第7話 ははははは、冒険者科を甘く見ないでくれたまえ!
朝6時、私はアラームが鳴った瞬間目を覚ました。寝起きがいいのは私の超特技。
サツキは夜中に運動会してることもあるし、朝起きたときはまずいない。ヤマトは私の足下で、のびのびと仰向けで寝ていた。あ、よだれ垂れてる。
うう、可愛いね……可愛いね……撮影しておこうね。後でSNSに上げよっと。
枕の横に置いてたスマホ取って、すかさずヤマトの寝姿を何枚も撮影。うん、可愛い可愛い。伸びてる姿も、顔のアップも可愛い。
昨日はヤマトに噛まれた後、入念なストレッチをしておいたから、さすがにふくらはぎに張りは感じるけど筋肉痛にはなってない。
これぞ、専攻分かれる前の冒険者科の授業の賜物だよー。
毎日ランニングはさせられるし、体育の授業も毎日だし。ランニングと体育の後にはみんな揃ってプロテイン飲んでるし、どこの何味が美味しいとかそういう情報が飛び交ってるし。
プロテイン、女子の間では入学直後からついこの前までZAVASのミルクティー味が人気だったんだけど、MATPROTEINのピーチマンゴーが今は一番人気。
運動の後の吸収率ならホエイプロテインがいいっていうけど、「腹持ちが良くてイソフラボンが入ってて、美容にもダイエットにも効果有り」となったら女子はソイプロテイン飲むに決まってるよね。
うちの学校の自動販売機、牛乳だけ売ってるやつが3つ並んでる。もちろんプロテイン作るときに使う奴。みんなロッカーの中にはマイプロテイン置いてるし。
……考えてみると異常だな。でも冒険者科だからおかしくて当たり前なのか。
「ヤマト、おはよう~。今日も可愛いね~」
私は寝てるヤマトのお腹に顔を埋めて犬の匂いを堪能してから、ヤマトの小さいお顔を手でもしゃもしゃした。ヤマトは驚いちゃったみたいで「ゥオン!」って吠えたけど。
うんうん、起きた後、「あれ? ここどこ」みたいな顔して辺り見回してるのも可愛いねー。
「ヤーマト、おはよう。ちゃんと憶えてるかな? 君のマスターの柚香だよ」
「アウン!」
ヤマトはぶんぶんと尻尾を振って、私の顔をべろべろなめ回す。ふふっ、くすぐったいけど幸せー。
「顔洗って着替えてくるから待っててね。朝のお散歩に行こう!」
「ウーワン!」
私が何か言う度に、嬉しくてたまらないって顔をしてヤマトは頭を低くしてバタバタする。
ランニング用のトレーニングウエアに着替えて、顔を洗って髪をポニーテールに結う。部屋から出るとヤマトも一緒に付いてきた。
「おはよう、ユズ。はい、ハグー」
「おはよう、ママ。はい、ハグ~」
ママはもうキッチンで朝ご飯とお弁当の準備をしていた。
朝起きたときにハグをするのは我が家でのお約束。小さいときから変わらない。喧嘩しててもこれだけは必ずすることになってる。
だから我が家は仲がいいのかな?
「ユズ、昨日ヤマトをケージから出したでしょ。ケージに慣れさせないといざというときヤマトが可哀想なんだからね」
「ごめんなさい。キューキュー寂しそうに鳴いてたからさー」
「可愛がるのと甘やかすのは違うってのを憶えときなさいよ。あと、謝る相手はママじゃなくてヤマト」
「う~、ごめんねえ、ヤマトぉ。少しずつケージも慣れていこうね。あと、首輪とリードもね」
ソファの上には昨日パパが仕事帰りに買ってきてくれた首輪とリードがある。どっちも普通のだけど、大丈夫かな……。
「ママ、ヤマトめちゃくちゃ力強いんだけど、リードで平気だと思う? ハーネスの方がいいかなあ?」
「リードでダメだったら考えなさいよ。それより見て見て!! この首輪めっちゃ可愛くない? ここのお店の手作りの首輪可愛くて、これとこれとこれ、寝る前に買っちゃった!」
「もう買ったんかーい!」
ママが見せてきたスマホの画像は確かに可愛いけど、パパが買ってきた首輪があるのに3つも買うのは衝動的すぎやしないだろうか。……まあ、うちのママってこういうノリで生きてるところがあるけど。
「あ、そうそう。昨日のユズの動画、50万再生超えてるよ」
「はいっ!?」
リビングでストレッチをしていたら、とんでもない言葉が聞こえてきた。
え、嘘……。そういえば昨日配信終えた後、何も確認してなかった……。
ヤマトが可愛くてそっちに夢中になってて、完っ全に忘れてた。
慌てて
一晩で? 50万回? 世界中の人は暇なの?
「ちなみにママも4倍速で2回くらい見た」
「犯人がここにいまーす!!」
……そうだよ、私のアップした動画は、いつだって一番回数見てるのママなんだわ。小学生だった私が実況動画やりたいと言ったときに、動画編集を教えてくれたのもママだし。
ストレッチは最後にフォワード・アンド・サイドランジからレッグスイングをして、走るのに使う筋肉をほぐし、体を温めてウォーミングアップ。
首輪とリードを付けてもヤマトは嫌がらなかった。
お水の入ったペットボトルと、ビニール袋とスコップの入った犬のイラスト付きの小さいトートバッグを渡される。
あ、お水は私用じゃなくて、ヤマトがおしっこしたときにそこに掛ける奴ね……。凄いなあ、昨日私がヤマトをテイムしてから、どんだけ爆速でいろいろ揃えたんだろう。
「7時までには帰ってきなさいね」
「イエスマム! じゃ、ヤマト、行こうか!」
「ワンッ!」
私に向かってびょんびょん飛び跳ねてヤマトが喜ぶ。
そして家を出てからだいたい5キロほど、ダンジョンの時みたいな無軌道な爆走じゃなくて、時々飛び跳ねて喜ぶヤマトと私は朝のお散歩という名のランニングを楽しんだのだった。
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