第3話

第3話「誰が風を裏切るのか」


瑞希は事態の進展に悩み、深夜まで照明がついたオフィスでデスクに向かっていた。周囲は静寂と暗闇に包まれ、彼女のオフィスだけが灯台のようにぼんやりと光っている。

突然、ドアが乱暴に開かれた。入ってきたのはジョンだった。

「瑞希、君のせいでこの会社は大変なことになっている。君のせいで私たちの評価が下がり、売却話が進む中、君は何をしているんだ?」ジョンの言葉は、瑞希に冷たく響いた。

瑞希は深呼吸してから答えた。「私は最善の策を考えている。売却が最善策だと思うなら、証明してみせてください。」

ジョンは怒りに震える唇で、「君の考えは甘すぎる。現実を見て!時代は変わっているんだ!」と叫んだ。

瑞希は力を込めてデスクを叩いた。「ジョン、この会社の未来は私たちが掴むものだ。売却で逃げることでは解決しない。」

瑞希の心臓は、ジョンの言葉の重圧により、無駄に早く打っていた。彼の言葉には、商売の厳しさ、そしてNMWコーポレーションの厳しい立場が伝わってきた。ジョンは、瑞希を角に追い込むような形で、出口のない部屋を去った。


「瑞希、大丈夫?」突然の声で、瑞希は気を取り直した。入ってきたのは、新谷義文教授だった。彼はMBAのプログラムを担当している著名な経営学者で、瑞希とは彼女が学生時代に彼のゼミを受講していたときの師匠だった。

「教授、こんな時間に何しに…?」

「心配してきたんだ。最近の動き、すぐにピンときた。」

新谷は、穏やかな笑顔で瑞希を見つめた。その目には、どんな困難な状況でも、それを乗り越える知恵や経験が詰まっていた。

「ジョンの言うことも分かる。でも、売却は短期的な策に過ぎない。瑞希、君はこれまでNMWをどう考えてきたか、それを見失ってはならない。」

彼らの会話は夜更けまで続いた。新谷の言葉に、瑞希は新たな勇気と希望を見いだす。


翌日、瑞希は父の経営するすし屋に足を運んだ。常連客としている桜井信夫が、カウンターでにっこりと微笑みながら、彼女を迎え入れてくれた。

桜井は、元大日本興行銀行の頭取として、数多くの企業の経営を支えてきた人物だった。「瑞希ちゃん、最近の状況を聞いているよ。」

彼は、瑞希の頭を撫でながら、商売の厳しさや大切さについて、また、現在の状況をどう乗り越えるかについて、語りかけてきた。


数日後、瑞希の元にまたもや予期せぬ来訪者があった。それは、NMWコーポレーションの元日本支社長、川端隆史だった。

彼は、自身の経験やノウハウ、そして資金面でのサポートを申し出てきた。「麻生、君の夢を共有してくれる人たちは、決して少なくないんだ。」

瑞希は、新たなサポーターたちの力を借りながら、ジョンと対峙する覚悟を固めていくのであった。

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