第5話 宣告
「政府が全ての第一落伍者の処刑を決定した。朔のところにも明後日政府の使いが行くから、引き渡してくれ」
いつものように向かった定期報告で告げられたその言葉に私は呆然とした。理解が追いつかない。頭に霞がかかったようで息が出来なくなる。
「いきなりのことで理解が追いつかなくても無理はない。君には長い間朔と過ごしてもらったから、きっと思うところも色々あるだろう。少し時間をあげるから、気持ちを整理するように」
そう言って旦那様は私を残して部屋を出て行った。
処刑される? 朔様が? この世界に誰よりも囚われず生きてきて、私の世界を変えてくれた朔様がこの世界の決定によって殺される。この世界の仕組みに朔様が敗北する。そんなこと、想像もできない。そんなことは、
――十数分、戻ってきた旦那様に私はいつも通り買い物に連れて行ってもらった。
いつもと差して変わらない私の様子に、旦那様は安心したようだった。朔様の処刑後も仕事は与えるから、心配せずともいい、とまで言って下さった。
最後だと言うことで、頼めば大抵のものが手に入った。いつもよりいい食材に、朔様が欲しがっていたCD全て。だからその花も、朔様が一度匂いを嗅いでみたいと言っていたと言えば、簡単に手に入った。
数時間後、私は屋敷に帰ってきた。
朔様に帰宅を告げた時、「何かあった?」と聞かれた時はドキリとしたが、何もないと告げるとそれ以上追及はされなかった。
「それより、今日はいい食材が手に入ったんです。夕食、楽しみにしていて下さい」
そう私が微笑んで言えば、朔様も、
「嬉しいな。楽しみにしてるね」と笑って応えてくれた。
次の日は一日中、朔様と一緒にCDを聞いて過ごした。新しいCDをとても喜んだ朔様は、ピアノも弾いて下さった。気まぐれで気分が乗ったときにしか弾くことのない朔様のピアノは、しかし、目が見えないとは思えないほど上手だった。いつも以上に穏やかな一日だった。
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