苛つき、掴む
大抵のことが少し頑張ればできた。
それに興味がなくても、本質を理解していなくても。
単語をなぞるだけの暗記が人より少し得意だった。
記述問題だってそれらしい言葉と言い換えで突破できる。
だからぶち当たった壁への対処法は知らない。それへの成功体験もない。今までそういうのは全部時間が解決してくれたから。
だから私の右胸には成績優良者のバッチが銀色に輝いている。
第一印象はきっと全部バッチに持っていかれるくらいそれには存在感があって、私にはない。
それにも不満はない。
でも、「念写」なんて初等魔法が使えない私にこのバッチは似合わない。おかげで右胸の布は皺だらけだ。
「再テストだって。」
ただただ情けない声で吐く。
「ドンマイ。お疲れ様。」
額縁の中で輝く彼女は私の劣等感を加速させる。白いヘアバンドは気高く光を反射した。気心の知れた友達だけれど今の私には不釣り合いじゃなかろうか。
私が魔法をかけた時初めて正面を向く彼女。どうして明るい花を背景に負ってそれ以上に美しく在れるのだろう。短く切りそろえられた髪を揺らす風さえも彼女のための舞台だった。
それが書き込まれたキャンパスの裏。むしゃくしゃして今日は覗いてみる。額縁を両手で支えて回り込んだ。
「あ、ちょっと勝手に覗かないでよ。」
彼女の近くにありながらその視界が及ばぬ範囲にあるもの。
裏には「兵郷 展」とネームペンらしきもので記名されていた。ぎりぎり読める程度の大きさで控えめな印象を受ける。
「あれこれ一般科の生徒じゃん。」
裏をまじまじ見つめながら彼女にカマをかける。本当は見た事のない名前だけどちょっと気になってしまったから。
「そうよ。私を描いた主人は魔法使いなんかじゃない。」
裏面を見られたのを諦め、ため息のように言う。
「魔法使わなくてもこんなことができちゃうんだあ。」
「あんたは魔法使ってもできないものね。」
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