黎明

桜雨るび

第1話

肩を叩かれながら、透歌と呼ばれて私はイヤホンを外しながら姉・陽歌の方に顔を向けた。


 私の双子の姉、陽歌は成績優秀、容姿端麗、スポーツも出来るとまさに絵に描いたような人だった。中学生からまさに御三家と呼ばれている学校で成績など諸々上位にいる陽歌に、私は同じ双子の姉妹だけど別次元の人のように思っていた。そんな完璧過ぎる陽歌は学校以外でも絵に描いたような姿を持っていた。陽歌が中学生2年のとき動画サイトで歌ってみたを投稿したところ、音楽事務所に声を掛けられ、そっから今まで学業とも両立して活動をしていた。学校でも家でもその他の場所でもなにかと完璧な姿の陽歌を私は凄いと思うと同時に嫉妬をしていた。そんな完璧過ぎる双子の姉、陽歌と打って変わって私は陽歌よりもレベルの低い学校で、成績も中の下辺り、スポーツも平均ぐらいで姉に勝てることは、精々イラストが描ける事だけだろうか。いつも陽歌と比べられ、私達を知ってる周りの人からは透歌はね、と下に見られることから陽歌に私は嫉妬心を持っていた。


わたしの唯一の救いだったのはイラストが描けることだった。中学のとき好きな音楽のMVのイラストに描いてみたい思ってから下手でもイラストを描くことが楽しくなり、周りに褒められたりするぐらいには上手くなっていた。それに調子付いた私はSNSを始めた。#初投稿を付け投稿したイラストが伸びに伸びまくって100以上ののいいねが貰え、初めて陽歌に比べられずに自分が評価されたような心地に幸せを感じていた。そんなSNSを始めて、わたしを評価してくれると場所にハマると同時にわたしは陽歌がしていない色んなことに手を出していた。親はわたしが珍しく色んなことをやり始めたことに、最初は「えっ」っていう反応をしていたが、今までと打って変って楽しそうに色んなことをしているのを見たのか何も言わずにいてくれた。いつの日からかわたしのSNSにイラスト制作の依頼が来るまでになっていた。親も陽歌もきっとSNSを始めたことに気が付いてはいるけども、依頼を貰う程のアカウントを持ってるとも思ってもないだろう。きっと、家族の誰にも知られてないだろうことにわたしは心を踊らせていた。そんなある日、学校帰りに電車の中でいつも通りSNSを開いて好きなイラストレーターのイラストを見たりして暇つぶしをしていたら、DMに一件のメッセージが入っているのに気が付いた。それはわたしの大好きなアーティストのMVのイラスト依頼だった。電車の中なのを思い出して泣いて騒がなかったのを褒めて欲しいぐらい嬉しい出来事だった。そっからは新曲の音源を貰いそれに合わせて相手方からのイメージだったりを形にイラストに仕上げていった。なんというか、わたしにとって夢のような楽しかった時間で完成作品を見たときは音楽を再生していたタブレットを抱きしめていた。

その出来事から約1ヶ月だった頃、陽歌のアーティスト活動のチャンネルにわたしがイラスト制作を手伝った曲のカバーが投稿しされた。わたしは陽歌に嫉妬心を持っていたけれども、アーティストとしての陽歌には憧れを持っていた。そんな陽歌による曲のcoverのイラストは、他のイラストレーターがわたしのイラストに陽歌の活動イラストに付け加えをアレンジを加えたそんなイラストだった。わたしが描いたイラストを元にしたイラストも勿論素敵なものだった。それと同時にわたしは陽歌の歌うオリジナルでもcoverの曲どちらでもいいけど携わりたいと思い始めた。また、陽歌がcoverした曲を聞きながら、わたしは曲が出来るまで携わる楽しみにを噛み締め自分で1度全て作ってみたいとそう考え始めていた。その頃には陽歌に抱いていた嫉妬心は薄れ始めわたしから進んで陽歌に勉強なども聞くようになっていた。久しぶりにわたしから読書をしている陽歌に話し掛けたときの陽歌の嬉しそうな顔は忘れない気がしている。

そこからは早かった。音楽は聞くけど作るのに疎いわたしは動画サイトやネットなどで作詞作曲の仕方を昼夜問わずに調べ、どうにか完成させた。いつもなら放り投げていただろうことを遂行したわたしはどんなことも気にならない程満足感で満たされていた。そして山場という最後の関門。陽歌の前では決して歌ってこなかったわたしの歌で歌うこと。曲を完成させる中で1番緊張したと言っても過言ではないほど胸が音を立てながら録音をした。仕上げはわたしが用意をした海での女の子が手を伸ばしているイラストと録音した声を合わせて1つの作品をし仕上げること。全て終わった終わった達成感は今までに味わったことのないものだった。作品のタイトルは「黎明」。わたしを変えた曲だからとそっと呟いた。その作品をわたしは、スッキリした気持ちで陽歌のメッセージに送った。陽歌から返事が返ってくるまではドキドキして好きなイラストを描くとこもソワソワして集中出来なかった。待ちに待った陽歌からの返事はメッセージではなくバタバタとらしく無く走ってきた陽歌の口から紡がれた言葉に、嬉しくなって泣きじゃくっていた。そんなわたしを陽歌はそっと抱きしめてくれていた。


 次の日わたしは陽歌を誘って海に来ていた。わたしを変えるきっかけを作った曲、「黎明」を陽歌にカバーして貰い、投稿するためのアカウントのアイコンを陽歌に撮って貰いたかった。イラストの女の子のようにねっと陽歌にいたずらっぽく笑いかけたわたしは、「陽歌に撮ってもらうことのほうが大事だから」と言い捨てるように言いながら、スマホを陽歌に押し付けた。

わたしが手を伸ばした先でスマホを構えた陽歌は満面の笑みで頷いていた。

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黎明 桜雨るび @sakuraame23

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