貴方の心の目安箱【短編集】
yokamite
ヘヴィノベルはドレスコードのある高級料理店
どうやら、昨今の文芸界隈においては所謂「ライトノベル」が流行っているようだ。恥ずかしながら、僕はその手の小説をほとんど読んだことがない。そもそも、ライトノベルの定義ってなんだろう。文章の読みやすさ? 内容の分かりやすさ? 設定の受け入れやすさ?
いずれにせよ、老若男女問わず万人にウケている現在のライトノベルは、食べ物で例えるなら場末の年配店主がやっている床が油でギトギトになったラーメン店か、マク〇ナル〇やK〇Cなどのジャンクフード専門のチェーン店といったところか。早い・安い・ウマいの三拍子揃った、何を頼んでも取り敢えず及第点は叩きだせるレベル。週一、あるいは月一くらいでたまーに食べたくなるんだよなあ。この例えが的外れじゃなけりゃ、ライトノベルが人気なのもまあ頷けるよ。
対して、所謂「純文学」とか「一般文芸」とかいう風に言われる、お堅い小説ってもう人気がないのかな。一般とか言う割に、今となっちゃ特殊形態というか、例外的に取り扱われている気がするのは僕の勘違いか?
どちらかというと、僕が小説を書くときは後者の作風に傾倒してしまうんだよね。面倒臭いから、ここはライトノベルの対義語として「ヘヴィノベル」と呼称させてもらうね。ほら、ヘヴィメタルみたいでなんか親近感湧くでしょ。──え、ヘヴィメタ嫌い? じゃあここはスルーで。
拙作を普段から愛読してくださってる有難い読者様なら知っていると思うけど、本来僕はこんな喋り方じゃない。それこそもっとお堅い感じ。それが作風にも表れちゃうもんだから、僕の作品は基本的に今日のライトノベル好きには刺さらない。悲しいことに「もっと人気になりたいなら小難しい書き方なんてやめて、読者に寄り添った方が良いよ(意訳)」なんてコメントを受ける始末さ。度し難いのが、それが芯食った意見だと僕自身認めちゃってるってこと。
でもさ、ライトノベルがもし、手頃な価格で手っ取り早く美味しい物が食べられる店のような感覚だとしたら、ヘヴィノベルの方は、スーツやドレスでかっちりキメて、姿勢を正して行儀良く食べるようなフルコースが出てくる高級料理店って感じがしないか? 美化し過ぎ?
そりゃ値段は高いわ、量は少ないわ、気疲れするわの三拍子そろって満足度低いんだって気持ちも分かるよ。うん。それでも、一度は人生経験だと思って華々しい世界に飛び込んでみるのも良いかもしれない。ライトノベルをあまり読んだことがないと白状した僕が言っても説得力ないかもしれないけどな……。
なにせ、ジャンクフードばっかりじゃ身体にも悪い。だってライトノベルという名のチェーン店には、店ごとに多少の味の変化はあっても、決まったメニューしか置いてないんだもんな。異世界ハンバーガー、悪役令嬢スパゲティ、RPG風ステーキ、後はエロえろ工口のドリンクバーでしょ。そんな茶色いもんばっか食ってたら創作の世界では長生きできないだろ。
ああ、今のは全部僕の偏見だよ。真に受けないでね。ただ、皆が同じものばっかりを食べ続けるってことは、店の方も商売だからさ、客の入らない料理店が軒並み潰れていくってことだろ。僕のようにヘヴィノベルを書いている競合店がどこにも見当たらないのは、まさにそういうこと。
だから小説の書き手、表現者は皆が
何かと多様性多様性って叫ばれる世の中だからさ、皆書きたいもの書こうよ。「いや、書きたいものがライトノベルなんだよ!」って人は大いに結構。僕は好きとも嫌いとも言ってないからね。ただ、世の中に異常な数の異世界が溢れかえったらどうなると思う? 「ざまぁ」だっけ? あれって後何回見たら皆は飽きるの? その作品、本当に感情移入できてる?
折角さ、皆の目の前には、好きな店にひとっとびできるパソコンだのスマホだのっていうどこでもドアがあるでしょ。それ開いてさ、今日のご飯は違う店にしてみないか? 案外口に合って、リピートしちゃったりしてな。
ああ、今更になるけど、この作品を通じて僕が主張することは全て持論に過ぎない。正しいとも間違ってるとも言うつもりないし、物事に批判的な意見を呈する身として、カウンターの批判はむしろ望むところでもある。だから怒らないでね?
──おしまい。
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