少女と万年筆
藍空べるつ
第1話
「やっぱり地球だと星空は見えないね」
「まあ、あの黒い雲がいつも覆っているからね」
「やっぱり銀河惑星21LWとかの方がよかったんじゃない??」
少女と私は地球と呼ばれる星の、小さな小さな島に居た。
地球とか言う、過去に人類が住んでいた星になんでわざわざ行ったのか?それは地球で星空を見るためだ。
今、皆様方は「はっ!?」と思われたことでしょう。
安心してください、私も同じ気持ちです。
なぜ、少女こと黒川キアナは地球で星空を見たいのか?
それは誰にも分からない。いや、キアナだけは分かるのだろう。
「それでキアナ、私のほっぺに本当になんて書いたの??」
「秘密」
「月の光の反射で見ろなんて無茶苦茶よ」
「無茶苦茶だからこそ、いいのよ!」
本当にキアナがやる行動は意味不明だ。
突然、目をつぶってと言われたかと思うと何かペンみたいなもので書かれた感じがした。
こしょばったい数秒間を抜けると、キアナは私に向かって『ミアちゃん(私の本名のこと)、私はね、ミアちゃんのほっぺに特別なことを書いたから、当ててごらん!』
それから数時間、私は必死に海に近づいて頬っぺに書かれた文字を当てようとしていた。
月の光なんて、とっくの昔にほとんど当たらなくなった地球の海は真っ黒だった。
まるで時代劇に登場する墨汁の塊みたいで、私がどれだけ必至になって見てもまったくもって映らなかった。
海の水はただ黒い波で、時折黒い波の隙間から私の光が見えそうで見えないのだ。
そこのあなた、私のことを馬鹿だと思いましたね。
「スマホを使えばいい」
「今時、機械も使わずに見ようとするなんて愚者だ」
「この女には豚に真珠だから、機械装置を取り上げて貧民の頭が良い人間に与えるべきだ。」
そんな考えが浮かんできたと思います。
しかし、私が馬鹿なのではなくて、キアナが天才過ぎるだけです。
キアナは私に『この旅はミステリーツアーだ。だから、スマホとかは持って来るな』と前もって言っていたのです。
もちろん、私が地球で星空を見ることを知ったのも今日の朝のことです。
太陽系ステーションA0001でうどんを食べていた時に、地球に行くのだと説明されました。
ご存じだと思いますが、A0001は一番最初に出来たステーションであり、地球に行くためには必ず寄らないといけないので、うすうす感じてはいました。
だけど、実際に地球に行くのだと聞かされたときには少しばかり驚いてしまいました。
と、まあ。こんなに長々と私が地球に来た理由を語りましたが、どうしてここまで丁寧に説明するのだと思った人もいるのかもしれません。
私たちが生きている時代、西暦2245年は地球が大気汚染によって、簡単には入星することが出来なかったのです。
私とキアナも警察の警備を潜り抜けるようにスクーターを乗りこなしました。
夜なので、比較的には大気汚染は酷くないですが、きっと朝になったら私たちは死んでしまうくらいの醜い汚染でいっぱいとなるだろう。
そんな訳で、私たちはさっさとここを出て行かないといけないのだけど、どうやら未だに海は真っ黒で、私の頬に何が掛かれるか見れたものじゃない。
海の水に顔を映して、頬っぺに何が書かれているのか当たるまで、キアナとの出会いについて話とこう。
え、興味がない!?
まあ、短いので少しばかり付き合ってくれない?きっと聞いていて、面白いと思うわよ。
私たちは学園、そう共にAR34学園の生徒だった。
キアナと私は同じクラスだったのだけど、最初はキアナは孤立していた。
何故ならば、キアナの手はいつも青黒く汚れていたからだ。
別に虐待されていて痣になっているとかそう言うわけでは無い。
でも、そんな変なものがあればいい噂は出ないだろう。
キアナも周りから孤立して、ずっと一人だった。
いつも本を読むなり、何か空を見ながらボーっと考えていたのだ。
おっと、ここで質問があるのね。もちろん紙の本よ。タブレットにいれられたデータとしての本ではない、今では一部の物好きしか買わないと言われているあの紙の本なのだ。
これだけでもキアナが奇人であることは理解できるだろう。
でも、実際はもっと奇人だから安心して欲しい。
さて、さっきから気になっていることがあるだろう。
どうして虐待も受けてないのにキアナの手はいつも青黒く汚れているのか?
それは、黒川キアナの手は万年筆のインクでいつも汚れているからだ。
万年筆・・・19世紀にはもう消滅したも同然の古いペン。
インクを吸い込んで紙に描く。
キアナは私たちみたいに授業中に、パッドでノートを取るのではなく、紙のノートで内容をまとめて書くのだ。
どうしてそんな、めんどくさいことをするのか?
