第11話 初登校!
翌日。
今日から、本格的な高校生活が始まる。
昨夜は不思議と、よく眠れたな……帰宅してから、少しだけとはいえ寝たから、あまり眠くはならないかと思っていたが。
「あら、おはよう」
「おはよう」
今日から新生活とはいえ、なにがどう変わるというわけでもない。
いつも通りの、光景だ。
起きて、顔を洗って、歯を磨いて、朝ご飯を食べて……
今までと違うのは、腕を通す制服と、鞄くらいだ。
「じゃ、いってきます」
「えぇ。頑張ってね」
その「頑張ってね」には、いろいろな意味があるのだろう。
俺は家を出て、学校へ向けて登校する。
これまでとは違う、新しい道……なんとなく、真新しい気分だ。
これからは、ほぼ毎日この道を通ることに、なる。
「……お」
しばらく歩いていると、前方に見知った後ろ姿を見つけた。
あの歩き方、そしてその隣の小柄な少女は……
隣とは言っても、不自然なほどに距離が開いてはいるが。
「おはよう、二人とも」
「わっ、びっくりした」
音もなく二人の背後に忍び寄り、俺は声をかける。
そのうちの一人……あいは、肩を跳ねさせてわかりやすく驚く。
「こ、光矢クンか……びっくりした」
「よぅ、おはよう」
「おぉ」
「お、おはよう」
二人の間に不自然な距離があるため、俺はその隙間へと収まる。
不自然に距離が出来ていたというよりは……わざと、開けていたんだろうな。
「一緒に登校とは、仲が良いんだな」
「……光矢クンそれわざと言ってる?」
あいが、顔をしかめる。鍵沼も、同じような表情をしている。
まあ、わかっていたことだが……それにしたって、わかりやすいな。
「家が隣同士だと、こうなっちまうだけだよ」
「あんたが家を出るタイミング遅くすればいいのよ」
「なんで俺が!」
家が隣同士……家から学校へ行く時間を考えれば、自然と家を出る時間も決まる。
同じタイミングで家を出れば、二人が家を出る時間が重なるタイミングは被りやすい、ということだ。
二人ともぎゃいぎゃいいがみあっている。
中学が別だったのなら、こんなこともなかったのだろうか。
「ほら二人とも、じゃれてないで行くぞ」
「じゃれて!」
「ない!」
息ぴったりじゃないか。
二人は、駆け足で俺の両隣に並ぶ。
「ところで、昨日はちゃんとさなちゃんを、家まで送った?」
「もちろんだ」
あいが、昨日のことを聞いてくる。
やはり、気にしていたのか。
俺は、紳士な男だからな。やることは最後まで、ちゃんと責任を持つさ。
あいは、俺の答えに満足したかのように、うなずく。
「そっかそっか。
ま、昨日のことは電話で聞いてたから、光矢クンがちゃんと送ってくれたって言うのは知ってたんだけどね」
「電話、か」
あいとさなは、中学からの友人同士……しかも同性なら、互いの連絡先を知っていても、不思議はないか。
二人がどんな会話をしたのか、興味はあるが……
それは、プライバシーというものだ。
気になるが、むやみな詮索はしないでおこう。
「真尾は、如月さんと連絡先交換したのか?」
「アホか。初日からいきなり、そんなことはできん」
「……俺バカなのかな。連絡先聞くより公開告白のほうがよっぽどレベル高いと思うんだけど」
「光矢クンってちょっとずれてるのかな……?」
俺が、ずれている……?
今までそんなこと、考えたこともなかったが……
昨日の周囲の反応、それに両親の反応……俺は、ずれていたのか?
「あ、さなちゃんだ」
「なんだと!」
あいの言葉に、俺は視線をあげる。その視線の、先に……
……美しい黒髪が、輝いているようだった。
姿勢正しく歩いている、少女……
後ろ姿だけで、彼女がどれほど清純な人物か、見て取れるようだ。
あいは駆け寄っていき、その背中に抱き着いた。
うらやましい。
「おっはよー、さなちゃん!」
「きゃっ……お、おはようあいちゃん。
びっくりした……」
……あいのやつ、俺にびっくりしたとか言っておきながら、自分でも似たようなことをしているではないか。
俺たちは、あいを追いかけるようにして、二人に近づいていく。
「あ……お、おはようございます、光矢くん。鍵沼くん」
「あぁ、おはよう」
「おはよう、如月さん!」
さなのやつ、鍵沼にもちゃんと挨拶するとは……いいやつだ。
別に無視しても構わないだろうに。
意図せず、昨日途中まで一緒に帰ったメンバーが、合流した。
「はー、毎日家を出たらさなちゃんがいてくれたらいいのに」
「お前な……」
「まあまあ、二人とも……」
おそらくだが、これからはこういう風景が、普通になっていくのだろうな。
騒がしいというか、賑やかというか……いいな、こういうのも。
これまでは、たまに登校中に鍵沼に絡まれる形だったし……
「あれ、真尾なんか楽しそう?」
「そうだな。お前がいじられている姿を見るのは、悪くない気持ちだ」
「ひでぇ!」
初めて歩く道も、やがては慣れ親しんだ道へと変わっていく。
こういうのも、悪くはないな。
「私、男の子と登校するの、ずいぶん久しぶり……」
「私もそうかなー。女子校だと、そんなこともなかったしね」
「俺は男なんですけど!?」
会ったばかりのメンバー……だが、会話が途切れることは、なかった。
学校に着くまでの時間は、あっという間だと感じるほどに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます