー、運がいいぜ」
とはやし立てられた。
女子からは、
「詩翔雪さんよ、キャーキャー」
「こっち向いて、詩翔雪さん!!」
と異常にモテる。どっちかって言えば、かわいいより綺麗な顔立ちだからか、同性によくモテる。人並みよりは身長が高くて、人並みよりは中性的な声で、人並みよりは少し胸が大きい。短めに髪を切りそろえている。
『ボーイッシュ』
そう揶揄(?)されることもある。
学力も人並みにあると思う。赤点を取ったことはないし、どちらかと言えば、真ん中よりは上の方だ。
普通よりも少しだけ優れている。
それが私のポテンシャル。それ以外は特にない。だから、こんな私が女子からモテることを不思議に思っている。
女子たちは私の何が、心の琴線に触れているのだろうか?
「ホームルーム始めるぞ」
担任の先生が入室する。
私の席は窓側の一番後ろ。ここあ先生から見つかりにくい。それに、こいつの後ろだ。
「伊田。起きろ。もう始まっているぞ」
「うーん、もう始まったんですか」
「そうだぞ、伊田、起きろ」
「ふぁーい」
担任の先生に指摘され、眠たそうにしているこいつは伊田俊紀(いだとしのり)だ。
私はこいつと同じ部活に入っている。
伊田と私は部活部という部活をするための部活、という部に所属している。非公認な部活で、伊田が勝手に設立した部だ。
きっかけは一年前。私が多くの部活から勧誘を受けていた。それを見て伊田が、
「部活をするだけの部活を作るわ」
と、頭がイカれたと思う発言をして、私を部員に据えた。それからは勧誘は静まった。最初は本当に何をする部なのか、そもそも、私以外の部員がいない。だけど、二人で活動するようになってから、これもいいのかなって思うようになってきた。
これは私とこいつとの物語だ。
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