病院に居た。受付を母親と妹が私に代わってしている。私は足の短い、淡い水色の椅子に腰掛けて待っている。他の椅子には入院着のようなものを着た老爺が座っている。恐ろしく淡く、手を伸ばせば消えてしまうのではないかと思う。

今は杖がやけにはっきりと視界の端に映っている。背にしている部分には窓がある。窓の外には渡りきれなかった横断歩道がある。やけに高い部分に病院がある。横断歩道はこんなに短かっただろうか。


気づけば、私は右足だけで立っている。杖がないのを心許なく思った。すると、後ろから女に声をかけられた。

知っている言語だ。けれど、理解できない。

私はこの女を知っている。知っている。憎い。怖い。強烈で鮮烈な恐怖だ。けれど誰なのかわからない。思い出すことを脳が拒否している。気持ち悪くなって、目の前が虹色になった。パステルの虹に脳が殴られたような不快感を覚えた。

結局何をしても不快。




しばらくすると母親に呼ばれる。誰だ、この女は。私はこの女を母親と思っているのか。けれど、どう考えても母親はこの女のはずだ。わからない。わからない。



母親に連れられ、ある部屋に入った。白い男がいる。医者だと言うふうに自己紹介し、話し始める。話を聞いていたけれど、興味がなかったからわからなかった。へえ、くらいに思う。

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