逃夜行
明遷
一晩目
不思議な街に居た。
全てがパステルの淡い色をしていて、今にも透けて消えてしまいそうだった。
私は杖をついている。そうだ、足が悪かったなと思う。私は深めにバケットハットのようなものを被っていて、この街でその帽子だけが黒かった。けれど真っ黒と言うわけではない。周りの淡い色に配慮されたようにぼやけた黒色だ。けれど、私の着ているシャツは真っ白で、今にも地面の白線と同化してしまいそうだった。その白い部分に触れると、きっとそこには何もないのではないかと思う。それから淡いピンクのようなカーディガンを着て、淡い青みがかったグレーのロングスカートを履いて、横断歩道の前で立っている。きっと信号が変わると待っている。
ところが信号は変わらない。目の前には果てしなく広い道路と、遠近法を間違えたような巨大なビルがそびえ立っている。やっぱり淡いグレーだ。こんなに都会なら、車の通りも多いのだろう。だから信号がなかなか変わらない。
けれど、いつまで経っても車は一台もやってこない。それどころか、私以外に人間を見かけない。やって来たのはたったの白猫一匹だ。まっさらな目だけがはっきりと黒く、それ以外は白だった。影の一つも見当たらない、完全な白だ。どこか不吉ささえ感じる。
しばらく猫を見つめていると、猫は不意に飽きたように道路の向こうへ走り去ってしまった。すぐに道路の向こうへ消えてしまって見えなくなった。
私も今なら渡って良いだろうか。きっと車は来ないのだから。
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