それは誰にも分からない。
あなたも考えて見て欲しい。パッドなら、ミスをしても戻るボタンを押すだけですべてが綺麗に出来る。
でも、万年筆だと消すことは出来ない。
ノートに書いたものは永遠にそこに残っているのだ。
そんな奇人、キアナと私の出会いは以外にも彼女の方からだったのだ。
「ねえ、あなたって実園ミア?」
「ええ、そうだけど……」
奇人と名が高い、黒川キアナに話しかけられて私は一瞬にして緊張した。
「あなたのお父さんの名前は?」
「……実園カイ」
「そう。それならいいわ」
そう言って、興味無さそうにまた本を読みだした。
この瞬間、私の黒川キアナへと関心度はぐっと上がった。
なぜならば私の父、実園カイに理由がある。
歴史の教科書とかに乗っているから、知らないわけないでしょうが実園カイは時代を変えた。
「チャットミー」と呼ばれる、対話型AIロボット。
それが世界へと与えた衝撃は計り知れない物だった。
時代は大きく変化して、チャットミーを使った装置がたくさんできた。
23世紀はチャットミーの時代とまで言われるようになったのだ。
そんな父のことを私は尊敬していたが、世間の人間はどうやら「尊敬」という言葉を使って私に近づこうとして来た。
つまりどういうことかと言えば、お父さんのことを尊敬しているだとか、お父さんのサインが欲しいだの、お父さんと会ってみたいだとか、もう嫌になるほどには話しかけてきた。
それに対して私はいつの日か諦めてしまった。
父が天才だから、これは有名税なのだと思うようにしたのだ。
だから、お父さんに近づこうとする人ともある程度は親しくしたけど、家に呼ぶほど親しくした人はいない。
みんなが会いたがっている私のお父さんのことを、唯一興味無さそうにしていたのが黒川キアナなのだ。
黒川キアナは私のお父さんが実園カイだという情報だけを知ったらあとは干渉してこなかった。
何日経とうとも、何週間経とうとも、何か月経とうとも。
いつの日か、黒川キアナは私にとってのオアシスとなった。
彼女のそばだったら、実園カイの娘ではなく、実園ミアとして生きることが出来たからだ。
黒川キアナは最初は私のことを興味無さそうにしていたけど、何度も何度も話しかけるうちに徐々に親しくなっていき、最終的にはいつも一緒にいるような仲になって行った。
いつの日か、キアナから古い万年筆を貰った。
キアナと私、2人とも万年筆と言う古い物を使うことで仲を深めて行ったのだ。
そんなある日のことだった。
学校が終わって、街を歩いていると宣伝用テレビから、割れんばかりの拍手が聞こえてきた。
なんだと思って見ると、お父さんが、実園カイが新作のチャットミーを発表していた。
私はお父さんがテレビで賛美されていい気分だったが、どうやらキアナは違うようだ。
「どうしたの??キアナすごい顔しているわよ」
「チャットミーが無ければ、化学が発展しすぎなければよかったのよ」
「なんで??今の生活があるのはチャットミーのおかげじゃない」
「昔のよき生活を破壊したのはチャットミーじゃないの!!」
「そりゃ、古い時代の生活なんて、いつか消えてしまうじゃない。」
「消えたりなどしない。復活させればよいのよ!」
キアナはそう言うと、再びまた歩き出した。
キアナと私の出会いについてはここら辺んで止めておこう。
再び、地球の小さな島での話だ。
「あ、映った!!」
「本当??なんて書いてあったの??」
「『キアナ、ミアのことが好き』」
その瞬間だった。
私は万年筆をポケットから取り出してキアナに刺した。
キアナは体勢を崩すと、そのまま海の中へと落っこちてしまった。
そして、体中から電流を放出すると、「ドカン!!」と、大きな音を出して爆発四散してしまった。
「やっぱり偽物じゃダメね。本物じゃないと心は埋まらないわ……」
そう、キアナは私がチャットミーを使って作った電気人形なのだ。
もちろん元から、機械というわけでは無い。本物のキアナもいる。
「キアナ、あなたがいるA4−12連邦刑務所ってあの星なの?ねえ、キアナ。私、あなたと一緒に語り合いたいわ。なんで私のお父さんを殺そうとしたのよ……」
そう、キアナは私の父、実園カイを暗殺しようとして失敗して、連邦刑務所に送られたのだ。
キアナは裁判で反科学主義なるものを主張していた。
科学が発展しすぎないように昔の物を取り言えたい、そのためには時代を変えた革命家、実園カイを暗殺しようとしたのだ。
……だけど。
高校生が考えた暗殺計画が成功するわけなくて、そのまま失敗からの裁判所送りとなった。
ああ、キアナ。あなたは何で私と仲良くしてくれたの?
キアナは私のことをターゲットに近づくための道具扱いだったの??
今となっては分からない。
キアナはいつ出所するんだろうか??
A4 -12連邦刑務所の方を見ながら私はため息を吐いた。
少女と万年筆 藍空べるつ @555hertzp
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